第439話 全員集合

 俺はふと、昔を思い出していた。

 前世の記憶を取り戻して間もない頃。この世界を受け入れられず、ファンタジーなんかクソ食らえと思っていたガキの頃。

 もし、俺がもう一度あの時の気持ちを口にするとしたら、こう付け加える必要がある。


「あのさ、ファンタジーは勘弁願いたいからって、特撮とSFの世界も勘弁してくれ」


 というより、もうあまりにもスケールが違いすぎて、どう対応していいのかまるで分からん。

 つうか、なんだよこの怪獣は。


「地上には、これほどの生命が存在するというのですか?」

「ふざけるな……これは……神か? それとも悪魔か?」


 やってやろうという気持ちを根こそぎへし折るこの怪物。

 こいつと対面して、正直、何をどうすればいいのか、全然分からん。


『さ~~~~~て、マッキー。ここで戦っちゃうと、私たちの夢の国が壊れちゃうよ?』

『おっと、そいつはいけないねー、マニーちゃん。子供の夢を壊しちゃダメダメ』

『それならさー、先に~、ゴミ掃除からしちゃおうよ~』

『ほうほう、ゴミ掃除とな。では、そのゴミはどこに散らばっているのかな?』

『ふふふふふふふふふ、散らばってるよ~。……あっちにいっぱい』


 ゴッドジラアが首を右に向ける。その先には、至る所から、戦の硝煙が上がっている。

 って、あっちには!


『亜人と魔族のゴミ掃除……い~~っぱいいるよ~♪』

『……ひはは……うん、いっぱいいるね』

『聖騎士の計画に加担しちゃうことになっちゃうかもだけど、やっとく? やっとこ! 神族の兵器を使った、ゴミ掃除をね♪』


 あっちには、エロスヴィッチ軍、シンセン組、六鬼大魔将軍、そして、キシンたちがいる!


「まずいっ! いくらキシンたちでも、あんなのは!」

「い、いや、し、しかし、ヴェルト、どうやってあんなの!」

「つっても、やるしかねーだろうが! いや、もう俺も何をどうすりゃいいのか分かんねーけども!」


 俺も言っててメチャクチャなことはよく分かってる。

 でも、今、動かねーとマジで世界は終わる。

 あんな怪獣野放しにしたら、みんな死ぬ。

 みんな……!


『じゃあ、後でね、ヴェルト君。一番ムカつく君は、一番最後に殺してあげる♪』


 巨大な地響きと共に、ランドを壊さぬようにゴッドジラアが外へと向かっていく。

 つか、一歩の歩幅がでかすぎる!


「にににににに、にいいさああああん、おお、オイラ、オイラ~~~~!」

「ドラ、背中に乗せろ!」

「ひやあああああ! むむむむむ、無理っす! あんなの絶対無理っす! 見せ場欲しいっていっても、こんなの無理っすーー!」


 ガン泣きするドラ。いや、その気持ちは分からんでもねえ。

 俺も両足震えてるし、ウラも、エルジェラも、クレランも、そしてニートやフィアリも既に表情に生気がない。


「せ、せっ、拙者は、と、殿、が向かうところがどのような死地であろうとも!」

「クソが……古代竜よりもデケー奴をハントするのは初めてだな」


 ファルガとムサシは戦う意志を見せるが、正直表情が引きつってる。

 唯一一番勇敢なのは……


「パッパーーーッ! おっきいの、いっちゃうよ! ピースちゃんを攫ったおっきいのが、いっちゃうよ! いっちゃやだーーー! パッパね、いく! いこうよー! お友達助けて!」


 一番勇敢なのがコスモスという俺たちの心のヤバさだった。

 でも………


「……あんな怪獣暴れたら……多分、クソ大勢死ぬな……」

「ファルガ?」

「世界連合は崩壊。七大魔王国も半壊。現状、世界の現存戦力がほぼこの神族大陸のこの地に集ってる。愚弟。テメエら。それがどういう意味か分かるか?」


 年長のファルガが、俺たちの意志を確かめるかのように真っ直ぐな瞳で語りかけてきた。

 そして、現実を突きつける。


「この地の戦力が全滅したら、世界は滅ぶ。そして、あのクソ女は、本気だ。そうなれば……人類大陸も、魔族大陸も、亜人大陸も、天空世界すら関係ねえ。この意味……分かるな?」


 ああ。分かってる。


「……それだけはダメだ……」


 その現実に、ウラが唇を噛み締めながら呟いた。


「あんなものを……メルマさん……ララーナさん……ハナビまで辿り着かせるわけにはいかない……」


 先生……カミさん………ハナビ……


「くはははははははははは!」

「ヴェルト?」

「ったく………あ~~~~~あ、好きな女を探しに出る旅が、ど~してこんなに紆余曲折しちまうんだか………」


 だが、結局、こういうことになっちまったんだから、仕方ねえ。


「だが、世界を破滅させられるような怪物を倒しちまえば、その時点で俺らはどうなる? なあ、ウラ」

「……それは……勇者か? それとも……英雄か?」

「違うな。世界を征服できる力を手にしたってことだ」


 違う。それは、この旅を……いや、監獄を出る時に決めた俺の旅の目的。

 あの時もそう、マッキーと一緒に話、そして決めたんだったな。



「マッキー。お前が教えてくれたんだ。世界征服をしろとな。その答えは、お前が言うようにこんなところにあった。今が『ソレ』になる『その時』なんだ」



 ああ、そうか。だから、さっきマッキーは俺だけに教えたんだ。



「マッキー、お前が教えてくれた世界を救うための方法である世界征服は、お前を倒すことで果たさせてもらう」



 俺に戦わなくちゃいけない理由を与えるために。

 あいつ……


「まっ、敵も黙って踏み台になってくれるわけでもなさそうだが、ここが互いの正念場ってのは間違いない。だから………」


 だから、行く。


「みんな、行くぞ。今こそ、俺たちの本領発揮する局面じゃねえか」


 すると、俺の言葉にどこか諦めにも近い溜息を吐きながら、みんなは頷いた。


「おい、朝倉……」

「本当に行っちゃうんですか、朝倉君!」

「ああ。ニート、フィアリ。お前らは念のため、そこらへんに居るガキ共を保護してくれ。いざという時は、地底に穴掘ってでも隠れてくれ。怪獣大決戦は、破壊に周りを巻き込むのが定番だからな」


 今、ニートとフィアリについてこいというのは酷な話。かつてのクラスメートの変貌に、心がまだ整理できていない。

 だが、それで構わない。

 だって、今の俺には………


「あら? ねえねえ、弟君、今気づいたんだけどさ……サラッと私たち……」

「あっ! そうです、ヴェルト様! 今、私たちの元に、コスモスが揃いました! これで私たち……」

「おおおおお! そうでござる!」

「確かにな!」

「そうっすよ! そう! 確かにそうっす!」

「まっ、クソのん気な話だが、これはこれで悪くねえな」 


 ああ、その通りだ。


「パッパ?」


 今すぐ友達を助けに行こうと俺のズボンの裾を引っ張るコスモスを抱き上げて、俺も笑った。



「これで俺たち、全員集合だッ!」


「「「「「オーーーーーーーーーッ!」」」」」



 ならもう、何も恐れることはねえ。

 俺たちは、二年振りなのに、まるでそれが当たり前のように、ドラの背中に飛び乗った。


「へへへへへ、なんすかね~、まだ恐いっすけど、なんかオイラ、さっきとは違う震えが感じるッす」


 そいつは、武者震いって言うんだよ、ドラ。

 そして、その気持ちは俺たちも同じ。

 さっきまで、あまりの圧倒的な存在の前にただ、ポカンとするしか出来なかったが、今、感じるこの震えは、自分の中で大きく何かが湧き上がっている証だ!


「ヴェルトーーーーッ!」

「ヴェルト君!」

「お兄ちゃん!」


 飛行したドラの後方から声が聞こえた。

 振り返ると、そこには竜化したユズリハの背に乗った、フォルナたちが居た。


「お前ら! 戦いは?」

「それどころではありませんわ! ブラックダックたちも気づけば姿を消して……でも、今はアレをどうにかするしかありませんわ!」

「というより、マッキー君と何があったのよ! しかも、あれ……ゴッドジラアじゃない!」

「あのさ、あたしらってファンタジー世界に転生したんじゃないの? なんで、特撮怪獣大決戦なん?」

「ムコ~~~~~~、なにあれ?」


 そりゃ、各々言いたいことや聞きたいことはある。ただ、動かなきゃいけないことも分かっている。

 正直、アレを追いかけてどうやって倒すかまではまだ何も考えてねえが、とにかく今は追いかけるしかねえ。

 ん? そういえば……


「イーサムと、エロスヴィッチはどうした?」


 世界最高クラスの大戦力が、どうして居ない?

 逃げたとは思えねえけど……


「お二人なら、物凄い勢いで駆け出しましたわ。……あの者と一緒に?」

「あの者? 誰だよ」

「どういうわけか分かりませんわ……アルテアさんとの戦いに反応したのか……それともデイヂの力が弱まったのかは分かりませんわ。ただ、突如洗脳が解けたあの者と一緒に、あの超巨大物体を追いかけて行きましたわ」


 洗脳が解けた? あの者? ……そういえばマニーは……ロアの洗脳に力を入れろと、その結果、他の洗脳が弱くなっても構わねえと……まさか!


「っ、喋ってる場合じゃないわ、ヴェルト君! まずいわ。ゴッドジラアが口をあけて、もう一度あのとてつもないエネルギー砲撃を撃つ気よ!」


 おっと、そうだった。まずは、アレをどうにかしねえと! 神族大陸の山を消し飛ばした威力だ。あんなもん、防ぐとか防がないとか、そういうレベルじゃねえぞ!


『えへへへへへ、逃げてる逃げてる逃げてるよ、ジャマなゴミさんたちが。でも、仕方ないよね~、それだけマニーたちが恐いんだから』

『恐いの当たり前だぜ、マニーちゃん。パナイもん、これ。じゃあ、恐がってるし、降伏してきたら許してあげる?』

『ううん。殺しちゃう♪』


 砲撃は止まらねえ。そして、見えてきた。ランドのエリアから離れた場所で、万を越える亜人たちの戦場の後。

 ほとんどのものが、立ち尽くし、逃げ惑い、しかし中には立ち向かおうとするものたちも一部見える。

 だが、立ち向かうといってもどうやって? ってか、あの砲撃をどうにかしないと、あの一帯全部が吹き飛ぶぞ!



『それじゃあ、まずは亜人だよね! アハハハハハハハハ! みんな滅んじゃえ! マニーにイジワルな世界なんて滅んじゃえええええええ!』



 やべえ、間に合わねえ! このままじゃ………



「大月光眼!」


「ロックンロールディープインパクト!」



 放たれた破壊光線が直線状に突き進み、すべてを消滅させるかと思った瞬間、それは現れた。


『……………あ~あ……ホントジャマだよね…………』


 山すら消し飛ばしたゴッドジラアの光線が拡散した。

 勿論消滅させるまでには至らず、バラバラになったエネルギーの塊が周囲に落下し、まるで隕石が落ちたかのようなでかいクレーターをいくつも作り、地形を大幅に変えた。

 だが、それでも、万の軍が居た戦場には、一切の被害を与えてねえ。

 そして、直線状に飛んだ破壊光線を防いだのは………



「ぐっ、なんという常識外れな力……我が全力の月光眼でもすべてを弾くことは叶わぬか……この身に届くとは……」


「そして、ユーの力で威力をダウンさせたエナジーでも、ミーの力で完全消滅できない……ベリーハードなモンスターの出現だ」



 そこに現れたのは、これまた全世界最強戦力とも言うべき規格外の存在。

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