第459話 最高だ

「そいやああああっ!」


 豪快な旋風。轟音響かせ繰り出されるトンファーの一撃は強力無比!


「ルアアアアアッ!」


 だが、受身には回らねえ。

 向こうが力づくで振り下ろすなら、こっちも力づくで振り上げる。

 力づくで振り上げてくるなら、振り下ろす。

 激しい金属音が大気中に衝撃波を生み出す。

 一撃一撃ごとに腕から全身へと激しい痺れが襲いかかるが、俺たちは一歩も引かねえ。

 互いに一撃で相手の頭蓋骨を粉砕できる武器を持ちながらも、ミソなのは俺たちの武器は互いに片手で振り回せる故に、剣や槍に比べて軽量で高速の世界で攻防することができる。

 俺は気流や魔力を纏い、神乃は遠心力を使って粉砕する。


「喧嘩殺法・トンファーキック!」

「ふわふわ乱キック!」


 かと思えば、フェイントで蹴りを互いに出すもんだから、どうにも相性が良すぎると、思わず攻防の最中に笑っちまった。



「くはははは、ドンくさい天然劇場が随分とアクション的な舞台もこなせる様になったじゃねえかよ!」


「そりゃーもう、裸一貫からの成り上がり、この世界を生きていくためには、もう、てーやんでーべらんめーな日々だったからね!」


 

 まさか、こいつとガチでやりあう日が来るとは思ってなかった。

 でも、不思議だな。

 前世では訳わからなすぎたこの女。だけど今は、誰よりも分かる気がする。


「けっ! てーやんでーべらんめーは俺の方だぜ! テメェの妹が散々人の人生をメチャクチャにしてくれたおかげで、望んでもねえのにこんなんなっちまったからよ!」


 全力で互いをさらけ出す。

 ベタであんま好きじゃなかったが、こういうコミュニケーションは確かに存在するんだと認めざるを得ない。

 だから、今も俺はやる。



「いくぜ! 魔導兵装・ふわふわ世界ヴェルト 革命 《 レヴォルツィオーン 》!」



 今は、気持ちも高揚してこれまで以上に世界を掴める気がする。

 全身に漂う世界の魔力、光、そして燃え上がる魂が、俺をいつも以上に引き上げる!



「うわっほい! これはキマシタねーっ! スーパー変身! 君は戦闘民族だったのかね!」


「不良は縄張りを支配してナンボだからな! ふわふわランダムレーザー!」



 周囲の四方八方の死角から繰り出すレーザー光線。

 さあ、どう防ぐ?



「よっ、ほっ、ほいや!」


「ッ!」



 全身を捻らせ、普通に次々と回避しやがった! 

 死角から放ったレーザーを、まるで予知していたみたいに?



「はっはっはっはっは、これで驚いたらダメンズですよ~、朝倉くん」


「テメェ、どうやって?」


「朝倉くん。ぶっちゃけ、君の戦いの原理はよく分からんちーのだけど、こういうの私は得意なんだよね。野生の勘? ううん。空気の流れを感じ取ること」


「空気の流れ?」


「そう! 空気読めないKYなのに、空気の流れを分かっちゃう私、これいかに?」



 いや、本当に驚いた。

 神乃自身は分かってないんだろうけど、お前、それは、っていうか空気の流れを感じ取って攻撃回避とかそれも俺と全く同じ……



「そして、空気だけじゃないよ。この天下を全て私の味方だよ! そう、反撃開始!」



 一瞬、俺が神乃との共通点に若干心が緩んだ隙に、神乃は次は自分の番だと、全身に魔力を漲らせる。

 するとどうだ? 雲一つなかったはずの神族大陸の晴天が、とたんに薄暗い雨雲に塞がれ、空が急に乱れた。

 そして、



「天候魔法・雷嵐サンダーストーム



 ―――――――なっ…………ッ!



「天候魔法だとっ!」



 覚えている。それは、魔族大陸のヤーミ魔王国で戦った、『七つの大罪』の一人、ベルフェゴールとかいう奴と戦った時に使われた魔法。

 


「空気だけじゃないよ、この天地世界全てが私の思うがままなのだよっ!」



 次の瞬間、空気の流れを読むもクソもねえ。

 世界を一変させる猛烈な雷嵐が俺の全身と周囲に集中的に降り注ぐ。


「なっ、なろうっ!」


 全身に降り注ぐ雷。全身の自由を奪い、引き裂くかの如く俺を振り回す嵐。

 やってくれるぜ、このバカ女がっ!



「なら、その天を撃ち抜きゃいいんだろうが! ふわふわ極大レーザーッ!」



 だが、この雷嵐は俺の真上に出現した巨大な雨雲によって作り出されるってんなら、その雲を消滅させりゃいいんだろうが。

 溜め込んだ極大レーザー砲を真上に放ち、一気に雲を四散させて、青空を取り戻した。

 だが、


「やるねい! でも、巨大な雨雲のあとは、強い紫外線が降り注ぐのでご注意をッ!」

「ッ!」

「天候魔法・太陽光サンライト!」


 これもマジイ! 強烈な太陽の光が、一気に肉体を熱して焼き尽くす技だ。

 あの女、ワイルドになっただけじゃなく、バカのくせに随分とインテリな技を使いやがって!

 なら、


「けっ! 空気の流れを感じ取っても、テメェ自身が高速で動けるわけでもねえだろ?」

「およっ!」

「なら、一緒に地獄を見ようぜ、不良天然劇場姫!」


 俺の周囲に集中させて太陽の光で焼き尽くすなら、その周囲に神乃自身も入れちまえばいい。

 魔導兵装により高速化した俺の攻撃をなんとか避けることができても、俺が追いかける立場になっちまえば話は別。

 どこへ逃げようとも追いかけ、極限の接近戦を仕掛ければ………


「うあっちいいいいいいい!」

「ぐおおおおおおおおおおっ!」


 こいつにも太陽の光が降り注ぐって寸法だ。


「ぐぎゃあおおおおおお、って、ムリムリッ! 解除ッ!」


 照りつける太陽の光に耐え切れず、慌てて魔法を解除する神乃。

 どうやら、忍耐力は足りねえようだな。


「ふわふわビーム警棒ッ!」


 その隙をついて、巨大化したビームを警棒に留め、神乃めがけて振り下ろす。


「ちょっ、ビームセイバーとか、どんだけ君は私の心を擽るもんをやっちゃうんだよーっ!」


 これは、回避する暇さえ与えねえ。それを察知した神乃も、回避せずに二本のトンファーを交差させるように受け止めようとした。

 だが、その細腕じゃあ無理だ。


「ぐっ、ぬぐぐぐぐ、つああっ!」

「ルアアアアアアアッ!」


 最後は完全に力づく。

 空の上からトンファーごと押しつぶし、神乃を遥か地上へと叩き落としてやった。


「ッ、くっ!」

「くはははははは」


 何とか空中で制止して態勢を整えながら、上空に居る俺を睨みつける神乃。


「く~~~、レディに容赦ないぞう、朝倉くん!」

「あたりめーだ。容赦のいらねえ相手には、俺はとことんなんだよ」


 ほう、貴重だな。

 あいつが若干ムッとした顔なんて、前世では見れなかったからな。


「すごいな~、君は。ジャレンガくんや、ルシフェルくんも、君のことは面白いって言ってたよ」

「面白さについては、お前に勝てる気がしないんだけどな」

「そんなことないよ。結局私は騒いで君を連れ回してただけ。最後に皆から認められていたのは、いつも君の方だった」


 そんなことはねえ。だが、そう言えば向こうも、そんなことはないと互いに譲らねえ。

 その繰り返しだが、自然と頬が緩んだ。



「そう、私はかき乱すだけ。前世では、散々騒いだり、ふざけたり、色々したけど、それはきっかけだけ。いつも最後は誰かが何かをするのを応援して笑ってるだけ。だから、君みたいな普段はやる気ないのに、ちょっとやる気出したら結果出せる人が、羨ましかった!」


「そうかよっ! 俺からすれば、意地なんて張らずに、いつも自分を曝け出せるテメェの方が羨ましかったよ!」


 

 もう一度正面から来やがった。

 だが、天候魔法は確かに強力だが、魔導兵装をした俺を相手に、接近戦は分が悪いはず……


「いくよっ! 魔導兵装・ソーラーエナジーッ!」


 か、加速しやがった!


「うおっ!?」


 魔導兵装だと? 体中が電気を帯びたようにスパークしてやがる! どうなってんだよ!

 反射的に避けたが、後一歩遅ければ攻撃を食らってた。

 こいつ、何を?



「にひひひひ、これが私の魔導兵装。太陽の光を魔力に変換させて、超強化! 世界に優しいエコロジーだよだよ♪」


「太陽の光だと!」


「だから、さっきは咄嗟で出来なかったけど、こういう風に……天候魔法・太陽光サンライト!」



 さっきは自爆でその太陽の熱で悲鳴を上げていた神乃。

 だが、今の状態のまま、凝縮された太陽の光を一身に浴びると……



「うおっしゃーーーっ! 漲ってきましたーーーーっ!」



 太陽の光がある限り、その光の全てを魔力に変換させて自身の力に上乗せしちまう。

 まるで発電所のように全身を輝くエネルギーを漲らせる神乃の姿に、俺は怯むどころか、むしろ胸が高鳴った。

 なぜなら、大気に漂う魔力をすべて自身に取り込む俺と、天の光のエネルギーをすべて魔力に変換させて自身に取り込む神乃。

 互いに、人工的に無尽蔵の魔力を手にしてそれを力に変えるスタイル。



「くはははははははは! 最っ高じゃねえか、神乃ォ!」


「うっほほーいっ! 最っ高ですよーっ、朝倉くんッ!」



 ヤベぇ! 最高すぎる!! もう誰も俺たちを止められねえ!

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