エリザベス・ヤングの語り
『グランダール』の村を出て、早いもので10日が経過していた。
私達は今、『カタルパ』という森の中にある小さな村に滞在していた。何故この村に滞在しているかと言うと、それは路銀がここで尽きてしまったからである。そこで私達はこの村にある唯一の宿屋兼、食堂を兼ねた店で親子で働いていた。
「はい!1番テーブルのお客様に『ハンバーグステーキのキノコソース和え』をお願い!」
厨房に入り、私は今注文を受けたメニューをシェフに伝える。
「オッケー!エリザベス!『ハンバーグステーキのキノコソース和え』だな?承った!」
シェフは言うと、鉄のフライパンを取り出して火にかけると熱しだした。
「おい!おやじ!早くキノコの石づきを取ってくれよ!注文が間に合わないだろう?!」
「う、うるさい!私だって精一杯頑張っておる!」
父はシェフに怒鳴られながらも慣れない手つきで石づきを取り除いている。
「ジョセフィーヌ!皿が足りなくなってきただろう?!チャッチャと洗ってくれ!」
さらにシェフは姉に向かって怒鳴りつける。
「分ってるわよっ!」
姉はやけくそのように食器をガチャガチャ洗い出した。少しの間、2人の働く様子を見ていたけども、ハッと気付いた。大変だ!今ホールには男に色目を使うしか能の無い役立たずのエミリーが1人で働いているのだった!すぐに戻らなくては!
私は急いでホールへ戻ると、早速トラブルが勃発していた。
「おい!姉ちゃん!何度言ったら俺のメニューを覚えるんだっ?!いいか、俺の料理は『森のキノコとイノシシの素敵な出会いのハーモニーグリーンソース和えハンバーグ』と『トマトとオニオンバジル和えのレモン風味ブルスケッタ』だ!しかもさっき水を運んできた時、俺のズボンに水をこぼしただろう?!」
エミリーを怒鳴りつけているのは頭がつるっぱげでまるでチンピラのような男だった。体型はかなり筋肉質で、無理やり小さなシャツにボトムスを履いているのかパツンパツンでちょっと力を入れれば今にも服が破けてしまいそうである。何故あんな服を着ているのか理解に苦しむ。しかも顔を真っ赤にさせて怒っている姿は何だかゆでダコのようにも見える。
「す、すみません…」
エミリーはブルブル震えているが、決して怖がって震えているのでは無かった。笑いを堪えているのであった。きっとエミリーの目にも目の前のハゲ男がゆでダコの様に見えるのだろう。
「おい!すみませんじゃねえ!俺の料理覚えたのかよ!」
ハゲ男は震えて俯いているエミリーに再度怒鳴りつける。周囲にいる男の客達は恐ろしいのか誰もが口を閉ざしている。
「は、はい。料理名は…キノコソースのイノシシステーキと、ゆでダコのマリネでしたよね?」
エミリーは全く見当違いのメニューを口にした。
「こらあっ!!メニューの名前が全然違うだろう?!それに何がゆでダコだっ!それを口にするなっ!俺はなあ、以前にもここで出会った女にゆでダコ呼ばわりされてんだよ!!それなのにまたゆでダコって言ったな?!」
ついにハゲマッチョが切れてしまった!何とか場を収めなくては!慌ててエミリーの元へ駆けつけようとしたその時…。
「やめろっ!!」
よく通る声が店内に響き渡った―。
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