第437話 恐れるまでもねえ

 にしても、合体? ゴッドジラア? 何が始まる。


「えへへへへ、、もしもーーーーーし、デイヂちゃん、聞こえるーっ?」


 その時、マニーは一人で叫んだ。というよりも、デイヂの名前を出していることから、テレパシーか?


「洗脳された『彼』をこっち送ってよ~。えっ? これ以上洗脳を強くすると、脳が壊れるかも? 他の二人の洗脳が弱くなる? ぜーんぜん、オッケーだよ♪ それだけで、私たちのこのランドに群がるおバカさんたちをお片づけできるなら、ぜーんぜんいいよ♪」


 なんか、色々ヤバそうだな! 


「ッ、エルジェラ、コスモスを! ウラ、クレラン、お前らは一応そこらへんのガキをどうにかしろ! ドラ、戦いが激しくなる! ガキどもをガードしろ!」

「勿論です!」

「分かった! 気をつけろよ、ヴェルト!」

「任せて、弟くん!」

「オイラの腕の見せどころっす!」


 切り替えろ。もう、全てが手遅れなんだ。


「ニート! フィアリ! 邪魔になんねーように下がってろ!」

「ちょっ、朝倉くん! どうして……彼、加賀美くんなんですよ?」

「おい、本当に戦うのかよ、朝倉!」

 

 俺は勇者じゃねえから、最後まで希望は捨てねえなんて言わねえ。

 もう、諦めるッ!


「ふわふわ――――」

「ひははは、おっと! グラビディフィールド!」

「ふわふわキャストオフッ!」

「ぬおっ!」


 俺のジャマをしようとしたマッキーの重力魔法を、発動と同時に俺はテキトーに飛ばした。


「パッパ! パッパーッ!」

「おとさん! おかさん!」

「来なさい、コスモス! そして、あなたもです、ピースちゃん!」


 こんなのに構ってる場合じゃねえ。


「ファルガ! ムサシ!」

「ああっ!」

「承知!」


 スピードならこの二人。ファルガとムサシが一足で、既にマニーの背後に回りこんでいる。


「ッ!」


 ワープの暇なんて与えねえ。


「あっ………」


 そして、二人も戦となれば容赦しねえ。

 ファルガの槍が、マニーの腹部を背後から貫き、マニーのドレスを鮮血に染めた。

 よかった、エルジェラがコスモスとピースをこの場から遠ざけている。

 この光景はキツイからな……


「あっ………あれ?」

「終わりだ、クソ女」


 マニーを………


「あっ!」

「でりゃあああっ!」


 そして、マッキーの頭部を、ムサシの木刀で叩き割る。

 いかにマッキーが重力魔法使いとはいえ、生身の人間。

 ムサシの速度と剣に反応できるわけがねえ。


「何をやる気だったかは知らねーが、終わりだ」


 こいつらが『何か』をやろうとした時点で、もう結論は出た。

 だから、その『何か』が発動する前に、終わらせる。

 そしてせめて、一思いに……


「愚弟が手を煩わせる必要はねえ!」

「殿の痛みは、このムサシが引き受けるでござる!」


 トドメ! ファルガとムサシが同時に手に力を込める。

 だが………


「破損確認シマシタ。特別保護対象者、マニー・ボルバルディエ及ビ、ラブ・キューティー。応急処置ヲオコナイマス」


 またしても聞こえてきた機械の声。するとどうだ? マニーの手にあったリモコンのようなものからマニーとマッキーに触手のようなものが伸びた。

 なんだ? するとその触手に触れた二人の体が一瞬発光し、気づけば………


「ひははははははははは」

「あーっはっはっはっは」


 二人の傷が塞がっている。服も真っ赤な血で染まっているのに、傷のあった場所は、何事もなかったかのように修復されている?


『ナノマシン発動確認シマシタ。以後、保護対象者ヲオートデ修復シマス』


 一体、何が……ファルガとムサシにも分かるはずがねえ。

 すると……


「パナイ恐いね~、科学の力は。ねえ? ヴェルト君」

「科学だと?」

「これも、ラブ・アンド・ピースが抑えている祠にあったものの一つ。『ナノマシン』だってさ。俺が逮捕されている間に、こんなもんまで見つけるとは、俺が作った組織とはいえ、パナイね~、ラブ・アンド・ピース」


 ナノマシン。なんか単語だけは聞いたことがあるような、ないような。


「俺たちがパナイ余裕だったのはこれさ。既に俺、マニーちゃん、そしてピースちゃんだけは、不死身の体になっちゃったりしてるわけ。まあ、痛みを感じるのだけは厄介だけど、まあ、それも生きている証だと思えばね」


 だが、マッキーとマニーの明らかに致命的だったはずのダメージを一瞬で治癒してやがる。


「ちっ。俺たちの仲間をやめただけじゃなく、人間もやめちまったか?」

「ひはははははは、人間って、そもそもなんだろうね~、ヴェルト君。生きるって、何かな~?」


 これは、ヴァンパイア並の治癒力だって理解すりゃいいのか?



「分かる? ヴェルト君。『普通』の『封印の祠』にあった神族の遺産ですら、こんなにすごいんだよ? なら、奇跡的な存在である紋章眼三つを揃えられなきゃ開けられないほど厳重に封印されたものには、どんな遺産があるのかな?」


「さーな! ふわふわレーザーッ!」


「ほぶっあああっ!」



 構うものか。今更、不死身の一人や二人で驚くことはねえ。

 むしろ、これで容赦は心の底から必要ねえってことだろうが。

 だから俺は、遠慮なく二人の顔面をレーザーで、ふっとばしてやった。


「構うな、ファルガ! ムサシ! 別に傷が治ったからって強くなったわけじゃねえ! 動きを抑え込んで、捕獲しちまえばいい!」

「ああ!」

「流石は殿っ! 拙者に任せてほしいでござる!」


 そして、不死身は無敵じゃねえってことを教えてやらねえとな。

 むしろ、楽に死ねないことが、地獄だってことをな。


「いくでござる、マッキーラビット! 我が父と母、そしてハイエルフの国の恨み! 今こそ、晴らさせてもらうでござる!」

「あ~、そうか、君、バルナンドくんの孫だからそうだよね……ちなみに、あのハイエルフの国にあった祠には……あんまりいいものはなかったな♪」

「ッ! きっさまああああああああああ!」


 ワザとムサシを挑発してやがる。まあ、ムサシも無理はねえ。自分の人生を狂わせた組織の親玉が、完全に敵として立ちはだかってんだ。


「グラビディゾーン!」

「許さぬでござる、マッキーラビットッ! 天と地が、例え神が許そうとも、決して拙者が許さぬでござる!」

「おおっ! 俺の重力場そのものを切り裂いて………ッ!」

「宮本剣道・二壊天!」


 だが、怒りでブチ切れたとしても、技のキレも見事なもんだった。

 ムサシも強くなっている。


「ッ、は、はやっ!」

「遅いでござる!」


 マッキーの重力場や魔法そのものを木刀で切り裂き、そしてその亜人の驚異的な身体能力で一気に懐に飛び込み、木刀という牙でガブりと相手に喰らいつく!

 二刀流で左右から繰り出した剣撃により、マッキーの左右のアバラ骨が完全に粉砕された音。完全に人体を破壊した音だ。


「うぶ、おぶえええ……粉砕された骨が、心臓に……」

「どういうカラクリでおぬしの怪我が一瞬で治るのかは分からぬでござる。しかし、それならば……たった一度の死では味わえぬ痛みを知るでござる!」


 相手が死なない。相手が倒れない。それならばそれで、とことん痛みを与える。

 


「空を道とし、道を空とみる。掲げし刃の矛先が、天下無双へと通ずるなり! ミヤモトケンドー・二天一流剣!」



 木刀の刀身が砕け散り、中から真の伝家の宝刀が顔を出した。

 吹き荒れる暴風を切り裂く天下無敵の斬撃が、全てを切り裂く。


「ああ、遠慮はいらねえ。………ここで終わらせるぞ!」


 すまねえな。キシン。ジャック。バルナンド。アルーシャ。アルテア。俺に、もうこいつを連れ戻すことはできねえ。

 ゴメンな………先生……


「ふわふわランダムレーザーッ!」

「ふぐあああああっ!」


 再生したとしても、強くなるわけでも、ピイトのように肉体がより強固になるわけじゃねえ。元に戻るだけだ。

 それなら、まずは両足を俺のレーザーで撃ち抜き………


「いけ、ムサシ!」

「御意ッ! 殿のご助力、恐悦至極! 必ずやッ!」


 身動き取れなくなったマッキーを、容赦なく切り裂け。ムサシ!

 右の刀を天から振り下ろすように。

 左の刀を大地をなぎ払うように。

 天と大地が交差する。


「宮本剣道・二天一流・天空天地十文字斬りッ!」


 人間が、まるで豆腐のように無駄なく四分割された。


「ッ……マッキー………くそ」


 不死身と名乗るぐらいだ。これじゃあ、死なねえって分かってる。

 分かってるけど、心が………クソ、ほんと女々しいな、俺は。


「殿、拙者らがいるでござる!」


 その時、一瞬下を向きそうになった俺に、ムサシが叫んだ。


「拙者らがいるでござる! 奥方様たちが殿の心を支え、お嬢様が殿の心を満たし、そして拙者がその御身をお守りするでござる! いついかなる時も、もう二度と拙者は間違いませぬ!」

「ムサシ……」

「今、殿が心を傷められても、必ずや拙者らが殿をお守りするでござる! だから、どうか! そのような顔をなさらないでぐださい!」


 つ~~~~~~~~っ! は~~~~~、俺は、ウッカリ侍にまで心配されるほど、辛い気持ちが顔に出てたか。

 くそ………


「決めるぞ、ムサシ!」

「ははっ! 御心のままに!」


 だが、俺はやる!


「四分割されたら………体がうまく動かねえだろ?」

「ッ!」

「ふわふわメリーゴーランド!」


 死なねえなら、意識を飛ばす! 不死身とはいえ、寝て起きるぐらいはするんだろ?

 なら、眠ってろ!


「おっ、おわあああああああああああああああああああ!」


 意識を世界の彼方まで飛ばしちまえ。そして、次に目が覚める頃には、全てが………


「魔法無効化フィールド」

「ッ!」


 その瞬間、俺の力が全て砕け散った感覚に襲われた。


「えへ、えへへへへへへへへへへ、えへへ」


 奴の仕業か? ファルガの槍術で、全身穴だらけになって血を流しながらも、狂喜を見せるマニー。


「一定の空間内なら……マニーを中心に……全ての魔法が消えちゃうよ?」


 触れるだけじゃなく、一定の空間内だと?

 あの馬鹿女、そんなことまでできたのか?


「クソ関係ねえ」

「へぶぐっ」


 だが、次の瞬間、マニーの正中線が一気に槍で貫かれた。

 おいおい、相手は女だぞ? と言いたくなるほど容赦ないファルガの攻撃は躊躇いもない。


「魔法の無効化? クソ無駄骨だ。テメエが魔法を帯びない攻撃には疎いことぐらい、理解している」

「ちょっと~……ファルガくんまでマニーをいじめちゃうんだ! いじめるんだ! いじめちゃうんだね!」

「そして、俺に転移魔法で近づいて、俺をどこか遠くにでも移動させる気か?」

「ッ!」

「クソ芸がねえ」


 一瞬でファルガの背後に回り込んだマニーだったが、既にそこにはファルガはいなかった。

 むしろ、ワープで現れたマニーの背後に既に回り込んでいた。


「あれ?」

「テメェの能力はクソ便利だが……戦闘で活かすには、テメェ自身がクソ足りねえ。経験がな」


 マニーの能力は驚異。過去には、俺も何度もハメられたり、痛い目にあってきた。

 だが、それはあくまで俺の強さと経験値が足りなかっただけの話。

 今の経験を積み重ねてきた俺でも、マニーのワープを使った戦闘には対応できる。空気の流れを読んだりな。

 そして今、マニーが戦ってるのは、百戦錬磨のファルガだ。


「ひゃうッ! 緊急脱出!」

「クソ無駄だ」

「えっ!」


 マニーが慌てて距離をとって逃げようとワープを使うが、ファルガは俺と同じように空気の流れ、そしてハンターとしての嗅覚や勘が、獲物の位置を事前に察知し、逃がさない。

 マニーがワープで逃げた先に、一瞬で追いつき、槍を突き刺す。


「が、はがっ……」

「驚異の能力も、魔法も、たとえ神の遺産だろうと、人は負けねえ。クソみてーな脳みそに叩き込んでおけ」


 驚異の能力と狂った精神だけで勝てるはずがねえ。

 これが、俺たちの仲間。マッキー、本当はお前もこっち側にいたんだけどな………


「気ィ抜くな、二人共! こいつら、最後の最後まで何をしでかすか分からねえ」

「もちろんでござる」

「ふん、いつも真っ先に気を抜いて痛い目みるテメエが、それを言うか?」


 この状態になっても生きている限り何かを仕掛けてくる。ナノマシンとやらで肉体を再生させようとも、致命的なダメージを食らわせた今なら、捕獲できる!

 すると………………



「アークライン剣術・ゲイルシンフォニー」



 ほらな、こういうのもあるわけだ。


「ッ、おぬしは!」

「………ちっ………」


 突如、俺たち三人の前に割って入った閃光の剣。

 ムサシとファルガがその光を捌いて防ぐものの、さすがの二人も現れたその人物には驚きを隠せないか。


「ひははははは、あ~、危なかった」

「えへ、えへへへ、デイヂちゃん、最高のタイミングで転送してくれたね♪」


 正直、破壊しまくったはずのマッキーとマニーの肉体も、声を発せる程度には修復されている。

 は~、めんどくさ………


「よう、見ない間に、随分とつまんねー顔になっちまったな」


 そこに居るのは、ひと目で勇者と分かる出で立ち。

 銀と水色の鎧。赤いマント。勇者の額あて。定番だな。

 だが、勇者の格好をしているものの、勇者とは言えない。

 クソみたいにキラキラした正義に満ちた瞳が、今じゃ操り人形の目になってやがる。


「真勇者ロア殿ではござらんか!」

「洗脳されたってのは、ほんとうだったか。クソが」


 ここで登場してきたか。だが、だからどうしたよ。



「そんなツラしやがって……少しは自力で元に戻ろうってのはねーのか? こういうのはどうだ? 俺、お前の妹と寝たんだが、そこんとこどうだ?」


「……………………………………」


「ちっ、張り合いねーな、義兄様は!」



 所詮洗脳は洗脳だ。


「愚弟、その話は本当か? それなら、こいつは俺の親戚になるわけなんだが」

「ファルガも随分と余裕あるんだな。今、その話題を持ち込むか?」


 勇者の特権。気持ちを力に変えるとか、そういうのはできねーんだろ? 俺とこいつが戦ってた時みたいに。

 だったら、何も恐ることはねえ。

 そう思った。

 だが………………


「これで準備万端だね、マッキー」

「……そーだね」

「倉庫から、贈り物も届いたみたいだし、…………じゃあ、後は全部こわしちゃおっか♪」


 不気味なマニーの目が光った気がした。

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