レベッカを探せ 3 〜キング一家の旅 6 <完>

 コンコンコンコンコンコンコンッ!!


 俺は扉に取り付けられたドアノッカーを乱暴に連打した。何故連打したか?それは焦りの為である。


 クズ兄貴と変態親父が担ぎ上げているアバズレ女はさっき袋の中で呻いていた。

ひょっとすると睡眠薬の効果が薄かった可能性がある。とにかくリーゼロッテが目覚める前に全てを終わらせなくてはならないのだ。


「随分乱暴に扉を叩くなぁ…」


「ああ、全くだ。それ程早くここを利用したいのかもしれん」


何?


俺は動きをピタリと止めた。


「おい…親父。今…何と言った?」


ギロリと殺意を込めた目でくそったれ親父を睨みつける。


「な、何だ?アレックス。父に対してそのような目で睨みつけるとは…?」


親父は俺の視線にビビッたのか、腰が引けている。


「うるさいっ!今俺に対して何と言ったか聞いてるんだっ!」


「だ、だから…それ程早くここを利用したいのか…と…」


「ふざけるなっ!俺は一度たりとも娼婦を相手にしたことも無ければ、この先もずっと相手にすることは無いのだっ!今の俺はレベッカ一筋だからなっ!」


その時―。


「一体何なんだいっ?!さっきからうるさいねえっ!」


ガチャリと扉が乱暴に開かれ、1人の中年女が姿を現した。

その女の着ているドレスは胸元が大きく開き、まるで下着姿同然である。


「おや?へ~…これはこれは…まさか客が3人もまとめて来て下さるとは…」


中年女は俺たちが客だと勘違いしたらしく、突然営業用スマイルへと変貌する。


「いや、俺たちは客では…」


俺は口を開くも、中年女は聞く耳を持たずに一気にまくし立てる。


「さぁさぁ、どうぞお入り下さい。当店は年齢幅が広いですよ?下は15歳から上は50歳の熟女まで揃っております。ちなみに一番人気はやはり20代前半ですよ。やはりこの年代の女が一番背徳感が薄まるのでしょうねぇ」


俺はその年齢幅に驚いた。


「おい!待てっ!今、下は15歳と言ったな?は、犯罪じゃないかっ!」


「私はそれより50歳の熟女に驚いておる。あ、別にその熟女に興味があるわけではないからな?」


ああ、そうだろう?ロリコン親父は何と言っても17歳のレベッカを嫁にしようともくろむ変態なのだから。


「いや、俺たちがここへ来たのはここを利用する為ではない」


「おや?それなら何しにいらしたんです?」


そこで俺は背後にいる2人を振り返った。


「おい、2人とも。麻袋を下ろして中から出してやれ」


「何だよ、偉そうに…」


「全くだ。命令しおって…」


くそ兄貴とロリコン親父はブツブツ文句を言いながら麻袋を床に下ろすと、袋の口をシュルリと解いた。



「まぁ…これは…」


中年女は床の上で寝こけているスケスケ下着女のリーゼロッテを眺めた。


「どうだ?この女…買い取ってくれ!」


俺はいきなり本題に入った。


「はぁ?!」


中年女は目を見開く。


「どうだ?一応こんななりをしていてもこの女は元・侯爵家の娘。年齢は23歳。一番油の乗った年齢だろう?」


「全く…いきなり買い取ってくれなんて…言っておきますけどね、最初の内は仕込みをしなくちゃならないので、殆ど稼げないので新人はマイナスなんですよ。マ・イ・ナ・ス」


「それなら安心しろ。この女は仕込みの必要など全くない。男とみれば誰にでも簡単に股を開くようなアバズレ女だからな。しかも最近は欲求不満の塊だから喜んで男の相手をするぞ?どうだ?今なら金貨5枚で売ってやろう」


「何っ?!金貨5枚だとっ?!」

「これはまた随分と大きく出たねぇ…」


2人は無視して俺は続ける。


「どうだ?お買い得だろう?」


すると中年女は言う。


「何言ってるんですっ!最近流行りの娼婦はねぇ…清楚で可憐なイメージが受けるんですよ。アバズレ女なんて逆に敬遠されるだけです」


「何だってっ?!そうなのかっ?!」


くっそ~…俺の目論見が外れた。すると呑気な兄貴がとんでもないことを言った。


「おかみさん、この際お金はいりません。とりあえず、この女性をここで働かせてやって貰えませんか?」


「ええ、ならうちは構いませんよ」


途端におかみは笑顔になる。


「おいっ!ランスッ!何を言うっ?!」


「このくそ兄貴!余計な事抜かすなっ!」


親父が同時に文句を言う。


その時…。


「うう~ん…」


再びリーゼロッテが呻いた。


ま、まずい…!マジで目を覚ますかもしれないっ!


「わ、分かった!この際、ただでいいっ!ただし、二度とこの娼館から出さないでくれっ!」


「ええ、それくらいならお安い御用ですよ?」


にっこり笑うおかみ。よし、交渉成立だっ!


「それじゃ、行くぞっ!2人ともっ!」



そして俺たちは娼館にリーゼロッテをタダで引き取らせて再び馬車に乗り込むと、まだ夜が明けきらぬ暗い森の中を再び馬車を疾走させた。


外洋をつなぐ玄関口『ラメール』の港町を目指して…。


待ってろよ、レベッカッ!


例え地の果てまでもお前を探し続けるからな―っ!




<完>

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