エミリー・ヤングの語り
私は今、非常に大ピンチに陥っていたの。だって目の前のハゲマッチョのゆでダコ顔の男が激しく怒鳴りつけているのだから。だいたいどうしてそんなゆでダコ顔をしているくせに、お上品な長ったらしいメニューを注文するわけ?この私に覚えられるはずないでしょう?それに何故皇女の私が働かなくちゃならないわけ?こんな事ならあれこれ注文付けずに国が滅びる前に何処かの国へ嫁いでいれば良かったわ。ああ、レベッカが羨ましいわ。でも待って。よく考えてみればグランダ王国も滅びてしまったじゃない。だから私達はこんな状況に陥っているのじゃなかったかしら?
それにしてもうるさいわね。目の前のタコ男はまだ喚いているわ。
「こらあっ!!メニューの名前が全然違うだろう?!それに何がゆでダコだっ!それを口にするなっ!俺はなあ、以前にもここで出会った女にゆでダコ呼ばわりされてんだよ!!それなのにまたゆでダコって言ったな?!」
タコ人間が腕を振り上げてきたわ!
イヤアアアッ!!
思わず心の中で叫んだ時―。
「やめろっ!!」
凛と響き渡る素敵な男性の声が響き渡ったわ。
「え…?」
見ると、貧乏人そうな服を着ているけれども何処か凛々しいお姿の若く美しい男性がタコ男に向かい合っているじゃないの。
「誰だ?お前っ?!」
タコ人間が喚いたわ。
「誰がてめえのようなクズに名乗るかよ!このバーカッ!!狭い店で暴れるんじゃねえっ!!折角の飯がクソまずくなんだろっ!!暴れるならその女を連れて外で暴れろよっ!!」
ん?気の所為かしら…?あの御方の言葉遣いが少々乱暴に感じる気がするのだけど?
「な、なんだとっ!!てめえっ!!やるっていうのか?!」
タコ男の顔が真っ赤になっていくわ。
「ふん!俺は貴様のようクズは相手にしたくねーよ。ただ店内でうるさくするなって言ってんだ。第一用があるのはあの店員だろう?」
「うるせえっ!今はてめえのほうが気に入らんっ!」
彼は私のことを顎でしゃくってきたわ。ちょっとこれはあんまりな仕打ちじゃないかしら?だけど彼のお陰でゆでダコ男の注意が私からそれてくれたわ。
「エミリーッ!」
そこへエリザベスお姉さまが駆けつけてきたわ。
「だいじょうぶだった?」
お姉さまは私の肩に手を置くと声を掛けてきたわ。
「ええ、何とか…あのお方が…助け…」
でも本当に彼は助けてくれたと言っていいのかしら?だって今もあのタコ人間に文句があるならあの女に言ってくれとこちらを指差して言ってるし…。
そんな彼らをお姉さまは忌々しげに睨みつけているじゃないの。
「全く邪魔なお客ね…何処かへ行ってくれなかしら。これじゃ商売あがったりだわ。」
お姉さまはすっかりウェイトレスが板についていしまったようだわ。でも私は嫌よ。だって仮にも皇女だったのに。ああ…誰か皇子様が私を迎えにきてくれないしら?店の奥では先程のタコ男と男性が大声で罵り合っているし…。
「アレックス、もうそのへんでやめておきなよ」
その時また別の男性の声が聞こえてきたわ。え?まあ…あのお方…すごくハンサムだし、とても優しそうに見えるわ。
「うるさい!ランスッ!口を挟むなっ!!」
「何だ?貴様…この男のつれかぁ?」
タコ男が今度はあの優しげな男性にイチャモンをつけはじめたわ!するとそこへ…!
「お客さん!!いい加減にしないと帰ってもらいますよっ!!」
食器洗いをしていたジョセフィーヌお姉さまが現れたじゃないの!しかも手には大きなフライパンをもっているわ!そしてあろうことか彼らに向かって投げつけるじゃないの。
ヒュッ!!
ゴンッ!!ゴンッ!!
何とお姉さまの投げたフライパンは最初にタコ男の頭を直撃したかと思えば、跳ね返って次にハンサム青年の頭を直撃してしまったわ。そして物言わず崩れ落ちる2人の男性。そんな彼らを冷静な目つきで見る姉のジョセフィーヌ。するとそれを見ていたランスと呼ばれた青年がジョセフィーヌお姉さまに声を掛けるじゃないの。
「へ〜…君、なかなかやるね?」
「そう?ありがとう?」
まんざらでもなさげに返事をするお姉さま。
もしかしてこの2人は…?
私には何となくこの2人の恋の予感を感じたけれど、気の所為かしら―?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます