第422話 チームプレー

 一気に駆けだした俺たちに対して、迎え討つは五人の強敵。いや、洗脳ママンを入れたら六人か?

 だが、敵も当初はファルガたちの出現に驚いたものの、今では冷静になり身構えている。

 腰をじっくり据え、こちらを一瞬で分析した。


「所詮は四獅天亜人よりも劣る存在だっく。ならば、何も変わらないだっく」


 みんなそれぞれこの二年で強くなっていると思う。

 十勇者たちにだって負けない力や能力を持っている。

 だが、それでもイーサムなんかとまともにサシで戦えるかと問われれば難しいだろう。

 しかし、そのことは俺たちも既に理解している。

 その上で、ブラックダックの分析は、少しズレているのだと今から証明することにした。


「ふわふわどんでん返し!」


 それは、俺たちを待ち構えている五人と洗脳ママンの足元に起こした。


「ぬっ!」

「これはっ!」

「おおっと、びっくらこいたー!」


 地面の一部を壊して無理やり浮かせる。

 突如、足場がいきなり浮き出せば、いかにこいつらといえども、驚き、僅かでも態勢は崩れる。

 その瞬間、次々と俺は世界を変えていく。


「ふわふわ世界ヴェルト!」

「ッ、ヴェルト・ジーハッ!」

「ふわふわジャイアント・サンダーマウンテン!」


 ここが無人のテーマパークなら、これほどオイシイ環境はない。

 建造物、観覧車、コースター、ありとあらゆる素材は、俺にとっては戦いの武器になる。

 悪いな、マッキー。そして、マニー。

 二人の作った夢の世界は、今この瞬間からぶち壊させてもらう!


「おおおお、コ、コースターが飛んできた!」

「朝倉くん、開演前のランドを破壊するなんて鬼畜ですよ!」


 離れた場所にあったアトラクション。ジェットコースターを浮かし、そのまま敵へ突撃させる。

 俺にとっちゃ、ジェットコースターなんて、レールの上以外でも走らせることができるもんなんだよ。


「ほほう。小賢しいことをッ!」

「まったく、子供の夢を壊してくれるね~、不良少年」


 もちろん、こんなんで倒せるなんて俺だって微塵も思ってねえ。

 次の瞬間、飛んでくるコースターに向かって、ピイトが両腕を伸ばして、力づくで受け止める。

 

「崩れた態勢でよくもまあ、受け止められたもんだ」


 これも魔法も何もなしの素の力。恐ろしすぎるな。

 そして、ピイトが受け止めたコースターを、メイルが両腕のドリルを伸ばして粉砕した。


「やれやれ、多くの子供たちが楽しむ前に、あまり壊して欲しくないものだがな」

「折檻させてもらおうか、不良少年。悪い子を叱るのも大人の仕事なんでね」


 何事も無かったかのように俺の先手を打ち破った、敵二人。

 だが、これでいい。

 一瞬でも敵の態勢を崩し、視界も奪った。


「エルファーシア流槍術・レインストーム!」

「むっ……ぬぬっ!」


 粉砕されて飛び散るコースターの破片の影から、既に敵の死角に回り込んでいたファルガが、側面からピイトを容赦なく高速の連突きする。


「ぬおっ! ぴ、ピイト専務っ! これはこれは、随分と、せこいことをするじゃないか若者たち!」


 僅か一瞬でピイトの脳、首、心臓を側面から連続で突いたファルガの槍。

 まあ、これで仕留められるとは思わないが、まずは先手を奪った。

 さすがに急所を射たれて、ピイトも僅かに迎撃が遅れている。

 だが、その間に、不意をついたファルガ目掛けて、態勢を整えたメイル、そしてノッペラが向かっていった。


「くだらん、一瞬で砕いてくれる」


 ノッペラが早い。その豪腕振りかぶりながら、あの技をファルガ目掛けて発動しようとする。金縛りだ。

 しかし、ファルガはノッペラにまるで無関心。見てもいない。それは、ファルガ自身がピイトから意識を逸らすのは危険と判断したからだ。

 なら、今向かってくるノッペラはどうする?

 それは……


「トランスフォーメーション・『ラバースライム』」

「邪魔だ、メスザルがッ! 我が、心眼力の前に絶望するが良い!」


 こうする。仲間がフォローする。

 ノッペラの前にクレランが割って入る。

 だが、ノッペラも容赦ない。例え相手が女であろうと、構うことなく、金縛りで動きを止め、無防備になったクレランの顔面を思いっきりぶん殴った。



「いやああああああああ、おおお、お姉さんが殴られて、………ひぎゃああああああああ!」


「ちょ、な、なんなんで、アレ!」



 人間などミンチになるパンチを女であるクレランにぶちかまされたことによる悲鳴。

 だが、そのすぐ後に、クレランの身に起こった異常な姿に対する悲鳴が続いて起こった。


「な、なにいっ!」


 殴った本人であるノッペラからも驚愕の声が漏れる。

 顔面が捻れ、変形し、グニャッと曲がってしまっているのに、頭部が破裂することも吹っ飛ぶこともなく、そして捻れた状態のままクレランが何事も無かったかのように笑ったからだ。


「最弱の攻撃力でありながら、最高クラスの防御力。ラバースライム。全身が柔らかいゴムのような体質を持ったラバースライムは、いかなる打撃や衝撃が通用しないの」

「なっ、……モンスターマスターの力かっ!」

「んで、ボーッとしちゃっていいのかな~?」


 次の瞬間、ノッペラとクレランの周りに影が覆われた。

 何事かと見上げた瞬間、二人の真上には巨大な鉄球が降り注がれていた。


「ドラちゃん、私はへっちゃらだから、やっちゃって♪ ナイスアシスト!」

「ご主人様が言ってたっす! 女の子の顔殴るなんて、チョーMMっす!」

 

 眼力じゃ、鉄球は防げねえ。ラバースライム状態のクレランは潰されても潰れないから問題ない。

 しかし、相手は魔王。


「なめるな、愚か者どもッ!」


 力には力! ドラが口から吐き出した巨大鉄球を、正面から拳をぶつけ、殴り飛ばそうとする。

 なら、もう一回。


「ふわふわどんでん返し!」


 足場を崩す。これで態勢を……


「ちっ、同じ手が何度も通用すると思っているのか!」


 目の見えないノッペラの感覚は、おそらく常人よりも遥かに優れている。

 ゆえに、危機を素早く察知し、目が見えなくてもこの状況下で最善の回避を見つけ、それを実践する。

 一度やった技はそれゆえ、警戒され、見破られるのだろう。

 咄嗟にノッペラは、鉄球を力づくで殴り飛ばそうとする行動を力づくでキャンセルし、その場から全力で飛び退いた。


「伊達に魔王は名乗ってねえってか?」


 だが、ダメージは与えられなかったものの、顔色を変えることぐらいはできたか?

 まあ、顔色って言っても、ノッペラ坊なんだけど。

 しかし、相手はこいつだけじゃねえ。


「槍使いの男よ、そのスクリュー気味に繰り出される突きは、我ら地底族の螺旋を彷彿させる! なら、私と比べてみないかね?」


 俺たちの逆方向では、メイルがファルガ目掛けて両腕をドリルへ変形させて特攻しようとしている。

 だが、そっちには…………


「させぬでござるっ!」

「ちょ、こらこら、今は熱き螺旋同士の戦いをしようというのに、邪魔は感心しないぞ!」

「我が殿の兄上を狙うことは、万死に値すると知るでござる」


 既に、ムサシが回り込んでいる。

 だが、メイルは構わず腕のドリルを伸ばして特攻していく。

 突きに特化したドリル二つの一点突破は力づくでは破れねえ。

 なら?


「ミヤモトケンドー・昇竜下克上ッ!」

「つおっ!」


 後から聞いた話によると、剣道には巻き上げという技があるそうだ。

 相手の得物を押さえつけるようにしたまま、手首を回して、相手の得物を跳ね上げるという技らしい。

 左右のドリルの突きに対し、ムサシは二本の木刀で見事にメイルのドリルをいなして、跳ね上げた。

 無防備になるメイルの体。チャンスだ!


「超天能力・ブースト砲!」

「ほぐわっ!」


 その瞬間を待っていたかのように繰り出される、エルジェラの砲撃。

 エルジェラが伸ばした両手から、遠距離で激しい力の圧力を発生させてメイルを吹き飛ばす。

 いいじゃねえか! だが、勿論メイルとかいうのもこれで終わるわけでもねえが…………


「螺旋巻き巻き!」


 どこまでもふっとべと思った瞬間、メイル自身が回転し、天に届くほど巨大な螺旋の渦を竜巻のように発生させた。

 その渦は雲を突き抜け、エルジェラの放った力を無理やり四散させた。

 もちろん、相手は地底族最強。そう簡単じゃねえことは分かっている。

 だが、さっきまで大人の余裕の笑みを浮かべていたはずのメイルも、若干顔に真剣味が増しているのが分かった。

 しかし、これでピイトへの援護は消した。

 さあ、いけ!



「エルファーシア流槍術・スクリュープレス!」



 ピイトへ向けた一撃必殺の槍術。ファルガの全身のバネを駆使して、相手を貫くのではなく、むしろ粉砕する一撃。

 渾身の力を込めた一撃を、敵の心臓目掛けて……… 


「そこまで甘く見るな!」

「ッ!」


 それは、紛れもなくファルガの渾身の力を込めた一撃。

 だが、肉体を何度も突かれ、抉られ、その穴から血を流しながらも、ピイトは左胸を無防備に晒しながらも、何と貫通させずに堪えやがった!


「つ、貫けねえ……テメェ、筋肉で……」

「速さで分が悪いのは一瞬で分かった。しかし、お前の一撃は速度を重視するゆえに軽い。狙う場所が急所であるのなら、その箇所に力を込めれば、防げぬまでも耐え切れる」

「クソ筋肉化けもんがっ!」


 まるで、気功かなんかのパフォーマンスを見てるみてえだ。

 渾身の槍の一撃を、回避できねえとはいえ、受けきるか? 

 でも、『俺たちの攻撃』はこれで終わりじゃねえ。


「クソ魔族!」

「分かってる!」

「ぬっ!」


 ピイトも気づかなかった。ファルガをブラインドにして影から飛び出すウラに。

 ウラが一足で攻撃の間合いまで入り込んだ。

 ピイトもすかさず反応。だが、ウラに気づいたピイトは一瞬こう思ったかもしれない。「ウラの攻撃ぐらいなら耐え切れる」と。

 むしろ、規格外のパワーと能力を誇るピイト相手に接近戦を仕掛ける方が危ないだろう。

 そんなピイトに対し、ウラは………


「魔極神空手・武羅爾裏闇ぶらじりあん蹴りッ!」

「そんな軽い蹴りで――――――」


 ウラが繰り出したのは右ハイキック。その軌道を予測したピイトは、直撃する箇所に力を込めて堪えようとした。

 だが、突如ウラは、ケリの途中で膝関節を利用し、蹴りの軌道を変えた。

 ブラジリアンキックだ!


「ッ!」


 元々蹴りを回避する気のなかったピイトの意表をついた蹴りはピイトの頭部の着ぐるみ。位置的にはこめかみにめり込んだ。

 一瞬、ピイトの体が揺れたような気がした。 

 だが………

 

「女が徒手空拳を武器にするだけはあるが……やはり、軽いなッ!」


 ほんの一瞬で揺れた体は元に戻り、ピイトはすかさずウラに攻撃を振り下ろそうとする。

 片足上げた状態でバランスも悪く、回避できない。

 だが、ウラの目に怯えはない。なぜなら、俺が居るからだ!


「ふわふわ回収ッ!」


 ウラ、そしてファルガをその場から緊急脱出。

 後ろから引っ張るようにピイトの間合いから遠ざける。


「ぬっ……ヴェルト・ジーハッ!」


 横槍を入れるようで申し訳ないが、そんな睨むなよ。これが『俺たちの戦い方』だ。

 それに、いいのか? こっちばっか見てて。


「いただきっ!」

「ッ! ちいっ」


 それは、完全にピイトの意識の外からの奇襲。

 ドラの攻撃で鉄球の雨の中に消えたクレランが、ノッペラではなく意表をついてピイトに襲いかかっていた。

 そして……


「さあ、お母さんを養分にして生まれ、そしてたくさんの餌を食べて大きくなりなさい! ジャイアント・カンディール!」


 その肉体を発光させ、何かを発動させようとしているクレランは、隙のできたピイトの肉体の、ファルガが最初に付けた傷穴めがけて指先を入れた。


「おのれ……」

「うふ……あらら……可哀想に」


 傷口を二度抉る。それは聞いただけでもゾッとしそうなこと。

 しかし、それで呻き声を上げるピイトではなく、即座に体を捻ってクレランを弾き飛ばす。

 だが、肉体をラバースライムという軟体に変化させているクレランは、弾かれながらもゴムまりのようにバウンドしながら、俺たちの元へと返ってきた。

 なんつう、異形な光景だ。

 だが…………


「なるほどな。確かに、クソバケモンぞろいだな。様子見なんて必要ねえな」

「手応えのあった蹴りで無傷だと、さすがに私も傷つくな」

「個々の力と技量は圧倒的でござるな。一瞬たりとも、気を抜けないでござる」

「確かに、レベルが違うし、私なんか一対一じゃ勝てる気しないからね~」

「でも、オイラ、どういうわけか嬉しいっすね」

「ええ。この頼もしさ……負ける気がしません」


 それは、戦いが始まって、僅か数十秒の攻防だった。


「ちょっ……なんなんですか、あの人たち! なんというか、戦い方が、え~っと」

「…………強いのは強いんだけど、これはどういうことなんで?」

「フォルナ、どう思うかしら」

「ええ、アルーシャ。こういう戦い方でしたのね。彼らは」


 多分、敵も、味方も、驚きは同じだっただろう。

 

「ぐわははははは…………懐かしいのう……」


 それは、大きな血だまりの真ん中で固まったまま動かなかった、イーサムの口から漏れた言葉だった。


「ゴミ父ッ! 生きてたか?」

「おお、少し意識が飛びそうじゃったが……まあ、おかげで懐かしいものを見れたのう」


 生きてたか。まあ、当然か。

 しかし、それでも重症には変わらないイーサム。

 今は、クレランが生み出したホーリージェリーフィッシュの治療を受けながら、参戦しないで、むしろ観客のように俺たちの戦いを眺めて笑っていた。


「二年前……ヴェルト、ファルガ王子、ウラ姫、そしてムサシの四人がかりで、奇想天外な戦い方で、ワシを楽しませた。あの時を彷彿とさせるのう」


 ああ、そうだった。あの時は、クレランもドラもエルジェラも居なかった。

 だが、それでも今の俺たちは、フォルナやキシンたちと戦っていた時ではあまりやらなかった戦い方をできる。



「連携戦術……か?」



 ピイトが真剣な眼差しで俺たちをそう呼ぶが、そんな大げさなもんじゃねえ。



「チームプレーって言えよ」


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