第483話 新メンバー結成

「は~? 神族~? これまで、聖王や聖騎士含めて散々人の人生を狂わせた元凶の神族が、こいつらだ~? じゃあ、何か? 俺は神様ぶん殴ったっていうのか?」


 それはさすがにまずい。いくら俺が宗教に入っていないとはいえ、神様殴っちまったのか?


「そうでもないぞ、婿殿。神族とは別に神ではない。遥か昔の歴史の中で、当時の人類や魔族らとは比べ物にならん技術力を持っていた彼らのことを、地上人がそう呼称したにすぎん。実際の生態的には、多分、お前たちとあまり変わりはない。『魔法が使える』のと『魔法が使えない』の差ぐらいはあるみたいだがな」


 俺以外にも、神に手を出したのかと一瞬心配した連中含めてフォローするリガンティナ。

 本当だろうな? すると、アイボリーも頷いた。



「神……う~ん、まあ、グリーンみたいに調子に乗ってそういうこと言ったりしてるのも居るけど、確かに私たちはそこまであなたたちと違いはないよ。普通に性別だって分かれてるし、恋だってするし、子供だって産む」


「あ~、良かった。じゃあ、殴って問題なかったんだな」


「って、その発想はどうかと思うけど! いや、うん、た、確かに、その私たちもあんたたちを怒らせるようなことしたとは思うけど……」



 とりあえず、神族であって、神じゃない。それだけ分かりゃ十分だった。



「って、そうそう、それで、次は私の質問に答えて」


「ん?」


「私たちの先祖は、技術や兵器の開発力はあったけど、数が少なかった。だからこそ、異世界への転移を余儀なくされた。そして、長い間に力を溜めて、モアとの戦い前にドアを開放して、あなたたち人間やエンジェルタイプ、ディッガータイプ、マーメイドタイプと協力して魔族と亜人を滅亡させるっていう計画だった。それなのに、あなたたちは、争うどころか仲良さそうだけど、どういうことなの?」



 アイボリーの質問。それは、さっきも聞いたように、今、この世界はどうなっているのか? という質問。

 すると、全員一斉に俺を見た。


「……なんだよ。なんで俺を見るんだよ」

「いや、ほら、婿殿が色々とやらかしたおかげで、神族の予定や先祖たちの計画が大幅に狂ったようなのでな」


 お前が言え。そんなオーラと視線を周りから感じ、俺は仕方なく言ってやることにした。



「半年ぐらい前に、なんやかんやで人間と魔族と亜人の戦争は終わった。細かいイザコザはあるだろうけど、まあ、今はそんな感じだ」


「お、終わった? 終わった! どういうこと? 滅んでいるようには見えないけど、ひょっとして、隷属させたとか?」


「ん~、なんかそこらへん、説明の仕方が難しいが、うん、アレだ。なんかみんな、戦争飽きたんじゃね?」


「説明になってないわよ! どういうことよ、それは!」



 さすがに、こんな説明では納得しないアイボリーの気持ちは分からんでもない。

 すると、ずっと暇そうにしていたエロスヴィッチが手を上げた。



「まあ、事実だから仕方ないのだ、娘っ子」


「亜人ッ!」


「わらわもかつては、野心に満ちて人類も魔族も滅ぼそうと暴れ周り、そして殺しまくったのだ。だが、突如現れたこのヴェルト・ジーハは、そんな世界をぶっ壊したのだ」


「う、うそ、そんな、そんなことって………」


「こやつの作った国を見たら驚くのだ。そして嫁も見たら驚くのだ。もう、戦争するのがアホらしくなるぐらいなのだ」



 それは、エロスヴィッチだけの意見じゃない。リガンティナ、そしてムサシやフィアリたちも頷いていた。

 だが、アイボリーは納得してないのか、首を横に振った。



「そ、そんな、そ、それじゃあ、それじゃあ、モアとの戦いはどうするつもり? 今は仲良さそうでも、絶対に異種族同士での問題はまた起こる! それじゃあ、モアと戦うなんてできっこない!」



 さて、そこでようやく俺は半年前から気になっていたものの、結局ウヤムヤになってしまったことを聞かざるを得なくなった。



「じゃあ、おさげ。そろそろ教えろよ。モアって何だ? 俺は、この世を滅ぼす何者かとしか聞いてねえけど」



 神族だけじゃねえ。

 聖王も、聖騎士も、そしてあのクロニアすらもが、その名前に振り回された。

 これまでの全てに通ずる、モアという存在。

 それについて、俺は―――――――――――――――――――――――――



―――――――ピーッ、ピーッ、ピーッ



 その時、この世界では聞き慣れない、何か機械的な音が聞こえた。

 それは前世的に言うと、何かを知らせる警告音のようなもの………



「えっ、この音は……そっか、『ジャンプ』のタイマーがセットされていたんだ! 確か、ブルーが持っていて……」



 そう、セットされたアラームが鳴るかのようなこの音は………



「ねー、パッパ~、これがなんか、ピーってなってるよ?」



 その時、俺たちは好奇心旺盛なコスモスに目玉が飛び出した。

 気絶している男の持ち物を勝手に取り上げちゃいけませんと、ちゃんと躾けねば!

 まあ、いきなり音がなったら、そりゃー驚くし、興味引かれるのも無理ないけどさ、コスモス、それ人のものだから!


「これなーに?」


 コスモスが手の平に乗せて首をかしげているのは、なんか、白いケースの方位磁石や手鏡のような小さく丸い何か。

 それが、確かにピーピー鳴って、中央にある小さな点のようなものが、赤く点滅している。



「ちょっ、それがジャンプだって! それに触っちゃダメ! あなたたちも今すぐこの場から離れてッ!」


「はっ? 何が?」


「その装置は半径五メートル以内に十人以上居ると、無差別に転移者を選別する作りに――」


「ッ! コスモス、今すぐそれから手を離せッ!」



 だが、既に時遅し。

 ジャンプとかいうものが大発光し、店内が閃光に包まれた。

 俺は、かろうじてコスモスの手を掴んだが………



「ぐっ、か、体がッ!」



 この感覚、記憶がある。

 以前戦った、ワープの使い手に飛ばされた時と同じ感覚。

 何も無い世界に飲み込まれて漂い、吸い込まれ、そして………



「パッパ~、ここ、どこ?」


「ちっ、マジかよッ!」


「こ、これはどういうことでござるか?」


「ん? あれ? 僕、何があったの?」


「これは……」


「コスモス、婿殿、無事か?」


「うーむ、結局どうなったのだ?」


「………だから……だから、ヴェルトと一緒は嫌だって言ったんで!」


「え? えええ? ええええええ!」


「うそっ! やっちゃった……」



 閃光の中、確かにアイボリーが言った。

 半径五メートル以内に十人以上居ると転移する者をランダムで装置が選ぶという、傍迷惑なシステム。

 その通りに、この場にいる十人が選別されてしまった。

 そしてそこに、アイボリーを除く、他の何とか戦隊は居ない。

 俺たちだけが飛ばされちまったようだ。 

 で、ここは?



「おいっ、どういうことだ! ブルー班じゃないぞ! 誰だあいつらは!」



 その時、生の肉声ではなく、どこか拡張器のようなものを通した音で誰かの声が聞こえてきた。

 そもそもここは?


「なーんか、メンドクセーことになってきてねーか?」


 俺たちは、真っ白い部屋の中央部に設置されている薄い透明なカプセルのようなものの中に居た。

 部屋は広く、そして壁や床や天井など、『俺たちがさっきまで居た世界』とは明らかに違う材質で作られている。

 いくつかの紐状のようなもの。前世的に言えばコードのようなものが部屋中に散りばめられた、四角形の部屋。

 そして、その部屋の壁の一面だけには、ガラスが張られ、その向こう側には、白衣を着た人間が何人も見える。

 そいつらは、俺たちを見て相当驚いている。


「おいっ、何者だお前たちは!」

「ッ、見ろッ! まさか、アレは、エンジェルタイプッ!」

「ビーストの遺伝子が混ざった、亜人ッ!」

「まさか、奴らは、『地上世界クラーセントレフン』の住人ッ!」

「どういうことだ? アイボリー、状況を説明しろ!」


 正に、異常事態発生ってやつだ。お互いにな。


「さてさて……コスモス。それ、パッパに貸してくれ」

「はーい」


 相手が慌てている隙に、コスモスから例の『ジャンプ』を弄ってみた。

 ウンともスンとも言わなかった。


「おい、おいおいおいおいおいおいおい!」


 ちょ、マジで勘弁してくれ! 動け動け動けッ!


「婿殿、どうだ!」

「ダメだ、動かねえッ!」

「ちっ、なにこれ? ねえ、僕たちどうなったの? あの、うるさい連中何?」

「まずいぞ、ヴェルト・ジーハ。予想外の事態だ」

「わ、わらわはどうすればよいのだ!」

「殿~~~、い、いったい、ここはどこでござるかっ!」

「無理よッ! それは、往復のエネルギーを充電するだけでも、すごい時間がかかるんだから!」


 そして、連中同様に結局俺たちも大混乱。



「おい、奴らが地上世界の住人なら、まずいぞ! 何があったかは知らないが、ブルー班に異常事態が発生したとしか考えられん!」


「おい、ラボ全体に緊急警報を発令しろッ! 今すぐ、警備兵にバトルスーツや武器を装備させ、全員ここに集めろ! 出入口も封鎖しろッ!」


「馬鹿、今は『式典』の最中だぞ! 国王様も、それにあの姫様アイドルグループが来て、ライブしてるんだぞ? 警報なんて鳴らしたら外が大パニックになるぞ!」


「だからって!」


「いいか、この中で全て処理するんだ! 奴らを絶対にここから出すな! 可能な限り生かして捕えろ! だが、状況によっては始末も許可する」



 うわお、しかも向こうは既に殺気立っているよ。

 お茶を飲み交わして自己紹介なんて雰囲気じゃねえ。

 俺たち全員を拿捕しろと、おそらくこの設備全体に発令してんだろう。

 そう、拿捕するつもりだ…………



「とりあえず、今は抵抗しないで大人しく捕まっておくか?」


「ええ! あなたたちもお願い! 私が事情を説明するから、大人しくして!」



 話せば分かるかもしれねーしということで、一応提案してみた。

 アイボリーも、必死に懇願している。


「うん、俺もそれは賛成なんで!」

「そ、そう、そうしたほうがいいよ、ヴェルトくん!」

「異議なしでござる!」

「同じく」

「仕方あるまい」

「うーむ、まあ、それもそうなのだ。帰る方法も教えてもらえるかもしれないのだ」


 コスモスの票を抜かして、俺を含めた八人のコンセンサスは取れた!

 よし、これなら…………



「はっ? 何言ってんの? 捕まる? 僕が? バカじゃない? そんなの死んでもゴメンだよね?」



 あっ…………



月散げっさん




 次の瞬間、このドアホウが月光眼を発動させ、俺たちを覆っていたカプセルを散開させ、更には白衣の連中が覗いていたガラス窓すら粉々に砕いて、白衣の連中を吹っ飛ばした。



「帰る方法が分からない? なら、こいつら力づくで従わせればいいでしょ? なんなら、何人か殺しちゃえば良くない?」



 俺たちの意思統一など、今のカプセルやガラスのように粉々に打ち砕きやがった、世界最悪の異形種にしてクソ王子!

 ジャレンガのあまりにもアホな行為に、俺たちは全員同じ顔で固まっちまった。


 それは同時に、俺、コスモス、ムサシ、バスティスタ、ジャレンガ、リガンティナ、エロスヴィッチ……


 そして、この濃すぎる連中の中にぶち込まれてしまったというか、巻き込まれてしまった、ニート。そして、ペット! ……ん?



「ふぇええええ!? な、なんで、なんで、私はどうしてこんなことに~~!?」



 ペット!? 

 なんか、奇妙な縁で集結しちまった一蓮托生なイベント開始の合図となった。

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