第549話 思い出話・共に生きよう

「ぷくくく、ぎゃーはっはっはっは! とんでもねえ、無知なガキだぜ。こりゃーパパの教育が重点的に必要だぜ。この子はテメエなんかと住む世界が違うんだよ!」


「んなこたー俺が一番分かってんだよ! 俺みてーな、喧嘩しかできねー屑が、日の当たる世界を懸命に生きるそいつとじゃ、住んでる世界が違うってことぐらいな! でもな、それでも、惚れちまったんだよっ! 俺は、俺はッ! もう、そいつのことしか考えられねーんだよッ!」


「………ドキドキ……/////」



 死なせるかよッ! あの女を死なせてたまるかよっ!



「ゴラァ!」


「はっはっは、子供のパンチなんかじゃ俺は――――――――ごほっ!」



 容赦しねえッ! 抉るッ!


「がっ、ふ、筆? 荷物に入ってた筆をを突き刺し……このガキッ、誰に向かってこんなことしてやがっッッ!」


 手加減しねえ。フルコースだ。

 こんなヤロウに、正々堂々喧嘩してやる必要なんてねえ!

 幸い雑貨が散乱してる。怯ませ、目潰しして、鼻鉛筆してやって、踏みつける!


「ぷぎゃああああああああああああああっ!」

「オラア! 喰らえよ、腹いっぱいにな!」

「ウラァッ!」

「げぶっ!」

「コラァッ!」

「ぐぼほっ!」


 落ちているジャリ石を口の中にぶち込んでやって、顔面を殴り続ける。

 口の中で、血が飛び散り、歯が砕け、二度とメシが食えねえぐらいにしてやる。



「テメエこそ、誰に上等こいてんだコラァ! 俺を誰だと思ってやがる! 湘南漆黒の六日間を制覇し、渋谷・池袋連合を潰し、あの伝説の走り屋・爆轟ニトロ十字軍クルセイダーズ七代目総長・筬島おさじま大和やまとと共に、西のダンジリ戦争を乗り越えた、この俺を、誰だと思ってんだッ!」


「がっ、ぐっ、て、こ、このガキッ!」


「俺はッ! 俺はっ――――――――ッ……えっ?」



 ッ! あ、アレ? ……俺は……急に景色が真っ白になって、俺は……? なにをやって……ッ! 

 

「ガキがッ!」

「がはっ!」

 

 いって! な、殴られた! ……ど、どうなってんだ? 

 なんか、頭がスーッとなって、なんか訳わかんないこと叫んでた様な気がしたけど、俺、どうしたんだ? 

 なんて言ったんだ? カミ? カミノ? なんだっけ、それ?

 って、今はそれどころじゃねえ! 

 

「もう、もうっ! お前はパパの子じゃないッ! お前は勘当だ! ぶち殺してやらァ!」


 このアリパパって野郎、怪我だらけだけど、鞭だしてメッチャ怒ってる!

 しかも、こいつ、何でズボン脱いでんだよっ!

 えっ、なんだこいつ。アレか? 変態とかってやつか?


「ヴェル、トく、ん」

「ッ、ペット! 無事……じゃなさそうだな、痛そうだ……」

「痛いよ……立てないよ……」


 足から血が出てる。右手が曲がってる……折れてる?

 くそ、それにここ、崖下で回りに家とかなにもない。誰も来ないぞ?



「クレオ! おい、クレオ、無事なのか!」


「ん、う、う~ん//////////////////////」


 

 ここから叫んでも、クレオは起き上がらない。何故か目隠しが外されてるけど、目は開けてない。

 気絶してんのかな? 顔が少し赤く見えるけど……


「ねえ、ヴェルトクン、さっき、どうしたの?」

「ん? さっき? 俺、何か言ってたか?」

「う、うん、すごい恐い顔で……叫んでた」

「そっか?」

 

 ダメだ。全然覚えてないや。俺、何を叫んだんだ? 

 ただ、体が物凄く熱くなって、あいつをメチャクチャ殴ってたのは覚えてる。

 でも、もうあいつには通用しなそうだ。凄い恐い顔で睨んでるし。

 武器は? 馬車の中にあったものは?

 俺が何とかしないといけないんだ!


「ッ、これは………割れてないのが何個かある! これなら!」


 落ちてるのは、馬車にあった小麦粉とか卵、塩・コショウ・香辛料、雑貨……そうだ!


「ペット、小さい声で話せ。お前、火の魔法使えるか?」

「えっ? つ、使えるけど、私の攻撃魔法じゃ、まだ戦えないよ。火だって、お料理に使えるぐらいにしか」


 料理に使えるぐらいの火の魔法。それこそが今、俺が欲しいものだ。

 それなら……


「ペット、今すぐあいつに見えないように、これを火で熱くしろ」

「えっ? なんで?」

「いいから!」


 ペットはもう走れないし、立てないから逃げることもできない。

 でも、魔法だけなら使える。

 それなら、それで戦うんだ。

 

「おいおい、コラコラ。パパに隠れてコソコソ何かするクソガキは………鞭で百叩きしてからぶち殺してやるァァァァ!」


 来たッ! 足を引きづりながら、凄い恐い顔して来た!


「ペット!」

「う、うん、やったよ!」

「よし、貸せッ!」


 俺は魔法を使えないし、子供の俺がパンチしてもキックしても勝てない。

 だから、できることをやってやる!


「くらえっ!」


 俺は、ペットから渡されたものを、アリパパ目掛けて投げた。

 一つだけじゃない。とにかくいっぱい投げた。

 それは……


「ん? 石? ……ぷはーっはっはっは! 卵か! そんなのでパパを倒せるわけプギャアアアアッ!」


 よっしゃあ! 成功した! あいつが油断して避けなかったおかげで、顔面命中! 

 馬車が落ちて、積荷にあった卵のほとんどが割れていたけど、割れていないのも何個かあった。これなら使えるッ!

 

「へ、えっ、ど、どうして?」


 ペットもまさか卵に火を使って熱くしただけでこんなこと出来るなんて分からなかったみたいだ。

 この、卵爆弾を!


「くらえくらえくらえっ!」

「つつつつ、ぎゃっ、ぷぎゃ、アチイイイイイイイイ!」


 爆発して飛び散った卵がうまいぐあいに、アリパパの目に入った! 

 熱くて目も開けられない! そして、怯んでる!

 この隙に……

 

「ほ、ほぎゅわあああああああああああああああ!」


 なんでか分からないけど、あいつはズボン下げてるんだ。

 チンチンに卵爆弾をお見舞いしてやった! よっしゃ、効いてる!

 でも、まだだっ!



「いくぞー、次はこれだっ!」


「つっ……ッ! ぷぎゃあああっ!」


 

 卵爆弾でチンチンと目がやられているこいつの顔に、コショウとか、真っ赤で辛そうな調味料とかをぶっかける!


「ぎゃあああっ! 目がーーーっ! やけるうーーーっ! ぎゃああああ、こ、このクソガキーーっ! どこだーー! どこだーーっ!」


 そして、地面の上をのたうちまわるこいつにトドメだ!


「小麦粉ハンマーッ!」

「ッ!」


 小麦粉が入った袋は、重たいんだ! それを思いっきりぶつける! 何度も何度も何度も!


「ぷ、ぷご~~~~………」


 夢中で何度も殴ってたら、気づいたらこいつがタンコブだらけになって伸びていた。

 気絶したのかな? つんつん指で背中をつついてみたけど、痙攣して起き上がらない。


「そ、そうだ!」


 この隙に、こいつの服の中のどこかに……あった! クレオを縛ってる錠の鍵だ! これさえあれば……



「クレオっ、しっかりしろよ、今、鍵開けるからな?」


「///////」


「よし、これでもう大丈夫なはずだ……でも、起きないな……でも、ちょっと顔が赤いから死んでないと思うけど……」



 とりあえず逃げないと。あいつが倒れているうちに、どこかに逃げて、誰か見つけないと。


「しょうがないな。よいしょっと」

「ッッ!」

「う~ん、チビだからフォルナより軽いや」

「………#」


 とりあえず、おんぶするか。

 こいつ軽いけど、俺も怪我してるし、それにペットのこともあるし、どうにかしないと……


「ヴェルトくん、す、すごい……」

「へへ、だって約束しただろ? 守ってやるって」

「……う、うん!」


 ペットも、あいつが気絶してるからホッとした顔しながら泣いてる。

 まあ、ペットが居なかったら危なかったんだけどな。


「ペットは立てるか?」

「ううん……立てない……でも、私はいーよ。姫様の方が心配だから」

「馬鹿! お前も俺に捕まれよ! 二人ぐらい、俺が運べるし!」

「無理だよ~、ヴェルトくんだって、怪我してるし、私に構わないで、姫様を連れて早く逃げて!」

「泣き虫のクセに、泣きながら言うなよ! そんなことできねーよ!」

「だっ、だって、私なんかより、姫様の御命のほうが……あっ!」


 その時、ペットが声を上げた瞬間、俺の背中がモゾモゾしたのが分かった。

 

「う、う~~~~ん」

「あっ、クレオッ!」

「……あ、あああ、るうけ、お、おほんっ……歩けるわ」


 クレオが目を覚ました。なんか混乱してるのか、最初は何を言ってるか分からなかったけど、すぐに俺の背中から離れて立った。


「クレオ、無事か? 怪我どうだ?」

「………プイッ」


 クレオの体が心配になって聞いたのに、クレオはすぐに俺に背中を向けて、プイッと顔をソッポ向いた。

 な、なんだよ!


「ちょ、どうしたんだよ、お前!」

「………………………………………」


 無視しやがった! なんだよ、こいつ! 

 あっ……でも、そっか……こいつ……


「な、なあ、お前、まだ怒ってるのかよ? 昨日のこととか、馬車でのこととか……」

「…………………」

「あ~~~~、もう、わ、悪かったよ~、俺が悪かったって。謝るからさ、許してくれよ~」


 もう、こんなときにメンドクサイな~、こいつは!

 でも、ここで口喧嘩しても仕方ねえし、ここは謝って……ん?


「こ、コホンッ! そ……そ、そうね……わ、分かったわ、ヴェルト・ジーハ」

「おっ?」

「ッ、ふ~~~、は~~~、ふ~~、落ち着きなさい、私。た、たかだか子供に想いを告げられた程度で、お、落ち着きなさい。すー、はー、すー」


 あれ? なんだろ、クレオが深呼吸しながら急に振り返った。

 でも、なんだよその顔は?


「ま、まあ、そうね。あなたには随分と恥をかかされたものよ。本来であれば、その首を刎ね飛ばして極刑こそが妥当よ」


 文句言ってるくせに、なんかニヤケそうな顔を必死に我慢しているみたいな顔だ。



「で、でも、その、まあ、そうね。素直になれないあなたの本音も聞くことができたことだし………ま、まあ、覇王たるこの私がいつまでも素直になれない子供のイタズラに激昂するのも大人気ないわけだし……そ、そうね……ま、まあ、私もこういった経験がないので、とまどってはいるけど……まあ、私があなたのような下賎な雑種の想いを受け入れることはまずありえないのだけれど、そ、それでも、まあ、あ、あなたが身を挺して私を守り、そして心からの気持ちを明かしてくれたことは、わ、わ、悪い気はしないとだけ言っておくわ」



 何言ってんだこいつ? 俺の本音? 謝ったのがそんなに嬉しいのか?



「私と釣り合う男は、せいぜい帝国のロア王子ぐらいと思っていたわ。それが、こんな下賎な平民、武も知も品もない男。私に最低最悪の行いをした憎むべき底辺の男。でも、その勇敢さと魂だけは、一定の評価をしてあげるわ。口だけだと思っていたあなたの言葉、そして気迫には、真の熱き想いが込もっていたわ」


 

 言葉に魂こもってた? とりあえず「ごめん」としか言ったつもりはないのに、なんでこいつはこんなに大げさに考えてんだ?

 まあ、でも、なんか許してくれるみたいだし、機嫌もよさそうだし、これなら大丈夫だ……ッ!


「ふ~~~~~~~、イタタ……殴られまくったおかげで、頭がスーッとしたぜ………でも、やりすぎだぜ、ガキ共が」


 あいつ!


「あら」

「ひいいい、ヴぇ、ヴェルトくん!」

「あいつ、もう起きやがった!」


 あんなに殴ってやったのに、あいつもう起きたのか? 

 くそ、もっと殴っておけばよかった!


「ガキは大人に対して遠慮も手加減もしないんだな。油断したよ……だから、今度はッ!」


 鞭がッ! さっきよりも力強く、「バチンッ!」て音が弾けた。


「次は、大人の教育をしてやろう。クソガキ共が………」


 俺の目潰し攻撃で真っ赤になった目。だけど、今はすごく鋭く睨んでる。

 凄く落ち着いてるように見えるけど、物凄い怒りが沸いてるのが分かる。

 くそ……どうす―――――――――



「頭が高いわ屑。これ以上空気を穢すな。もはや存在そのものが不愉快よ」



 その時、さっきまでのニヤけた顔から一瞬にして、こいつの顔つきも変わった。


「お前……」

「姫様ッ!」


 クレオだ。

 すごく堂々としていて、すごく力強くて、輝いて見えて、チビなのにとても大きく見えた。



「解放されちまったか、クレオ姫。メンドクセーな」


「メンドクサイ? 幼い子供に思う存分痛めつけられる程度の分際で、この私と相対するという身に余る栄誉を前にして、よく言えたものね」


「ふん、やれやれだな……クレオ姫が解放されたとなると、いよいよ俺も全力を出す必要があるな……」



 空気が痛い! こ、ここにいるだけで、腰が抜けそうだ。

 この二人、さっきまで俺の前に居た二人じゃない。

 まるで、別世界の化け物みたいな………でも……



「ヴェルト・ジーハ」



 俺とペットの前に出て、背中を見せながらクレオは俺に言った。



「私は貴様を許さない。貴様は、この覇王たる私を辱めた。生涯、誰にもさせるはずのないこと、見せるはずのないこと、全てを貴様が私に行った」


「お、おう」


「でも……逆を言えば、それはもう、私は貴様に……いいえ、あなたに全てを曝け出してしまったことを意味する。そして、知ってしまったあなたの気持ち………軽はずみに受け入れていいはずがない。周りが許すこともない。でも! でも………この私がこの世に生を受けて以来、あなたは誰よりも勇敢に戦い、誰よりも身を挺して私を守り、誰よりも熱い想いを叫んだあなたの気持ちは無下にはできないと思っているわ」



 …………?

 軽はずみに受け入れてはいけない? 回りが許さない?

 なんだよ、許してくれるのかと思ったけど、俺のことは簡単に許さないし、国の奴らも許さないってことか?

 でも、なんでそんなことを誇らしげに言ってるんだ?


「ただ、その前に、聞いておきたいことがあるわ。あなた……フォルナ姫にはどう言うつもり?」


 フォルナに? えっ、やっぱ言うのか?


「えっ、やっぱ言うのかっ?」

「当たり前でしょう! それが、筋でしょう?」


 こいつの尻を噛んだことを言わなくちゃいけないのか? そんなの言ったら殺される……


「こ、殺されるかもしれないけど……謝るしかねえかな……」

「そう。殺されてでも……想いを貫くと……。ふふ、全く……あなたがこんなに熱い人だとは思わなかったわ」


 その時、少しだけクレオがクスリと笑った気がした。



「共に生きるわよ、ヴェルト・ジーハ。そして、今度は私が守る。指一本、触れさせないわ」



 それだけ言って、クレオの全身が、夜明けの光のように淡く輝いた。


 でも、その前に、お前、パンツ穿けよ………






――あとがき――

手遅れ? まだ間に合う? どっち!?


また、少しでも本作を多くの人に見て頂きたく、引き続き本作の応援をよろしくお願い致します!


下にある【★で称える】より、『☆☆☆』を『★★★』にして頂ければ、1人3★まで評価して応援することができます!!


この作品を少しでも、


『面白い!』

『パンツはけ!』

『フォルナ、ここやぞ!』


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作者が今後作品を更新していく上での大きなモチベーションとなります。

それと追加で図々しいとは思いますが、フォローの登録もして頂けると嬉しいです!


何卒よろしくお願い申し上げます!!!!

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