第440話 ドリームチーム

「ふん、全くどうなっている。突如、頭のモヤが晴れて意識が戻ったと思ったら、我は狂獣怪人と戦っていたはずが、気づけば貴様と戦っていて、かと思えば、なんだアレは。我が誰かを見上げるのは初めてだな」



 ゴッドジラアの大きさからすれば、人形みたいな大きさだ。しかし、それでも実際に俺の横に来れば、明らかに規格外の生命であることには変わりない。

 黒いタキシード姿に赤いマント。肌は不健康そうに青白い。

 長い金髪の髪を全て逆立たせて、そのツンツン頭が何メートルも伸びている。



「だが、それで良い。天と地が荒ぶっている……今こそ、己を示せと我に語りかけている! 我は応えねばならぬなァ、至高の種として」



 それは、魔族大陸でも、洗脳された状態で現れたあいつだ。

 だが、あの時とは瞳の輝き、身に纏う雰囲気、威圧感がまるで違う。

 洗脳により無気力状態になった時とは比べ物にならぬほどの生命力を発し、自身の十倍の巨躯を誇るゴッドジラアに正面から待ち受ける、世界最強の魔王。



「この七大魔王の一人にして、魔族大陸最強のヤヴァイ魔王国の魔王! 弩級魔王ヴェンバイが生物の極みを見せてやろう!」



 七大魔王のヴェンバイ! あの野郎、洗脳が解けたのか! つか、そうか……どうりで見ないと思ってたら、あいつこっちで戦ってたわけか……あいつと……いや、『あいつら』と。



『あはははははははははははは! せーぶつの極みッ、キリッ! だってさ! あははははははは! 笑っちゃうよねー、マッキー。デイジちゃんに操られてたくせに、極み~だって!』


「ふっ、マニーラビットか……いや、マニー姫か? クロニアの妹……哀れな女が偶然手にした力で、高みに上ったつもりか?」


『つもりじゃないよ~………マニーは、マニーたちは、選ばれた人間なんだ! 選ばれた人間なの! そうじゃないなら………世界はマニーにこんな試練を与えないから!』



 ゴッドジラアが構わず前へと進む。ズシンズシンと一歩歩くだけで自信のように大地を激しく揺らし。

 すると、その時だった!



「なははははははははははははははは! でかいやん! あかんわ~、ごっつ興奮してきたわ~! そう思わんか?」


「ミートゥ~だ。初めてのライブを思い出す。恐怖と希望。ミーの演奏がヤジられるか、それともヒートアップするのか……ミーの歌の真価が試される………今こそ、フェスティバル!」



 ちょーーーーーーーーーーーッ! なな、なんかすごいことになってるんだけど、あいつら! 俺の見ていないところで、何をドリームコンビやってだよ!



『あははははは、キシン君……ジャック君……やあやあ、How are you? もうかりまっか?』



 ゴッドジラアから漏れた切なそうなマッキーの言葉。

 その言葉を向けられたのは、『竜化したジャック』に跨る『キシン』だ。



「なはははは、なんや、マッキー。どえらいことしとるやないか。せっかくさっきまで戦場を大騒ぎさせとった、木村田コンビの進化バージョン、ジャックポット&キシンの……」


「ヴェルトとレディ・ユズリハを真似た、『騎獣一体』を更にレボリューションさせた、『鬼竜一体』が霞んでしまった」



 それは、世界史上初の光景と言ってもいい。



「まあ、状況が状況だ。今の我は、お前と決着をつけるより、こちらを相手したいがどうだろうか?」


「ノープロブレム」



 広大な魔族大陸。七つの魔王国家の中で、最強の二大国家と呼ばれたジーゴク魔王国とヤヴァイ魔王国。

 その二大魔王国を率い、七大魔王最強にして、世界最強とも呼ばれた二人の魔王。

 魔王ヴェンバイと魔王キシン。

 この二人が、共通の敵を倒すために、共闘しようとするなんて、世界の誰が信じる?

 そして………



「森羅万象!」



 その時、巨大な大樹が大地より伸び、ゴッドジラアの足に絡みついた。



「ぬぬ……小生のこの技ですら、奴が相手では普通の樹に見えてしまうゾウ………」



 魔王だけじゃない。自分もここに居ると、ゴッドジラアに仕掛けるカー君。

 さらに………



「ぬふっ! ぬふぬふぬふぬふぬふぬふぬふ! ぬふふふふふふふふふ!」



 小さな体で、メッチャ、どピンクな巨大オーラを全身から発しながら、カー君のもとへ駆ける珍獣。



「きたのだきたのだきたのだきたのだ! 生涯何度目か分からぬ発情期が来たのだああああああああああああああ! カイザアアアアアアアアアアアアア!」



 戦場を駆け抜け、その小さな体を大の字に広げて空中殺法のごとくカー君に飛びかかる発情ロリババア。



「………ぬっ! ななな、な、どういうことだゾウ!」


「ヴェルトたちの言うとおりだったのだ! 生きておったのだ、カイザアアアアア!」


「エロスヴィッチ! お前は、行方不明だったはずだゾウ!」


「会いたかったのだァ! 夢なら覚めるななのだ! あう~~~~~、再会の、口淫なのだァ!」


「やめるゾオオオオオウ!」


「逃がさぬのだァ!」



 予想外の珍入者に、唖然とし、伝説の大将軍と呼ばれたカー君が後ずさりしようとするが、発情した捕食系ロリは逃がさない。

 カー君の太くたくましい鼻を、その小さな口を大きく開いて、あむりと口いっぱいにしゃぶりつき、まるで快楽に堕ちたメス犬のように「アヘ~」と幸せそうに半泣きしていた。

 何やってんだあいつらは………



「ぐわははははははははは、血肉沸き立つ戦場で、興奮で性欲が高まるのは至極当然じゃぞ、カイザーよ。戦場でも女を抱けるほどの器がないから、おぬしは人間なんぞに遅れをとったのじゃ」



 そんな感動の再会? に爆笑しながらも、同じように戦場に乱入するイーサム。

 さらに………



「でも、助けに来てくれた娘に感謝ね~ん。だって、こんなとんでもない歴史の分岐点に立ち会えなければ、私は一生後悔していたわ~~ん」



 こっちも復活してやがる!

 アルテアを見ると、ちょいと涙目だけどニッと笑って親指突き立てている。


「久しぶりねん♪ 生きていたのねん、カイザー」

「なっ! おまえ、洗脳は大丈夫だゾウ?」

「大丈夫よん。例え脳を支配されてたとしても………大事な愛娘のロストバージンの話をあんな大声でされたら、目を覚ましちゃうってもんよ~ん」


 網タイツに黒いレオタードという非常にセクシーな服装でありながら、姿は巨漢というか、デブ? 肌は色黒で、巨大な口に、スキンヘッド。

 頭部にチョコンと小さな耳二つ。巨大な口には真っ赤なルージュが塗られてるし。

 てか、やっぱ何度見てもその巨大で逞しすぎる手に、カラフルなネイルアートはミスマッチだ。

 だが、その異形こそ、この怪人の証。


「なんじゃあ? ワシだって可愛い可愛いユズリハちゃん奪われたわい」

「そうよねん。まさか、お互いの娘が、共通の人間の男に………皮肉なものよね~ん………でも、二年も経って、彼もアソコもだいぶ成長したようねん」

「ぐわははははは、まっ、そーいうことじゃのう! お互い、孫が楽しみじゃのう!」


 そして、これもまた歴史上初の光景かもしれない。



「ヴェルト君たちの仕業………一体、そっちでも何があったのか教えて欲しいゾウ」


「酒池肉林だったのだ。いや、肉林だけだったのだ」


「ぐわはははは、まっ、どーでも良いじゃろ。今はただ、新婚ホヤホヤのワシの娘と未来の孫のため………」


「そうね~ん。一肌も二肌も、全裸になるまで脱ぐわん。なんだったら、そのまま抱かれてあげるわん」


 

 その場にいた、一兵卒から部隊長、はたまた将軍や軍幹部のものたちも、これが夢かとも疑っただろう。

 つか、俺らももはや形容する言葉が思いつかねえ。言葉を失うとはこのことだ。

 神族大陸に突如現れた巨大なる破壊神ゴッドジラア。その存在に誰もが絶望しか抱かない状況下で現れたのは………



「全く。我はまだ夢の中に居るのか? これは、良いものなのか?」


「ノープロブレムだ。夢のような光景? ドリームは、叶えるためにあるものだ」


「もう、小生も知らぬゾウ。まさか、ヴェルト君との旅の行く末が、このような光景に繋がるとは驚きだゾウ」


「問題ないのだ。あとで、カイザーと、○○○を、イマ×ラ×ピー▽○■ピー■、して、ぷにマ○Z××、▽■ガバにするまでは、死ねないのだ」


「ぐわははははははは、洗脳されてただらし無い奴らは、足引っ張るでないぞ?」


「引っ張った分は、愛と勇気と、そしてまた愛で補うわん」



 数百年と続く長い異種族間の戦争において、未だかつてないほどの規模での共闘。

 この中の一人の存在だけでも、世界を左右させることができるほどの者たち。

 それは、一人一人が、この世界の戦争の歴史そのものである。

 世界最強の魔王二人に、四獅天亜人大集結による、究極チーム。

 世界の戦の歴史そのものが、神の力に挑む瞬間だった。


「ヤベ………燃える………」

「ヴェルト?」


 これを見せられて、熱くなるなって方が無理だ。



「ドラァ! 乗り遅れるぞ! 早く行かねえと、マジであいつらで終わらせちまうぞ?」



 あいつらだけにやらせるかよ! 俺もやる!

 全く、単純だよ、俺も。そして、俺と同じように興奮の震えが止まらないこいつらも。

 この絶望をどうすりゃいい? と思っていたはずの思考が、いつの間にか、俺も負けてられるか! に、変わっていた。


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