第十四章 男たちは征く

第584話 家出計画

 この国でコソコソとするのは初めてかもしれねえな。


 俺たち四人は人目を避けるかのように、城の庭の隅で話をしていた。


 まあ、コソコソと言っても、この場にいるメンツで注目されるなってのも無理な話だけどな。

 城の女官や騎士たちが遠目でボソボソとこっちを見ながら話をしている。気にしているのだろう。

 だが、それに構うことなく俺は話した。


「待ってくれ、ヴェルトくん。それではアルーシャが……」

「ああん? だって、昨日のは理不尽だろうが! いっそのこと、本気で俺が嫌になったぐらい匂わせて、少し反省させりゃいいんだよ」

「だからって、半年ぶりに会えたアルーシャを放置して家出をするなんて!」

「家出じゃねえよ。チェーンマイルに行く用事があったから、それを俺はあいつらに言わずに行ってくるってだけの話だ」

「チェーンマイルって……クレオ姫にも内緒に?」

「ん? だって、あいつ帰る気ねーんだから、言っても仕方ねえじゃん」


 俺の言葉に慌てて反対してくるロアを含めて、この場にいるバーツとシャウト。


「いや、ヴェルト、反省って言っても、嫁を一人増やしたお前も悪いだろ?」

「それに、僕も昨日はホークを傷つけてしまったし」

「だーかーらー! もう、そういう女絡みのゴタゴタが俺ももう嫌になったし、バーツもシャウトも思うところはあんだろうが。だから、ちょっと息抜きも兼ねて遠くに行こうぜって話してるんだよ」


 昨晩の女たちの理不尽な被害者となった俺たちは集まり、しばらくはあの女たちと距離を置こうと俺が提案。

 俺なんて、今までコスモスとハナビに囲まれて嫁のいない生活を満喫していたのに、嫁が半分帰ってきただけであのザマだ。

 正直、ちょっとあいつらを困らせて反省させてやりてえ。

 だが、俺と違って優等生なこいつらは、あまり乗り気じゃなさそうだ。


「でも、僕はアークライン帝国の王子。国に戻ってやることもあるから、そんな自由はないよ」

「俺も騎士団の仕事あるし」

「僕も同じだよ、ヴェルト。ましてや、君がフラッとどこか行くなんてそれこそ大問題だよ」

「んだよ! だから俺の護衛とかなんとか理由つけて来いって誘ってんじゃねえかよ。でも、俺は一人ででも行くからな! しばらく家に帰んねーからな!」


 俺はもう決めていた。正直、嫁が増えた俺にも責任あるが、あいつらはあいつらで結託して、最近理不尽すぎる。

 っていうか、あいつらの要求ばっかに応えてると、俺は普通に早死するぞ。

 だから、こういう冷却期間も必要だ。そして、それが今なんだ。


「行くのは、チェーンマイル王国の南の海に浮かぶ島。『サバス島』。そこに、『ケヴィン』って漁師が居る。訳あって俺はそいつに会いに行く。お前ら来ないなら、みんなにそう言っておいてくれ。少なくとも、先生はそれで分かるからよ」

「待ちたまえ、そもそもチェーンマイル王国なんて、アークライン帝国を越えた更にその先じゃないか! とてつもない長旅だぞ? 船でもどれだけかかるか」

「俺なら飛んでいける」


 おまけに、俺の用事も元々あったし一石二鳥。


「って、お前が飛んで行けても、俺たちは無理じゃねえかよ。それじゃあ、どっちにしろ大変なことになるじゃねえか」

「そうだよ、ヴェルト。それにやっぱり家出は……」

「あんだよ、家出もしたこともねえお坊ちゃまどもめ。だから、もーいーよ。俺一人で行くから!」

「だから、君一人では行かせられないと言っているではないか!」


 くそ、メンドクセーな。これだから親に反抗したこともねえ良い子ちゃんたちは行動力がねえ。

 こんなことなら誘うんじゃなかったぜ。

 もう、俺一人で……



「いいだろう、愚弟」


「「「「えっ?」」」」


「この俺も、最近図に乗っている愚妹や愚母を始めとする女どもにうんざりしていた頃だ。チェーンマイル王国への訪問ということで、テメエを同行者として連れて行く」



 俺たちは油の切れたブリキ人形のようにゆっくりと振り向いた。

 すると、そこには、王冠と権威のマントを纏った、正にあんた何やってんだよと言いたくなる人物が居た。


「ファルガッ!」

「ファルガ王!」

「陛下ッ!」

「ちょっ、陛下、な、なにをっ!」


 そこに居たのは、今ではこのエルファーシア王国を統べる国王となったファルガが、王冠以外は昔となんら変わらない姿で俺たちの井戸端会議に入ってきやがった。



「愚弟。テメェも知っての通り、この俺も過去のクソめんどくせえ精算をするために、どのみちチェーンマイルには赴く予定だった。だが、事情が事情だけにクソ大っぴらにできないこともあり、行くなら少人数でと思っていた。だから愚弟、テメエが行くなら俺が一緒に行ってやる」


「「「「はあっ?」」」」


「バーツ、シャウト。テメェらは護衛としてついてこい。どのみち、テメェらを連れて行く予定だった。留守の間のことはプルンチット将軍に任せてる」



 いやいやいやいや……こいつは何を言ってんだ? と、思ったのはロアもシャウトもバーツも同じ。



「陛下、何を言ってるんですか! いくらなんでも急すぎますよ! 王がそう簡単に出かけるとか、そんなのダメっすよ!」


「そうです、陛下、お考え直しください。それに、陛下のチェーンマイルへの用事というのは、『システィーヌ姫』のことですよね? それでしたら、女王陛下が『断固無視』と仰られていましたが…………」


「そういうわけにもいかねえから、俺が行くっつってるんだ。この件に関して、あの愚后は感情的になっているだけだ。冷静に今のチェーンマイルの状況を考えると、クソメンドクセーが、邪険にするわけにはいかねえ」



 えっ? つか、本気で行く気か? いや、もはやそれはかなりの大ごとだぞ?

 しかも、奥さんとも相談してなさそうだし、シャウトとバーツの言うとおり、一国の王が他国にフラッと行ってくるって、ダメだろ?

 つっても俺も王様だけど……

 まあ、この国には最強の連中がいっぱいいるし、ママも居るし、そこまで大きな問題はないだろうけど……

 すると、黙っていたロアが、少し真剣な顔してファルガに尋ねた。


「ファルガ国王。チェーンマイルを邪険にできないというのは……やはり、半年前よりの不満……ということでしょうか?」

「……それもあるな」


 半年前の不満? どういうことだ?


「ヴェルトくん、君のことだよ」

「えっ、俺ッ?」

「ああ。半年前、突如世界の表舞台に現れた君が、それまでの神族大陸で起こっていた大規模な戦のほとんどに終止符を打った。その際に、君が、各種族各国の主要なものと縁者になったということあり、意外と反対意見は少なく、世界はその流れに従った」


 それは覚えている。みんなが、俺の嫁になったり家族になったり、ダチだったりになっていたこともあり、魔王も四獅天亜人も半ばノリのような形で俺側についた。

 あんときの光景は今でも良く覚えている。



「でもね、その輪の中に入れなかった者たちにとって……つまり君との関わりがそもそもない国にとっては、不満などもあるということさ。神族大陸での領土分配や今後の貿易を始めとする外交を考えると、君との関わりがないものたちは国際的な立場で物凄い不利になる。その例として、東の大国家ロルバン帝国だったり、チェーンマイル王国だったりする」


「…………チェーンマイルとの関わりならクレオが居るじゃん」


「それが出来たのは昨日だろう? チェーンマイル王国は、君の義兄でもあるファルガ王とチェーンマイルのシスティーヌ姫を結ばせることによって、ある程度の繋がりを確保したかったという目論見があったはずだ。……まあ、噂では、元々システィーヌ姫本人が幼い頃からファルガ王に想いを寄せていた……というのは聞いたことあるが」



 なるほどね。そーいや、ジャレンガも言ってたな。ヤヴァイ魔王国は俺との繋がりが薄いからこそ、俺にあいつの妹と結婚しろと……って、ジャレンガの妹のことすっかり忘れていた!















「まあ、そういうことだよね? だからさ、僕が連れて行ってあげるからさ、僕の妹探しと、そのチェーンマイルのゴタゴタをどうにかするために、さっさと行こうよって話なんだよね?」



 って、そう思っていたら、そのジャレンガ本人がファルガの後ろからひょっこり顔出してきやがった!





――あとがき――

新章突入! 引き続きよろしくお願いします!

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