第583話 新たな旅立ちへ
「すごいじゃないか、バーツ! ならば、僕もバーツのように頑張ろう! 勇気を出して!」
バーツに触発されてシャウトが動く。
場面は放課後遅くまでクラス委員の仕事をしていたシャウトとメガネ委員長が河川敷を並んで歩いて帰っているところ。
「………………………………」
『………………………………』
「………………………………」
『………………………………』
「………………………………」
『………………………………』
さっきからずっと同じ場面。いい加減に思った。
「なんか喋れよ、どっちか!」
「そ、そんなこと言われても、共通の話題が……」
「あるだろうが! クラスのことでも勉強のことでも! なに、ひたすら歩いてるだけなんだよ!」
「しかし、彼女は何か考え事をしているのかもしれない! なら、話しかけたりしたら迷惑なんじゃ!」
「放課後に男と遅くに二人で帰ってるくせに、話しかけて迷惑とかいう女なんかフッちまえ!」
「そんな簡単に言わないでくれ!」
「んなビビりだから、テメエは進歩しねーんだよ! 仮想ホークをここで果たさないでどうすんだよ!」
「うっ、………わ、分かったよ………」
このままじゃ先に進まねえ。シャウトも勇気を出して前へ進むと決意して、緊張でカタカタ震える指先を動かしていく。
選択肢、『話しかける』、『黙って手をつなぐ』、『このまま無言で帰る』の中で………
「手をつなぐッ!」
「「「いきなりそれいった!」」」
『きゃっ! な、なによ、シャウトくん! セ、セ、セ、………セクシャルハラスメントです!』
しかし失敗した! メガネ委員長は顔を真っ赤にしてそのまま逃げ出した……まあ、好感度足りなかったんだろうけど……
「そんな! ッ、ヴェルト、ひどいじゃないか! 怒られてしまったじゃないか!」
「……はは、しっかし、手を握っただけでセクハラとか、……もう、俺の嫁って逆セクハラで訴えたら絶対俺勝てるんじゃねえか?」
「ばっかだなー、シャウト。仲良くもねえ女と手ェ握ったら怒られるに決まってるじゃねえか」
「バーツにバカと呼ばれるとは……シャウト……君も大変だね」
正直、俺たちは悪戦苦闘した。
俺の前知識も話が先に進めば進むほど役に立つこともなく、純粋に選択肢やマイクで喋る言葉を真剣に考えた。
それは、ロアもシャウトもバーツも同じ。
最初は色々と失敗を重ねていったが、ゲームに慣れ始めると、徐々に表情が明るくなっていた。
いや、むしろ失敗を続けていたからこそなのかもしれない。
自分たちの選んだ行動や発言で女が不愉快そうな顔をしていたものが、笑顔を見せたり、頬を赤らめたりする姿に、俺たちは気づけば一喜一憂していた。
そして、どれぐらいたっただろうか………酒を何杯おかわりしたか忘れちまった頃………
『見てよ、ロアくん。懐かしいよね~、昔もこうやって一緒に縁日に来たよね~。……十年前にロアくんと一緒に回って、そして十年後の今日もロアくんと一緒に回れて……何だか嬉しいな……今から十年後も一緒だったら……~~~、へへ、な~んちゃって! へへ、私、一人で何言ってるんだろうね~、恥ずかしいな~』
「ッ! ……いいや、恥ずかしいのは僕の方だよ。だって……二十年後も三十年後も、アスカちゃんと……いいや、アスカとこうして一緒に居れたらと思ってしまったんだから!」
『……ロアくんっ!』
そして、回が重なっていき、女たちの好感度がある程度いけばロアのようなスカした言葉も本領発揮してきやがった。
『フレー、フレー、バ・ア・ツ! 頑張れ頑張れバーツ! 頑張れ頑張れバーツ!』
「負けられねえ! 優勝するんだ! 分かったんだ! 俺は、自分一人の力だけで強くなったんじゃねえ! 人間は一人だけで強くなることなんてできないんだ! 支えてくれる奴が、応援してくれる奴がいるから強くなれるんだ! 俺、ようやくわかったんだ! だから、この試合は負けねえ! 優勝して、あいつと喜びを分かち合うんだ! このボタンを連打すりゃいいんだろ? うおおおおおお!」
ゲームのやり方が若干違うように思っていたが、ある意味では正解だったのかもしれないバーツ。そして、何かに気づいたのか、その背中は前よりも大きく感じる。
『はあ……クラス委員長も楽じゃないわね……いつもいつもこんな遅くまで二人で学校に居たら、シャウトくんと変な噂が立ちそうね』
「……ぼ……僕は、う、噂になってもいいかな! い、委員長と噂になっても……いや、むしろ、委員長と噂になって、それが噂だけじゃなく……そんな男になりたいと思っている」
『はうっ! ッ、な、なによ、きゅ、急にそんなこと言って! は、早く仕事を終わらせなさい……………ゴニョゴニョ………私も………君と噂になるなら………………』
シャウトも積極的になるべき場面を見極めて、女の心の中に入り込んだ。
飲み会初めてかなりの時間がかかったが、ようやくここまで来た。
気づけば俺たちはそれぞれのヒロインたちの反応を見ては、ハイタッチしたり笑ったりしていた。
『いや~、ヴェルトくん……なんちゅうか、クリスマスの遊園地は仲良さそうな男女が多いですな~……』
「そうだな! 俺とミナコも含めてな」
『ちょっ! ~~~っ、い、いえ~~~~~す! そうなので~す! 軍曹! ここにもリア充爆発せよなカップルがいるでございます! なにい? それはどこだ? イエッサー、私たちでした~! いや~は~、照れ之介♪』
く~~~~~~~~~、顔を赤くしやがってこのバカ女! か、かわい、く、こ、こんの、こんちくしょーが!
もう、なんか俺はニヤけが抑えきれずに、何度も自分の太ももをグーで殴った。
「すごいじゃないか、ヴェルトくん! とても仲が良いじゃないか!」
「おお! お前こそな、ロア! この女もいけるぞ! もうこれ、どう考えてもお前に惚れてるだろ!」
「かもしれない。今の僕には、アスカの気持ちが分かるよ。きっと、アスカの想いは僕と同じだ。……人の気持ちが分かることがこんなに嬉しいなんて。シャウトとバーツも素晴らしい!」
「そうすね! 『いんたーはい』にも優勝できたし、それも全てマネージャーのおかげだ。いつも弁当を作ってくれたり、部活でもサポートしてくれて、本当に感謝だ! 俺、ようやくそのことに気づいたんだ!」
「僕もだ。委員長と今の関係が壊れてしまうのではないかと、それを恐れて前へ進まない……でも、それでは後悔しか残らないんだ。僕は……前へ進んで良かった!」
俺たちが共に戦うステージはそれぞれ別々だし、共に同じ女を狙っているわけではない。
女がかぶっていないからというのもあるが、ここまでくればそれだけじゃない。
俺たちにはある種の連帯感みたいなものが生まれていた。
それは、『どうか、皆の恋がうまく成就するように』という想いだ。
そして、その時が近づいてくる。
「ヴェルトくん」
「どうした、ロア」
「君は言ったよね……三年生になったら、告白をしなければいけないと。僕は……アスカに告白しようと思う」
「ッ!」
それは、ロアが真っ先に言い出した。さすがに「告白」にまで行くと俺たちの表情は変わった。
そう、三年生になったら、告白するというルールがある。
もう、そのときは目の前まで近づいてきていた。
「分かったんだ、ヴェルトくん。いつも一緒にいるのが当たり前だと思っていた幼なじみ。今もこれからも、ずっとそうなんだと思っていた。恋愛を拒絶していた僕には、それでいいんだと思っていた。幼馴染でもいいんだと」
その時、酒を飲んで酔っているというのもあったんだと思うが、あのロアがかなりふらついた状態ながらも、真剣な顔をして自分の気持ちを言っていた。
「でもね、僕は気づいたんだ。幼馴染とか関係なく、一緒に遊びに行ったり、一緒に話したり、歩いたり、そんな時間を一緒にこれからも過ごしていきたいと思う人……多分……それが恋愛なんだと思う」
「ロア……」
「アスカもそう思ってくれているはず。だから……僕は、言おうと思う!」
こいつ……この決意を込めた目を、俺は知っている。
「あん時同じだな。ロア」
「えっ?」
「二年前。ジーゴク魔王国との戦いの時。キシンにズタボロにされ、打ちのめされ、しかしそれでももう一度戦おうと皆を奮い立たせた時。あの時のお前の目だ」
「ヴェルトくん……」
「なら、俺も続くぜ。俺も……ミナコに告白する!」
勇気を持って立ち向かう。それが勇者の証。その目をされて、俺だけ指くわえて黙って見ていられるかよ。
お前が戦うなら、俺も戦う。
「ッ、俺もだ! 俺もマネージャーに、これからも俺のマネージャーで居てくれって言う!」
「抜けがけは感心しないな、みんな。ここまで共に戦った戦友。最後は共に更に上へと行こう。僕も、委員長に言う!」
バーツとシャウトも、俺たちも戦うと決意した。
ったく、こいつら……仕方ねえ、なら……
「じゃあ、武運を祈って……」
「ああ。乾杯といこう」
「だな。乾杯して、そんで、必ず勝つぜ!」
「次に乾杯するときは、僕たちが勝利の美酒を味わうとき」
もう何時間も経っているから、そのあいだに俺たちは相当酒を飲んだ。
よく見りゃ、ロアも、バーツもシャウトも、顔を赤くして若干呂律が回らなくなっている。
でも、構うもんか!
「かのじょつくってやるぞーっ! ミナコ、テメエを俺の女にしてやるッ!」
「勇者も王子も関係ない! 僕は、男としてアスカを幸せにする!」
「俺はマネージャーにこれからも一緒にいてもらいてえ!」
「僕も、委員長とこれからも同じ道を歩いていきたいッ!」
俺たちは円を作って、それぞれのグラスを中央に差し出してぶつけ合う。
「「「「かんっぱーーーーーーーーーーーーーーーーーい!」」」」
そして………………………………………
「「「「「……ほ~~~~う」」」」」
「「「「ッッッ!!??」」」」
その瞬間、かつてないほどの強烈な殺意と悪寒に俺たちは全身を震え上がらせた。
「お店に入った瞬間に上から大変盛り上がった声が聞こえて、どうしたのかと来てみましたが……随分と興味深い話ですわね。告白? 誰が誰にですの?」
なんで? このフロアは俺たちの貸切じゃ?
でも、振り返ったそこには、憎悪を纏った怪物たちが勢ぞろいしていた。
「楽しそうですわね~、ヴェルト。で? そのミナコとかいう命知らずの女はどこですの?」
「ねえ、ヴェルトくん。君は今朝私と話したことをもう忘れてしまったのかしら? で? その女はどこ? どこに隠したの? ねえ、ねえ、ねえ? 素直に出したら、殺さ……怒らないから。ね?」
「……父上……あまりに危険ゆえに封印された空手の禁止技……その禁を破ります……」
「ふふん。とりあえず今晩は、添え木をあててでも絞り出すでどうかしら? 夢幻無限地獄と共にねえ」
「はわわわわ、と、とにょ~~~、せっしゃ、殿の命をお守りするのが役目とはいえ、そうそう命の危機を自分で作られるのはどうにかして欲しいでござる~」
「ばーか……ヴェルトくんのばーか……いっかいぐらい、捨てられちゃえ」
おや~? おや~? いかんいかん。酒を飲みすぎたようだ。酔いが回りすぎたようだ。
なんか、嫁たちの幻が見えるぞ? なんだ、現実か。
フォルナとアルーシャがとても笑顔なんだけど、額に「#」のマークが浮かび上がっている。
ウラ、どうしたんだ? 何でお前、今から空手の瓦割りでもしそうな気合の入れ方してんだよ。
クレオ、なんかお前は「全部事情知ってるけど、いい気味ね」みたいな顔して何で笑ってるんだよ。
ムサシが泣いてる。
もう、ペットが単純に怖い。
「……で、どこよ、ロア……」
「ヒューレ?」
「その、アスカとかいう女はどこだって聞いてんのよ! いったい、いつそんな女と! っ、とにかくどこよ! 私の目の前に連れてきなさいよ!」
「まってくれ、ヒューレ。アスカならまた時期を見て紹介するから、今は帰ってくれ! アスカは繊細で、初対面の人を前にすると緊張してしまうんだ!」
「っざけんじゃないわよ! そんな顔真っ赤にベロンベロンに酔っ払って、何が告白するよ! 幸せにするよ! しかも、誰よその女はッ! ゴチャゴチャ言ってないで、今すぐ出せって言ってんのよ!」
そして、なんか胸ぐら掴まれて物凄い剣幕で怒鳴られているロアに………
「バーツ……ねえ……マネージャーさんって……だ、誰? どこの人? い、いつからなの?」
「ん? マネージャーは、俺をずっと応援してくれた女だ!」
「ッ! ず、ずっとって………え、なにそれ、わ、私だって、ずっと、えっ? え、ええ?」
もう、予想もしていなかった事態にただ大粒の涙を流すサンヌ………
「シャウトくん。……委員長って……私じゃないよね。シャウトくんは私のことを委員長って呼ばないし」
「……ホーク……」
「……バカみたい……私……バカみたい……」
裏切られた……そんな顔をして顔を俯かせるホーク。
そして……
「「「「「「覚悟しろ、女の敵どもッ!」」」」」」
「「「「えっ、なんで!?」」」」
そのあと、正直な話し、何がどうなったのかはよく分からんかった。
そして、俺たち………ゲームで何やってたんだ? と酔いが覚めて冷静になった頃、俺たちは王都の門の前に「首だけ出して体を全部地中に埋められた」状態で晒首のように四人並べられていた。
二日酔いには王都の朝日が眩しくてキツいなと感じていた。
で、冷静になればなるほど、昨晩の出来事を整理して考えてみると、俺たち四人の中に、何か腑に落ちないことがあった。
今回、俺たち、そんなに悪くなくねえ? と。
だって、俺たち、ゲームをやっていただけだし、あいつらが勝手に勘違いしただけだし。
そもそも、ロアも、バーツも、シャウトも浮気はしてねえ。だって、あの女たちは嫁でも彼女でもねーんだから。
俺の嫁どももだ! 俺も今回はこいつらの相談にのって、一緒にゲームをして楽しんでただけだろうが! なのに、浮気浮気言いやがって!
その想いが頂点に達した時、俺はある提案をしていた。
どこか……俺たちだけで、どっか遠いところへ行かねえか?
――第十三章 完――
本章はここで区切ります。お付き合いいただきありがとうございました。引き続きよろしくお願い申し上げます。
胃もたれするぐらいの嫁イチャ、と嫁嫉妬に色々と思うところがあり、ヴェルトたちは男だけの家出を決意……できんのかぁ?
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