第408話 カオスの時間⑤
「ちょ、え、えええ? な、鳴神って……え、恵那?」
「……あ……あやせちゃん……」
たとえ、こんな状況下の中でも、この出会いには、心に与える影響は大きかったのか、アルーシャとフィアリの涙腺は互いに緩んでいく。
「鳴神って、あの鳴神恵那? 女子には結構嫌われていた!」
「うひゃっ! ちょっと、備山さん、それはあんまりにもひどい……っていうか……備山さんなんですよね? あの、ペガサスデラックス盛とかすごい髪型やってた……」
「へへ、ま、今もあんま変わってねーし!」
正直、俺はクラスの女子たちの友好関係は良く分かってねえ。
それなりに仲のいいクラスだったが、それでもプライベートなどではグループなどに分かれていたのは覚えている。
ただ、誰と誰が仲が良かったとかは詳しく覚えてねえし、知らねえ。
そして、今の会話を聞く限り、備山と鳴神という二人はそれほど交流があったような印象を受けないが、それでもこういう境遇になった者同士の再会。
その表情は、ただの女の子の表情で笑っていた。
そして…………
「ッ、え、な……恵那ッ!」
「綾瀬ちゃん!」
そして、この二人はそれこそ交流が多かったのだろう。
「……こんなに……ちっちゃくなっちゃって……でも、相変わらず羨ましいぐらい可愛いわね」
「あ~、それって皮肉ですか~? 私、綾瀬ちゃんにミスコンで勝ったことないんですよ~?」
「あら、男子に告白された回数は、あなたの方が圧倒的に多かったじゃない」
「そ~れ~は~、ある日を境に~、綾瀬ちゃんの~、本命が暴露されたからじゃないんですか~?」
仲が良かったのだろう。
互いに前世の名を呼び合う二人はいつの間にか涙がとめどなく溢れている。
「妖精さんになってしまったのね」
「そっちこそ、帝国のお姫様とか、勇者とかなんなんですか~転生先でもチートですか~」
「ふふふ。でも……今は、どうでもいいわね」
「うん。今はどうでもいいですよね~」
そして、涙が気にならなくなるぐらい満面の笑みを浮かべた二人は…………
「ひゃふあああああ、イ~シャムしゃま~~~~!」
「ぬおおおおおおお。ワシの愛よおおお、ワシの愛よ~~~~!」
絶倫ジジイの傍らで互いに身を寄せ合って再会を喜び合った。
「恵那ッ!」
「綾瀬ちゃんっ!」
ほんと、台無し。でも、イーサムのことなどまるで気にせず、それほどまでに二人は再会を喜び合ってんだから、まあいいかと思った。
「もう! もうもうもうもう! 恵那、恵那ッ! まさかこんなところで再会できるだなんて思いもしなかったわ!」
「えへへへへへへ~~! も~、綾瀬ちゃん~! 綾瀬ちゃんッ! ううううう、こっちもですよ……だって、もう、この世には私たちを知ってる人なんていないと……」
「ほんと、お互い簡単には語り尽くせないぐらい、壮絶な人生を歩んだと思うわ……でも、今は、ね?」
「ええ、今は……も~、プリンセスになっちゃった綾瀬ちゃんのラブラブラブラブ~~~~! すりすりすり~ですよ!」
サイズの違い、境遇の違い、種族やお互いの地位もそれぞれバラバラ。
そして、この世界からすればこの二人は初対面。だけど、何年来の親友と再会できたことに、二人は喜びあっていた。
それを見ていて嬉しいと思うのは、当事者二人だけでなく、備山ことアルテアも同じだった。
「つっかさ~、マジ、鳴神とかウケるし! あんま話したことないけど、あんたのこと覚えてるし」
「あは! 私もですよ~。備山さんも、元気そうですね~、っていうか~、ダークエルフがどうしてギャルっぽいの? って思いましたけど、備山さんですからね~」
「まっ、そうじゃん! あたしらしいっての? なんつうか、お姫様に、妖精に、ダークエルフとか、あたしらどうなってんの? って感じ♪」
「って感じですよね~」
あまり話したことはないといいつつも、やはりこんな境遇同士のクラスメートの女子同士での再会だ。やっぱ、何かしらのもんがあるんだろうな。
分からなくもねえ。俺も鮫島との再会は、そんな感じだった……
「っていうか、綾瀬ちゃ~ん、さっきの……ハニーってなんですか~?」
「うっ!」
「それに~、備山さんも~。いや、備山さんは体育祭あたりから、気持ち知ってましたけど~」
「あ~、今の状況的なやつ? いや~、あたしもさ、何でエントリーされてんの的なのは思ったけど、なんか、いいんかな?」
「ふふ、でも、まあ、綾瀬ちゃんに関しては私は良く相談されてましたから、やっぱ嬉しいですね。ね? 綾瀬ちゃん、前世の気持ちが成就してよかったですね♪ おめでとう!」
「え、ええ……そ、そうね。ありがとう」
「まっ、ライバルが他にも五人もいるみたいですが~……他にもいないですよね?」
「まあ、あたしの知ってる限りは……いや、わかんね~ぞ、アレの場合は」
なんか、こっちを見ながらコソコソヒソヒソ話してるが、お前ら、再会して嬉しいのは分かるが、そろそろ……
「………………………………俺は? いや、うん、分かってたんで」
ニ~ト~! 誰かお前らニートに話題触れてやれよ! さっきから、ポツンと一人寂しそうじゃねえかよ!
それに気づいた、現彼女であるフィアリは良く出来た女かもしれない。
「おっとそうでした~、ねっねっ、二人共、このドリルのお兄さん分かります? なんと~、土海くんなのでした~!」
パンパカパ~ン! と効果音鳴らして紹介するフィアリだが、ニートはブツブツと「いや、どうせ覚えてもらってないんで」と、少しイジけ気味だ。
しかし、俺もそうだと思っていたのに、アルーシャとアルテアの反応は意外なものだった。
「ドカイくん! あの、土海くんって、恵那と同じ部で……恵那が確か……」
「あ~~~! あの土海! あの、いつも痛い根暗だった、あの土海!」
覚えてたのかよ!
「えっ、二人共俺のこと覚えて……」
ニートが驚いたように顔を上げると、アルーシャも当然と頷いた。
「もちろんよ。修学旅行でも同じ班だったし、それに……うふふ、ねっ? 恵那♪ よく彼のことで相談されていものね」
「ちょーっ、綾瀬ちゃん、って、まあいいんですけどね! だって~、今は~、なんとこのお兄さんは、じ・つ・は、私の彼氏だったりするのですよー!」
「えっ……うそっ! ちょっ、も~~~~~、恵那ってば、なによなによ! 自分だって前世の願いを叶えてるじゃない!」
「えへ、えへへへへ~、いや~、そうなんですよね~、見事陥落させちゃいましたよ~」
さすが、真面目(?)なクラス委員だ。俺と違ってちゃんとクラスメートのことを覚えていたのか。
ぶっきらぼうな態度を取ろうと、ニートも少し嬉しそうだ。
でも、アルーシャはそうだとしても、まさかアルテアがニートを覚えてるとは思わなかったな。
「なあ、アルテアも覚えてたのか? こいつのこと」
「ん? あ~、まあ、あたしは話したことないけどさ、なんつーか、『あたしの友達』が土海のこと好きだったんだよね~、いや~、あんとき、何であんなの? とか思って驚いたし!」
「……はっ?」
「しっかし、鳴神と付き合ってるとか何それ、チョー爆笑じゃん! もし、『あいつ』知ったらどんな反応すんかな~?」
えっ?
「えっ?」
「えっ゛?」
「へっ?」
「……あ゛?」
その言葉に一瞬俺たちは耳を疑っちまった。
えっ? こいつを? いや、俺もどんな奴だったかは覚えてないけど、こいつのことを他に好きな奴が?
ニートもアルーシャも当然全く知らなかったのか、アホヅラで固まってる。
一方で……
「誰ですか、それ?」
メッチャ空気が重くなった………
「あんたら知らなかったんだ~。まあ、あいつもあんま学校来て無かったし、全然気持ちオープンじゃねえし」
「うん、知らないですね。へ~、そんな人が、へ~、居たんですか………へえ~」
幻想的な妖精から真っ黒い瘴気が溢れ出て、なんだか笑顔が微妙に怖い。
「ほんと、カミングアウトされたときマジびびったってか? つうか、あたしもコクれって言ったんだけどさ。あんな根暗ソッコーで落とせるって。でも、あいつって意外とピュアだったからさ~、遠くで眺めてるだけで、声をかけられねーとか、マジビビリだし♪」
「へ~……私としたことが知りませんでしたね。どこの女ですか?」
フィアリはギロりとニートを睨むが、ニートはビビリながらも「そんなの知らない!」と一生懸命首を横に振ってる。
ああ……フィアリもやっぱ嫉妬するとこういうタイプだったのな……もう、ほんとこういうのばっかだ……………
「ん、まあ、あれだな、今だからぶっちゃけちゃってもいっか? つっても、不登校だったけどメチャクチャ有名人だし、ほら、天―――――――」
そして、アルテアが全てを語ろうとしたその瞬間だった。
「イ~~~~~サムしゃま~~~! こ、こしゅもしゅちゃんは、も、紋章眼の娘は、ブラックダックも、いま、『不思議な国のアナス』のアトラクジョンに居ましゅ~~~~!」
本日何度目かの絶頂の声と共に、最高幹部だったと思われる女が叫んだ言葉に、俺の意識はそっちに奪われた。
「お利口さんじゃ。もはや敵も味方も種族も関係ない。おぬしはもう、ワシの妻じゃ」
「あひ~~、しょうなの~、ちゅまなの~!」
「……ここで待っておれ。戻ってきたら、もっと愛してやるぞい」
全身から漂う男性ホルモンをこれでもかと溢れさせながら、痙攣しているスノーホワイトを優しく壁に寄りかからせたイーサムは、真顔でまずは一言。
「ユズリハ……今日からこの、スノーホワイトはお前の新しいお母さんになるぞ」
「……またか……ゴミ父」
「ぐわははははははははは!」
ゴミを見るような目で実の父を睨みつけるユズリハの気持ちも今ではわかる。
そりゃ、グレるよな……
だが、一方で、引き出された情報は、確かに俺にとってはかけがえのないもので間違いない。
「ッ、ヴェルト様!」
「ああ」
ああ、そろそろと俺も思ってたところ、俺が言う前に俺の腕にギュッと力を入れてしがみついていたエルジェラ叫んだ。
そうだ、混乱の時間はもうこれまでだ。
「言っとくが、お前ら。今の俺には、恋愛絡みも過去の因縁も、そして再会絡みも、取るに足らねえ問題だ。分かってんな?」
反応はそれぞれ。「はしゃぎすぎた」と反省する者も居れば、「なんのこと?」と首を傾げる奴らも居る。
でも、もうそんな反応すらもどうでもいい。
「こっから先はマジモードで行く。イチャコラも喧嘩も涙のご対面も勝手にやってろ。その代わり、俺は勝手に先に行かせてもらう」
そう、もう俺はイチイチツッコミ入れてやらん。それぞれやりたいことがあれば勝手にやってろ。
その代わり、俺も俺で勝手にやらせてもらう。
「確かに、今はそれどころじゃないわね」
アルーシャがキリッとした顔つきで頷くと、他の連中も「当然」とばかりに頷いた。
「当たり前だ、ヴェルト。腹違いとはいえ、私の娘だ」
「ええ、私の子のお姉さんになってもらうんだから」
「ヴェルトに家族は二度と失わせない。誓いは守りますわ」
「野暮だよ、お兄ちゃん」
「まっ、コスモスっちカワイーからね」
「邪魔する奴は俺様がブチ殺す」
十分だ。まっ、状況によって、更なる混乱は当然出てくるかもしれねえが、それでも今この瞬間だけはある程度まとまっている。
まとまりさえすれば、このメンツはラブ・アンド・ピースには驚異以外の何物でもねえ。
あとは、敵が同情するぐらいブチのめしまくって、やるべきことをやるだけだ。
「コスモスを取り戻す。そして、マッキーとマニーにお仕置きだ」
俺とエルジェラを筆頭に、俺たちはようやくその場から駆け出した。
テーマパークの一部だったと思われる建物の中から扉をブチ破って一気に外へ出る。
そしてそこには、いかにも幻想的で、そしてどこか懐かしい、夢の国の世界が広がっていた。
――あとがき――
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