第529話 千年殺し

「女王陛下! クレオ姫! お待ち下さい! 此度のことは、全て私の娘が原因。どうか、私から謝罪させて戴き、この場を……」

「関係ないわ、アソーク公爵。確かに、あなたの娘は私に不愉快な思いをさせたけれど、この駄犬は、私の逆鱗に触れた。これはもはや国など関係なく、私の個人的な怒りも込めた調教。だから、下がりなさい!」


 そして、もう誰が言っても止まんない。公爵のおっちゃんが謝ろうとしても、チビのクレオが睨んだだけでビビッちゃってるし。



「さあ、始めるわ。私を侮辱した罪を万回に後悔なさい! そして、この空の下で、最も高貴な覇王の前に平伏しなさい!」


「うるさいな。チビのくせに」


「…………あ゛?」



 でも、俺もこいつ、すっごいムカつくし、一発ぶちたいから、関係ないし。

 だからやるんだ。


「……ふう……ところで、あなた。仮にもフォルナ姫の夫であるなら魔法学校でちゃんと基礎的な力ぐらいは身につけているのかしら?」


 魔法? 先生は、「君は、魔法よりも政治の勉強かな? うん、人には向き不向きがあるから、君はそっちを頑張りなさい」って言われたな。


「いいえ、聞くだけ愚問ね。身に漂う魔力も、体つきも平凡以下。こんな子犬に私は何をムキになっていたのかと、今更自己嫌悪よ」


 ん? なんか、落ち着いてきた? 少し顔が柔らかくなったような……


「我が国の屈強な戦士たちすら平伏せさせてきたこの覇王たる私が、一時の感情に流されてしまったわ。確かに、まだ忍耐力が足りないわね」


 そして、落ち着いてるけど、この目は凄く俺を馬鹿にしているように見える。


「誇り高い聖戦を求めるこの心はいつになったら満たされるのかしら。今日も取るに足らない駄犬を蹴散らすなど……本当に不毛」


 溜息まで! こいつ、なんだよ! 自分から喧嘩売ってきたくせに、何でそんな顔するんだよ! 

 こいつ、本当に嫌いだ!

 


「さあ、かかってきなさい、駄犬。私は一切構えないし、避けないし、好きにかかってきなさい。殴るもよし。蹴るもよし。あなた程度の力や魔力では、私を倒すどころか、この場から一歩も動かすこともできないと知りなさい」


「なにっ?」


「ただし、あなたが成すすべなくなったら、今度はこっちの番。泣いて、みっともなく地べたに倒れ、尿を垂れ流すほどの恐怖を与え、生涯忘れられない屈辱をその体と心に刻み込んであげる」



 そう言って、クレオは両手を広げて、俺にかかってこいと言ってきた。

 自分は一切反撃しないし、攻撃を避けないから、好きなだけ殴るなり蹴るなりしろって。


「えっと……いいの?」

「ええ、どうぞ。それぐらいのハンデは与えてあげないとね。それに、人は成す術がないほどの圧倒的な力の差を知り、絶望し、そして従順になるものよ。そのためには、これぐらいはねえ」


 完全に俺を馬鹿にしてるぞ!

 この野郎、もう怒ったぞ! 本当に何でもやってやるんだからな!


「よーし、それじゃあ」

「?」


 反撃しないなら、相手が女の子だからって関係ない。一発で終わらせてやる!

 まずは、こいつの後ろに回って……


「あら、後ろから? なるほど。後頭部? 首筋? 脊髄への攻撃? 少しは考えているようね。でも、そんな程度じゃ私には通用しないわ」


 後ろに回って、こいつの真後ろでしゃがみ込む。


「ヴェルト、何をしてますの!」

「後ろから攻撃するでありんすか? でも、聖騎士ガゼルグと常に稽古しているクレオには、魔力も伴わない子供の攻撃なんて、痛くも痒くもないでありんす」


 俺は、バーツと喧嘩になったとき、タマを蹴り上げて泣かせたことがある。

 でも、それはこいつにはダメだよな? だって、タマがないし。

 だけど、あの技なら勝てる。


「ん?」

「なんだ、あの構えは」

「あの少年、何をやろうとしているのだ?」

「ヴェルト君?」


 俺にタマを蹴られてから、タマをガードするようになったバーツを、俺の開発した技で倒した。

 あの技なら……


「いくぞー! 避けるなよ?」

「?」


 人差し指を伸ばしたまま、他の指を組む。

 そして、これには手順がある。

 どうして、こんなのを俺が思いついたか分からない。

 でも、自然に頭の中で思いついて、体が動いていた。



「一に気をつけ、二に構え!」


「はっ?」


「三、四がなくて、五に発射ッ!」



 俺は、しゃがんだ状態から、体中の力を使って思いっきり、一点を目掛けて飛んだ。

 短いワンピースの下から見える、オレンジ色のパンツ。

 ハートのマークが入ってて、少し可愛かったけど、俺、そういうの興味ないから構うもんか。



―――――――ブスリ!


「「「「「………えっ、え、え、えええええええええええええっ!」」」」」



 俺の人差し指が、根元まで突き刺さっ………



「んぐぶほおおおおおおお! wp9ふぇぁんvうぇp@cwくぉflまs!」



 クレオが全身をピンと張って、体中がビリビリ震えて、何言ってるか分からないぐらいの叫び声をあげた。

 そして、体中の力が抜け、一気に膝から崩れ落ちて四つん這いになって倒れた。

 スカートめくれてパンツ丸見えだけど、もうこいつ、それを隠せないぐらい変な感じになってる。


「はべ、あぶ、ひゃ、あ、べ、あ、へ~」


 すぐに立つのは無理そうだ。

 おまけに、こいつ、パンツがジョワって……


「泣いて、這い蹲って……あっ、それにお前、おもらし…………どうだ! バーカ、ザマミロ!」


 見たか! 俺を馬鹿にするからこうなるんだ!

 俺の勝ち――――――――



「ヴェルトのおばかあああああああああああああああああああっ!」



 と、思ったら、フォルナにぶん殴られて……


「ヒメサマアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

「ちょま、あ、あいつ、なな、なんちゅうことぉ!」

「急いでクレオ姫を運ぶのだ!」

「ヴェヴェヴェ、ヴぇるとくん、よりにもよってなんてことを!」

「せ、戦争に、な、なる?」

「あーはっはっはっはっは! あーはっはっは! そりゃあ、聖騎士と訓練してるお姫様も、ソコは鍛えてないよねえ」

「女王様、何をノンキに笑っていらっしゃるのです! マジで戦争になりますよ!」

「クレオ……、な、なんてことを……ッ、システィーヌも何を笑っているの!」

「もう、こ、これ、わ、笑わないのは無理でありんす! ふぉ、ふぉ、フォワーハッハッハッハッハッハ!」


 フォルナにぶん殴られて、体中の力が抜けて、なんか空をプカプカ浮いている感じがする。

 なんか、みんな慌てたり、笑ったりしてるけど、フォルナはなんか物凄い怒って………



「ひ、ひどい……恐い……あの子……」



 あっ、しかも幽霊女が物凄い怯えてガタガタ震えてる。なんだよ~、誰の所為でこんなことになって―――――



「ヴェルト~、ヴェルトーーーーッ! 今日という今日は許しませんわ! 女性になんということをしているのです! も、もう、もう限界ですわ! あなたには、た~~~~っぷりお仕置きですわ!」


 


 ――――――――――――



「とまあ、そん時ばかりはフォルナがメッチャブチキレてな。俺は一晩中正座しながらお仕置きを……って、なんだよ?」


 まだ、話は全然途中なのに、なんか、ニートとかアイドル姫とか、物凄いドン引きな顔で俺を見てるし。


「おい、ヴェルト。お前、ぶッ刺したのか? 根元まで」

「あ、ああ。まあ、俺もまだまだガキだったし、子供の悪ふざけだろ?」

「女の子の尻に?」

「しつけーな。だって、仕方ねえだろ? 当時は他に攻撃の仕方が思いつかなかったんだからよ。おかげで、フォルナにキレられたし、ピアノの発表会では更に大変なことになってな。あれは―――」


 と続きを話そうとする前に、ニート、ブラック、アッシュの三人が、すげージト目で俺に一言。



「「「さいってー………」」」


「うるせええ、お前らが聞いてきたんじゃねえかよ!」



 なんか、俺の株が大幅に下がっていた。







――あとがき――

別に作者は女の尻を攻撃することに性癖があるわけではないですので勘違いしないでくださいね?


さて、昔書いたものも整理のためにカクヨムに新たに投稿しました。

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『不屈の善戦帝王 勝てずとも、誰であろうと追い詰める』

https://kakuyomu.jp/works/16817139554539380604



おねショタハーレムものです。

怒られない程度の上品な物語になってます。

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