第467話 これが俺の幸せ
今、嫁が『全員』家に居ない。
そもそも『全員』って表現がおかしいことは分かる。嫁が一人じゃない時点で俺の人生はどうなのかと思うが事実だ。
そして、その嫁たちが現在、誰も家に居ないし、近くに居ないというのはどういうわけか。
夫婦仲が悪化? 別居? そういう理由ではなく、普通に『仕事』だそうだ。
俺には複数の嫁が居て、その全員が各国、『各種族』の重要なポジションだったりするのである。
また、変な言葉が出た。『各種族』というのは、その名の通り、俺の嫁の中には種族的に『人間』じゃないやつも居る。
ついこの間まで、人間、魔族、亜人と異なる種族が多種多様に存在するこの世界では異種族間同士の戦争を遥か昔から繰り広げていた。
そんなこの世界からすれば、異種族の嫁さんを貰うのは異例なことではあるのだが、なんかそうなった。
さて、そんな俺は、今、何をやっているか?
前世ではただの不良高校生だった俺も、修学旅行の事故で死に、クラスメートごと、ファンタジーな異世界に転生した。
年代も種族もバラバラに転生した俺たちだが、皆、今はそれぞれ第二の人生を送っている。
まあ、再会してないやつもいるし、覚えてない奴もいるので、全員分は把握していないが。
そして俺は、何年も前に前世の担任と奇跡的な再会を果たして、今じゃ家族同然に一緒に暮らして、ラーメン屋で働いている。
朝から晩まで働いて、クタクタ状態になって、いつも仕事終わりにベッドにダイビングする。
そして……
「パッパーッ! おっふろ! おっふろ! おっふろ終わったら、あそぼ! あそぼ! ご本も読んで!」
さて、そんな朝から晩まで働いて、疲れきってベッドにダイビングする俺の背中に飛び乗ってきたのは、父親の労働の疲れなど微塵も分からない、三歳になる愛娘である、コスモス。
背中に翼があるが、嫁の一人が天使なんで、娘も天使。実際の種族的には天空族っていう、世界の上空に住んでいる種族らしいが、まあ、もう天使だ。
母親似のサラサラの金髪、エメラルドの瞳はパッチリと開いて、純粋度1000パーセント。
ただ、最近はちょっとワガママだったり、すぐに拗ねたりする。
「こら~、コスモス、ダメだよ、兄ちゃん疲れてるんだから~。困らせたらダメだよ~」
そんなコスモスをお姉ちゃん風吹かせて止めるのは、まだ年齢一桁なのに、妹分のようなコスモスの存在相手に、しっかりとした態度を取る、俺の先生の娘にして、実質俺の妹分というか、もはや本物の妹。ハナビ。
「やーっ! パッパと遊ぶッ! だって、パッパ昨日も遅くまで頑張ったもん! 昨日も今日も頑張ったから、コスモスと遊ぶ時間あるもん!」
「昨日も今日も頑張ったから、兄ちゃんは疲れてるの。コスモスもそれが分からないと、大人のレディにはなれないんだよ?」
「コスモス大人やだもん。コスモス子供だもん。コスモスは、ずっと、ず~~~っと、パッパの子供だもん!」
さて、さっきも言ったが、朝から晩までクタクタになるまで働いて、今にも寝たい俺。
嫁も今は実家に帰省中で、娘は遊び相手がいなくて、かなりご立腹になっている。
俺の疲れなんて知らずに、ギャーギャーギャーギャー背中の上で騒いで暴れて……。
たとえばだが、前世のサラリーマンとか、こういう状況ではどう思っただろうか?
朝から晩まで働いて、疲れて、それでも家族のために働いて頑張ってるのに、ようやくその仕事が終わって、疲れた体を休めるために、大爆睡したい状況下、娘が「遊べ遊べ」コールをしてワガママ言う。
そんな娘にどう思う?
これは、個人の見解かもしれないが、俺はこう思う。
「ったく~……仕方ねえ……コスモス! ハナビッ! さっさと風呂入って遊ぶぞーッ!」
「やたーっ!」
「あーーーっ! も~、兄ちゃん優しすぎるよ~」
もうさ、可愛くて仕方ないのな。つか、元気出て来るわ。
「パッパ! おっふろ! おっふろおっふろ♪」
「あ~、もう、コスモス、こんなところで脱いじゃダメ! レディは、つつしみもたないとダメなんだぞ~」
「くはははははは、そうだぜ、コスモス。ハナビねーねの言うとおりだぞ?」
てかさ、これ、ぶっちゃけた話し、幸せすぎる生活なんだが。
いや、ついこの間まで……嫁がまだ居た頃は……その、嫁に毎晩毎晩夜の営み的なのや、修羅場とか、普通に死に掛けていたからな。
それこそ夜、俺は服着て寝たことがなかったってぐらいな。
でも、今は違うッ!
「兄ちゃん、私も入る。背中洗ってあげるね」
「あーっ! ハナビねーね、コスモスも! コスモスもパッパ洗うもん! コスモスはえらいもん!」
一日の疲れ? なんだそれ? もう、そんなもん忘れた。疲れなんて吹っ飛ぶ。
前世で、サラリーマンはこう思ったんじゃないかな。
そう、「会社の疲れもストレスも、娘の笑顔一つでふっとぶ」と。
いや、疲れなんて吹っ飛ぶに決まってるし。それが俺の場合は幼い妹まで居るし。
だから、ハッキリ言おう。
嫁がいないこの状態が、今の俺の幸せかもしれねえ。
「もう、二人ともエラすぎるっ!」
ほんと、俺という人間にしては信じられないことだと思う。たぶん、前世の俺のことを知っている奴らからすれば、今の俺は確実に変わっている。
親に、教師に、学校に、世の中に反発して生きてきた不良だったクズの俺が、娘のために、家族のために、汗水たらして仕事をしているんだ。そして何よりも、その生活が全く苦にならないというところが最大のポイントだな。
「きゃっほー! おっふろ、もくもくしてて、見えな~い! おもしろーい!」
「ほら、コスモス、湯船に漬かるなら、まずは体を洗ってからな」
「ぶ~、パッパ、マッマみたいなこと言ってる~」
「あたりめーだ、今は俺がマッマもかねてる!」
「え~、でも、マッマはおっぱいないとやだーっ!」
「いや、マッマの胸を持ち出されたら困る。爆乳天使だし」
「パッパはパッパだも~ん♪」
ここで、コスモスが「マッマに会いたい!」とか、ワガママ言ったり、寂しい思いをしてたりしたら少し状況も違うのかもしれないが、基本コスモスは、今は毎日楽しそうだ。
その要因はまあ、俺の他にも……
「ししししし! ねえ、兄ちゃん、はい! 背中ゴシゴシ」
「お、おお~」
「兄ちゃん、今日もお疲れ様!」
この、出来すぎる妹がコスモスの面倒も見ていることも大きい。
まあ、普通に、先生もカミさんも、コスモスのことを孫みたいに可愛がって寂しい思いをさせないのもある。
そして………
「殿――――――――――――――っ! 入浴されるなら拙者にも一言言って戴かなければ困りますっ! 拙者が割った皿の片付けに没頭して、マスターに説教されていたことで殿がその手を煩わせることになるなど……このムサシ、一生の不覚でござるっ!」
そして、こいつが皆を飽きさせないのもある。
涙流しながら、全裸で登場してきたこの女。いや、メスになるのか?
虎耳、虎の尻尾を生やした、亜人の虎人族であり、俺の右腕だとか懐刀を自称するペット。
「いや、ムサシ~、別に風呂ぐらい自分で入るぞ?」
「あ~、ムサシだ~。ムサシ~、じーじにおこられてたーっ!」
「ムサシ姉ちゃんもお風呂来ちゃったの? 四人だと狭いよ~」
その名は、ムサシ。
前世じゃ世界一有名な侍の名を持った、武士。
まあ、偶然再会した前世の剣道部だったクラスメートの孫娘ということでそういう名を付けられたわけなんだが、色々あって今では俺にベッタリとなってしまった。
「なりませぬっ! 拙者は戦いしか脳のない阿呆ではござらん。戦場では殿のために誰よりも勇猛果敢に戦い、そして日常では誰よりも殿の御身に尽くすこと! それが拙者の存在意義にございまする! ……それに、目を離した隙に嫁が増えぬよう、奥方様たちに監視を強く命ぜられているのもありますが……」
「おーい、聞こえてるぞ、ムサシ。嫁が増える? お前、俺をなんだと思ってんだよ」
「コスモスだよっ! コスモス、パッパのお嫁さんになるんだもん!」
「私は、兄ちゃんが選んだ人なら、ハナビにとっては良い姉ちゃんに決まってるから、増えてもいいよ?」
とまあ、こんな感じで今、俺の毎日が動いてる。
そんな日々が楽しくて楽しくて、だからこそだからこそ、強く思う。
頼むから、カオスな日なんて、もう来るなと。
結論。無理。
――あとがき――
お世話になっております。お前との再会からも長いこと長いこと編のスタートです。新章ではこれまでなかった組み合わせで色々楽しくカオスになりますので、引き続きよろしくお願い致します!
あと、下記もよろしくです。完結しました。文量的にも気軽に読めると思います。
『瘋癲のバッドヒーローズ~魔界拳王子と悪童勇者たち』
https://kakuyomu.jp/works/16816927861300437050
中編の「イケメンコンテスト」に登録しており、フォローとご評価していただけましたら嬉しいです。
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