第421話 止まっていた時間は再び動いた
「緋色の竜殺しのファルガ。モンスターマスターのクレラン。双剣獣虎のムサシ。そして、クロニア・ボルバルディエのオモチャである、ドラ……だっくね……」
その時、俺たちの再会をずっと黙って見ていたブラックダックが、とうとう口を挟んだ。
「テメェがブラックダックか。クソアヒル。ハンターギルドでも、テメェのことは聞いている」
「ふん。まさか、お前たちがこのタイミングで来るとは思わなかっただっく。世界同盟も崩壊し、残る世界の軍事力は既にこの地に集結していると思っていただっく。まさか、ハンターが来るとは思わなかっただっく」
「ハンター? クソ勘違いだ。俺がハンターなんて立場で来たと思ってんのか? まあ、テメェみたいなクソに教えても仕方ねえがな」
一転して、ファルガ、クレラン、二人が俺の前に立ち、敵を睨む。
「弟くん、それにみんな……かなり疲れているようね」
「クレラン?」
「任せてよ。トランスフォーメーション・ホーリージェリーフィッシュ!」
クレランの両腕が変化する。
人間だった腕が一瞬でクラゲの触手のようになり、俺や怪我したみんなに絡みついていく。
「ちょおおお、なんなんですか、これ! あの人何をッ!」
「これが本物の触手プレイ! ……って、あれ? 傷が……」
「癒えていきますわ」
おお、懐かしい。
そういや、昔もこれで怪我を治してもらったことがあったな。
そんな風に思っていると、クレランも同じことを思い出したのか、俺にウインクしてきた。
だが、すぐに……
「ん? おとーとくん?」
「あん?」
「……弟くんは怪我というよりも……なんか、すごいのが消費してるというか……」
「うっ!」
「っていうか、ウラちゃんとか、他の子達も……戦闘の傷というよりも、破瓜の……うふふふふ、おとーとくん? ナニをしていたのかな~? お姉ちゃんに教えてみて♪」
それは口が裂けても言えないと、俺は何も答えることができず、とりあえず最低限の力が回復してきたことを実感し、立ち上がった。
「ったく、今はそんなのどーでもいいじゃねえか」
「弟くん!」
「とりあえず、他のみんなはこのまま回復してもらおう。でも、俺は……」
「こらこら、弟くん、ダメだって。弟くんも……」
「勘弁してくれよ。せっかく懐かしい光景に体が疼いてるんだ。お預けなんて、勘弁だぜ」
その言葉に、一瞬目を丸くしたクレランだが、すぐにクスリと笑った。
「うん。そうだよね……だって、二年前は突然だったもん。何の前触れもなく私たちは引き裂かれて……でも、そっか……そうだよね」
そうだ。それこそ今では、こんなゴッチャりしたメンバーが色々周りに集まっちまったが、俺の本来の旅も仲間も、二年前から始まっていた。
「そうっすよ! そうっすよ! 元祖っすよ! 兄さんが居てくれて、ようやくオイラ達元に、ううう~~~~、もう、超サイッコーっす!」
ドラもまた俺に頬ずりしてきた。
ドラにもどうやら分かっているようだ。この状況下で、俺たちの気持ちが。
すると…………
「ふざけるな! 元祖は、元々私とヴェルトの二人だけだったんだ! それなのに、いきなりファルガが強引について来て、お前たちが集まってきたんじゃないか」
少しムスっとしたウラが、俺と同じように最低限の回復だけ済ませて、俺たちの輪に加わってきた。
「ウラちゃん!」
「ウラねええさああああああん! 久しぶりっす! 見てたっす! 結婚おめでとーっす! ついにやったっすね!」
「ウラ殿! お久しぶりでござる。祝言、おめでとうございますでござる!」
自分を忘れるなと、拗ねた様子のウラだったが、皆も笑顔で迎え入れ、それだけでウラもすぐにニコッと笑った。
懐かしい光景を再び取り戻すことができた喜びとともに。
さらに……
「ひどいです! 期間は短かったですが、私も、そしてコスモスだって元祖でした!」
エルジェラもまた、プクッと頬を膨らませながら慌てて飛んできた。
「当然だな」
「そうね、エルジェラちゃん。そしてこの戦いは私たちの家族でもあり、仲間を取り戻すための戦いでもあるのよね」
「そのために、オイラは来たっすよ!」
もちろんそうだ。覚えている。
そうだ、これに、後はコスモスを加えて、俺たちは元祖だったんだ。
「綾瀬ちゃん、あの人たちは一体……」
「あ~あ、せっかく彼と結ばれたのに、何だか少し妬けるわね……」
「特別な絆、というものですわね」
「あたしもよく覚えてるよ。あいつら、あのメンツであたしとママンと出会って、色々驚かせてもらったし」
クレランの回復を受けながら、何だかアルーシャやフォルナたちが微笑んでいる。
そして、嬉しそうだった。
「ふふ、また妙な組み合わせだな」
そんな俺たちに対して、敵であるはずのピイトも、どこか微笑ましそうに言ってきた。
「今更、ヴェルト・ジーハに仲間が他にも居たことには驚かん。ただ、これはどういうことか……言葉では言い表せんが、今そこに居るお前たちは、どこか形になっている。寄せ集めでも個の集団でもなくな……どういう集団だ?」
敵ながら、的を得ていると思った。確かに、ピイトの言うとおり、今の俺にとって、このメンバーは一つの特別な形だと思っていた。
色々な偶然や、ただの出会いの順序的なものもあった。
しかし、それでも、俺たちは………
「クソ雑談はそれまでだな。いくぞ、愚弟」
「おい、ファルガ、急に仕切るな! さっきも言ったように、元祖は私とヴェルトだ!」
「ウラ殿、いえ、今は奥方様……と、とにかくノケモノはあんまりでござる」
「というよりさ~、元祖って呼び方どうにかならない? 私たち、もうちょっと可愛い呼び方ない?」
「あっ、じゃあ、アレでどうっすか? ほら、オイラたちフットサルやってたとき、チーム名あったじゃないっすか!」
「それは素晴らしいです。でしたら、私たちは……『チーム・トンコトゥラメーン』ですね!」
いや、そのチーム名はどうだろうか……と思いつつも、このメンバーで立ち並ぶ瞬間に燃え上がった俺の心にとって、呼び方なんて些細なもんだと思えるほど、俺も高揚していた。
「やれやれだっく……社長には少し遅れると言うだっく」
「総力戦だな」
「はっはっはっは、とても熱い青春を見せてもらったよ、君たち。では、その青春パワーを見せてみたまえ!」
「我が魔王道を邪魔するな……消してやろう」
「四獅天亜人と七大魔王が回復する前に終わらせるだわね」
壮観に立ち並ぶ敵もまた圧倒的だが、やれるもんならやってみやがれと、俺たちは猛った。
そして俺たちのこの足は、もう立ち止まることなんてなかった。
「さあ、いくぞテメェら! 俺たちの力を見せてやれ!」
「「「「「オオオオオオオオオオオッ!!!!」」」」」
なぜなら、二年前に止まっていたはずの俺たちの時間、その時計の針がようやく再び前へと進んだのだから。
もう、二度と止めるわけがねえだろうが!
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