第501話 お前は俺が守ってやる
いつもオドオドしているペットが、本気で「う~」と泣きそうになってやがる。
「どうして私まで」
「だから、そうビビるなよ。別に戦争しに行くわけじゃないんだから」
「普通は起こらないのに、ヴェルト君が行くと戦争起こるでしょ!」
「うっ……否定できねえ。でも、お前も強いんじゃないのかよ?」
「ヴェルト君がいつも連れている仲間と比べられないよ」
ったく、情けねーな。
フォルナたちの話じゃ、こいつ、普通に魔法とか強いって話なのに。
「私、自信ないよ、ヴェルト君」
「ああ?」
「ヴェルト君も、一緒に居る人たちも、いつだって私なんかじゃ想像もつかない人たちなんだもん」
おまけに、沈んでるし。
人通りの少ない繁華街に着地し、恐らくそうだと思われる建物に向かって歩き出すも、ペットはドンヨリとした空気を背負い、幽霊みたいな暗い雰囲気を醸し出しながらトボトボと歩いていた。
そんな俺に、ニートが肘で小突いてきた。
「んだよ」
「フラグ建てない程度に励ましたほうがいいと思うんで」
「なんでだよ」
「いや、どう考えてもお前の所為なんで……でもこういうところで好感度上げられると見ていてイラッと来るんで、そこらへんを考えてやった方がいいと思うんで」
俺に耳打ちしてくるニート。目の前には背中を丸くして落ち込みながら前へと進むペット。
ん~、励ます……励ますか……
「あ~、悪かったよ、ペット」
「絶対、悪いと思ってないよ、ヴェルト君」
「~~~ッ、あ~、もう、しつけーな 。でも、安心しろよ、幼馴染のよしみだし、もし何かあったとしても……」
「?」
ようするに、落ち込んでいるというより、ビビッてるんだろ? こいつ、臆病だし。
なら、安心させりゃいいだろ。
「何があっても、俺が守ってやるから! ガキの頃……お前とは『あの危機』を一緒に乗り越えた仲だしよ♪」
「……………………………ッ!」
「バスティスタ曰く、体を張ってな。だから、心配すんなよ」
まあ、バスティスタより安心感は感じられないだろうけど、それぐらいは……ん?
「ん? おい、何、赤くなってんだ?」
「……………………卑怯者…………」
「あっ?」
「卑怯者だよ、ヴェルト君。そういうこと言うの、卑怯だよ~」
何がだよ、と思った瞬間、ニートが俺に肘打ちしてきやがった。
「ごはっ! なんだよっ!」
「いや、お前、ほんとなんなのか分からないんで。なに? 俺、好感度上げるなと言わなかった? いや、もう、お前がそれでいいなら、もう俺もこれ以上言わないんで、このラブコメヤンキー」
ものすごいイラッとした様子のニートに俺もキレ返そうとしたが、そこでふと思った。
前髪下げて顔を隠しているのに、真っ赤になって少し慌てているペット。
それはつまり……
「くはははは、なんだ~、ペット。お前、まさかこんなことぐらいで俺に惚れたか~?」
「ぶっ!」
「戦争嫌とか言ってるくせに、ワザワザ、ヨメーズ世界戦争が起こるかもしれないもんに飛び込むなよな~。しかも、今更」
物凄い分かりやすい態度だったんで、からかうように言ってやったら、案の定アタフタするペットが、何か見ていて面白かった。
んで、前のめりになってズッコけて「お前……」とか言ってるニートも印象的だった。
そして……
「にゃ、にゃにゃ、にゃんですとっ! ペット殿、どういうことでござる!」
「ちが、違うんだよ! べべ、別に、その、違うんだよ、ムサシちゃんっ!」
「にゃーっ! たたでさえ、奥方様が六人も居て、拙者とてようやくご寵愛戴けるようになったのに、これ以上はあんまりでござる、殿~ッ!」
「だか、ら、ム、ムサシちゃん、落ち着こうよ~」
「うにゃ~! どうしてでござる~! ペット殿は殿と幼馴染だからこそ、昔から殿が世界一カッコいいこと知っていたはずでござる! それなのに、どうして今更でござるっ!」
おお、ムサシ、俺が世界一とか、嬉しいやら恥ずかしいやらなことを。あとで頭を撫でてやろう。
そして、ムサシの言うことも、もっともだった。
あまり話す機会はなかったとはいえ、ペットとは小さい頃からの付き合いだ。 別に今更………
「べ、別に、い、今更じゃ……前から知ってたもん……小さい頃から」
「ん? 何でござる? ごにょごにょと聞き取れなかったでござるが」
「い、いいの、もういいの! 私は、そんなことないもん! 私は、姫様を応援するから!」
ごにょごにょと、ムサシは聞き取れなかったみたいだが、俺は聞き取れた。
なに? 前から?
「えっ? ペット、お前、なに? 前から俺のこと好きだったのか?」
「ちょおっ!」
「え~? そんな機会あったか~?」
俺が過去にペットとそんな関わったことなんて……
「いや、もうお前、黙ったほうがいいんでっ!」
「はぐうっ!」
すると、今度は俺の背中にニートのドロップキック! って、
「な、なにしやがんだコラァ!」
「それはお前の方なんで! お前、別にさ、難聴系鈍感キャラじゃないのはいいけど、地獄耳デリカシー無しキャラってのもどうかと思うんで!」
「はあっ? んな、別に大したことじゃねーだろうが。中坊じゃあるまいし、今更この程度のことでイチイチよ」
「うわっ、ほんと最悪なんで。こんなのが主人公のギャルゲーとかあっても、ぜってー流行んねーし! つか、普通、十八って言えば青春真っ只中だと思うんで」
なんだよ、そこまで悪いことか? と思ってニートに殴り返そうとしたら、プルプル震えて今にも泣きそうなペット。
そして、さっきまで慌ててたくせに、「ペット殿、これも殿でござる」と何だか哀れんだ表情で慰めているムサシ。
そんなに、悪かったか?
「お前、結婚が先行してただけに、恋愛とかほんとしてないんで、そういうデリカシーとか駆け引き的なの分からないんだ」
「ああ? お前だって、妖精の彼女できるまで、たんなる根暗だっただろうが!」
「失敬な。俺は、リアルな恋愛は確かに皆無だが、前世ではシミュレーションでの恋愛実績は抱負なんで!」
いや、それ、結局皆無なんじゃねえかよ。胸張るなよ。そうツッコミを入れようとした。
すると………
「キャッキャッ」
「うふふふふ、仲良いよね~、お互い攻め合う、攻めと攻め、受身になったら負けちゃう。ん~、じれったい」
「ぐふふふふふ、それに、前を歩いているコウモリのコスプレしている人もいいし……三角関係?」
「キャーッ! ………それより、あの二人の女ジャマじゃない? 獣耳のコスプレとか、あざといっつーの」
「ほんと。穢されるから一緒に行動して欲しくないよね~」
「ねえ、でも、あの人たち、どこかで見たこと無い?」
なんだ? 気づけば俺たちの周りは、何やら目を爛々と輝かせた女たちに取り囲まれて注目されていた。
しかも、女共の格好も、やけにフリルのついた服だったり、メイドだったり、あきらかにSF世界と異なるような服着てたり、かなり変だ。
妙な気分を感じながら、とりあえず無視して道を行くと、ようやくソレだと思われる店が見えて来た。
そこは、カラフルな名刺とは対極的な、地味な雑居ビル。
「ここでいいよね、ヴェルト君。開けたら壊していい?」
「待て待て、ジャレンガ。壊すのは………俺も壊したいと思ってからにしてくれ」
こんなところに、本当にあるのか? と疑いたくなるも、確かに名刺に書かれている紋様と同じ文字らしきものが書かれている。
「………にしても………ヴェルトとBL店に来るとか、ほんと人生何があるか分からないんで」
「くははははは、確かにな。さあ、勇気を出して行くとしようぜ」
ここから先、どんな真実が待ち受けているか? どちらにせよ、鬼が出るか蛇が出るか分からんが、もう、引き返すことは出来な―――――――
――あとがき――
今日は2話投稿!!!! 501話目!
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