第460話 俺たちは生きている

 互いに無尽蔵の魔力。ほとんど似たような戦闘スタイル。


「大ビーム警棒ッ!」

「スーパーエナジートンファーッ!」


 見事に噛み合い、終わりが見えねえッ!

 ぶつけ合い、ぶつけられ、それでも引かずにまたぶつけ合う。

 飛び散る魔力の破片が四方に飛び、空気中に分解され、中には隕石のように地上へと降り注いで爆音を上げている。

 次第には、魔力の気流が俺たちを包み込み、何人も踏み込めねえ聖域として、俺たち二人の世界を造り上げた。

 

「全く、どーなってんだよ、この世界はッ!」

「そうだね、朝倉くんッ!」


 女を相手に。ましてや、かつて惚れていた相手だぞ? 

 そんな相手に、武器を持って、全力でぶん殴りにかかる。下手したら致命傷を飛び越えて即死の領域。

 そんなもん男として最低という評価を飛び越えて、かつて惚れた女にここまで出来るこの状況、最っ高過ぎるじゃねえかよ!


「オラァ! どうした、神乃ォ! それで全開か? まだ、その中二病の瞳が残ってるだろうがッ!」

「そいつは野暮ってもんだぜい、朝倉くん! この紋章眼は友達を生み出すための瞳。この光景の邪魔させるもんじゃねえってことだい!」

「何が野暮だッ! いつでも空気読め子なテメェが、語ってんじゃねえッ!」

「いつでもヒネクレなヒネ倉くんに言われたくないよーだっ!」


 っていうか、何でこんなに面白いんだよッ!

 気づけば、あれほど「殺せ」とコールしていた戦場も、俺たちの戦いに言葉を失ってただ見上げているだけだった。

 そしてようやく訪れた僅かな区切りの瞬間に、まるで呼吸を忘れていたかのように息を吐き出す声が一斉に聞こえてきた。


「ぷは~~、な、なんつう二人だ!」

「なんて攻防だ! こんな戦い、見たこともねえ!」

「人間同士で、どうしてこんな力が?」


 吐かれた息と同時に漏れる言葉の数々。それはもはや、「悪党・クロニア・ボルバルディエを殺せ」という言葉が無かった。

 ただ純粋に、戦いに生きる者たちの目で、俺たちのことを見ていた。

 そしてその声は、一般兵たちからだけではない。



「ぐわはははは、やりおるのう、二人共。三大称号を得ていない者同士の戦いが、ワシらとなんら遜色ないレベルに達しておる。太古より続く偉大なる大戦に関わることなく、ただ己の道だけを突き進んだ者同士で、これだけの高みに達するとは、面白いのう。見ていて気持ちいいわい」


「確かに、殺し合いというよりも、ぶつかり合い。見ていてなんだか面白いわねん」


「殺意も敵意もない。だからといって、訓練でもない。それでいて真剣……よく分からないのだ」


「そう深く考える必要はないゾウ、エロスヴィッチ。ヴェルトくんは……ただ、小生らのような大義や正義だとか余計なものを考えず、ただいつも自分をさらけ出して戦う。それだけだゾウ。だからこそ、自然と相手も自分をさらけ出してしまうゾウ」



 三大称号の一つ四獅天亜人も………



「ヒュー、エキサイティング。ヴェルトも、ミス神乃も、……気持ちよさそうだ」


「ふっ、クロニアめ……今日は随分とハシャイでいるようだな」



 最強の七大魔王も……



「……初めて見た……ヴェルトがあんなに楽しそうに戦うところを……」


「ウラ姫……そうね……確かに、違うわね」


「ッ、どうしてでしょう……ヴェルト様とコスモスが居て、ヴェルト様と寄り添って、口づけをして、抱かれ……私はこれ以上ない幸福の中に居るのに……あの女性が……羨ましいと思ってしまいます」



 嫁たちも………



「何だか見惚れてしまいます。こんなに……こんなに楽しそうな戦争は、見たことありません」



 この世界を代表する勇者ロア……



「見てみな、マニーちゃん。あの二人は、意識しなくても、ただ、そこでじゃれ合ってるだけなのに、今、世界中がパナイ注目しているよ。打算も悪意もなく、ただ、そこに居るだけで。ほんと、どーやったら、あんなふうになれるんだろうね?」


「……ヴェルトくん………お姉ちゃん……」



 世界を狂わせた悪党どもも同じだ。

 誰もが俺たちにその視線を向けても、それでも誰も邪魔できない。

 ああ、なんか気持ちいいや………



「オラァ! ヴェルト、おまえ、何をグズグズしとんのやっ! 女に負けたら承知せえへんで! 神乃ッ、その調子でヴェルトをいてもうたれや!」


「へい、ミス神乃! ガンバだ! ウルトラガンバッ!」



 そんな俺たちを更に煽るように、ジャックとキシンが、敵も味方も関係なく声援を上げた。



「おい、キシン! ジャック王子! 何を囃し立てているゾウ! あの、クロニア・ボルバルディエ、ふざけた態度ではあるものの、実力は本物だゾウ! そんな笑って見ている余裕はないゾウ!」



 無論、そんなの不謹慎だとカー君が止めようとするも、この気持ち、この戦いがどういうものなのかは俺たちにしか分からねえ。

 するとどうだろうか? 

 ある特定の奴らから、次々と声が上がる。



「ヴェルトくんッ! ちょっとやりすぎじゃよ! 神乃さん、少しヴェルトくんは懲らしめてやるのじゃ!」



 バルナンドから…………


「大ジジ! 何故、殿の敵に声援を送るでござるっ!」

「参謀? 参謀が……笑っておられる」

「ほほう。嬉しそうじゃな~、バルよ」


 さらには……



「まったく……いい加減にしなさいよ、二人共! イチャイチャイチャイチャしちゃって! 美奈ッ! 人のハニーをそれ以上独占は許さないわッ! さっさと終わらせなさいッ!」


「あははははははははははっ! おーい、神乃ォ! そいつはあたしの初めて奪った最低野郎なんだ! そんなヤリヴェル、さっさとぶっ飛ばせーっ!」



 アルーシャとアルテアからも……


「アルーシャ姫、それにアルテア、お前たちどうしたというのだ!」

「ヴェルト様が心配ではないのですか?」


 さらには……



「いや~、あれが美奈ちゃんか~、く~~~~、かっこよくなりすぎですよ! もう、やっちゃえーっ! ほら、ニート君も応援応援ッ!」


「あ~…………………そのリア充ぶっ倒せ~」



 ニートとフィアリからも。

 さらには……



「はは、パナイよ……パナイよ、二人共ッ! 小早川先生……鮫っち……クラスメートのみんな! 見ているかな? あの時と同じだよ。教室で、メチャクチャな美奈ちゃんに朝倉くんがムキになって大声で言い合って、それがおかしくてみんなで爆笑して……あの時と同じ光景だよ!」



 その声を震わせながらも嬉しそうに呟くマッキー。


「ラブ……どうして……そんなに嬉しそうなの?」

「嬉しいに決まっているじゃないか、マニーちゃん」


 この世界に存在するほとんどの者には分からないだろう。

 でも、『俺たち』には分かる。



「あの時、俺たちはパナイ理不尽な事故で、その学生生活も、人生も、全てが終わって死んだ。でもね……でも、ここにあるんだ! あの時、死んだと思っていた、俺たちの青春時代は、世界も輪廻も超えて、今もパナイ生きてるんだッ!」



 そうだ。俺たちは死んだ。



「俺たちのクラスは生きているんだ!」



 でも、俺たちは生きているッ!

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