第404話 カオスの時間①

「さ~て、わらわはさっさとイカせてもらうのだ。しばらく、自慰もできておらんかったから、色々たまっておるのだ。とりあえず、ココから出て最初に会った女を犯して、準備運動でもしておくのだ。そして、準備が出来次第……ぐふふふふ、カイザ~♪ 今日が排卵日でよかったなのだ」


 そう言いながら、一人でスキップしながら勝手に動き出したエロスヴィッチ。

 その背中を追いかけることもせず、俺は項垂れたままだった。


「ヴェルトの大兄貴、オラたちはどうするんでい? 待ち合わせのポイントからズレちまったが。早く、嬢ちゃん迎えにいかねえとよ」


 そうなんだよな。

 マー君の言うとおり、イーサムが余計なものを掘り当てたおかげで、身内にとっての脅威を増やしただけじゃねえか。

 コスモス救出前の寄り道が、また変なことになっちまった。


「ヴェルト・ジーハ……いや、ヴェルト兄さん。迎えにとはどういうこと?」


 どういうことだ? 数分前までこいつは俺のこと恨んでなかったか? なぜ、シレッといきなり「兄」と呼んでやがる。


「キロロ姫! ヴェルトをお兄さんと呼ぶなんて、どういうことですの!」

「それは……ラガイアが彼を『兄』と慕っているという話だから。ならば、ラガイアの妻になる私にとって、ヴェルト・ジーハは私の義兄になるということを意味する」


 この世界に転生し、前世の記憶を取り戻してから、たまに思うことがある。

 この世界の女って、恋愛絡むとすごい馬鹿になるのか? 言ってることの意味が全然分からねえし。


「いや、ラガイアあげないし」

「必ず彼を幸せにする。私は約束する。弟さんを私にください」


 いや、そんな何の迷いもない目を見せられても……


「ッ……ふふ」

「どうしたよ、フォルナ」

「いいえ。どうしてかしら。……どうしてもワタクシは、恋する乙女を応援したくなりますわ」


 あっ、フォルナの奴……

 一瞬、フォルナが目をパチクリさせたが、すぐに優しく微笑んだ。

 キロロの、自分が男を幸せにする発言。本来であれば、男が女に言ってやるこのセリフは、俺とフォルナのさっきまでのやり取りを思い出させた。それを思い出して笑ってるんだろうが、少し照れくさくなってきた。

 でも、これだけは言わせて欲しい。


「いや、あんた。多分、これは恋じゃなくて、変なんで。愛じゃなくて、病気なんで」

「あら、ニート、あなたの仰る通り、確かに病気ですわね。ワタクシと同じ、恋の病♪」

「あっ、違うからね。うまいこと言ったつもりだろうけど、デレデレとヤンデレはジャンルが違うんで」


 そう。俺の言いたいことをニートがしっかりと代弁してくれた。


「いや~、しかし、朝倉君。事情は分かりませんが、朝倉君に魔族の弟とか……他に四獅天亜人の仲間も居るみたいですし、なんなんですか、その濃くて愉快な仲間と家族は」

「俺もここまで濃くなるとは思わなかったよ。カー君はしっかりしてるから大丈夫だろうけど、ラガイアは俺が守ってやらねーとな。ったく、ラガイアが可愛いっつうのは理解できるが、どうしてあいつに惚れる女は、あの女といい、一癖も二癖もあるんだ?」

「いや、朝倉君。嫁が何人も居て、しかもなかなか濃い~方たちである時点で、同じだと思いますよ?」



 俺が溜息吐きながら、フィアリと何気ない会話をした瞬間だった。



「……………………………………………………あの女?」



 寒気がした。

 薄暗い地下で、瞳孔の開いた目を大きく見開いて、無表情で小首をかしげて俺を見てくるキロロ。

 こ、こわっ!


「あの女? それの意味が分からない。それはラガイアにまとわりつく女が居ると理解すればいい?」


 あっ、しまった……

 つい、不意にあのショタコン天使のことを口走っちまった。

 そして頭の中で、この俗に言う、病んだ女と、あの変態女を頭の中で並べた瞬間、俺の全身に悪寒が走った。

 なんだよ、その混ぜるな危険な組み合わせは! いや、片方は一応、俺の義理の姉なわけなんだが……


「さ~て、娘っ子たちのめんこいやりとりは置いておくとして、これまた随分と熱い助っ人が増えたもんじゃ。のう? ゼツキ」

「……助っ人か。共に殺し合い、共に酒を飲み交わしたことはあっても、共に戦う日が来るとはな。だが、我輩のこの命、全てはキシン様のため」


 俺たちのやり取りなんて眼中にないのか、それとも関わりたくないのか、大人の落ち着きを見せて話をしている、イーサムとゼツキ。まあ、確かにゼツキは、化け物みたいに強かったが、人柄はまともな武人だったし、話も分かる。


「しかし、妙なことになったのう。世界同盟が発足し、亜人と手を組んだり、襲撃されたり、そして今は解放されたり……のう、リモコンのヴェルトよ。今、ラブ・アンド・ピースと戦っておるおぬしらは、どういう組み合わせになっておる?」


 そんな状況の中、しんみりとしながら尋ねてくるスドウの問いかけに、地上の状況が分かっていないゼツキたちも耳を傾けた。

 確かにこいつら、今、誰が味方なのかまるで分かっていないんだからな。



『あっ、よーやく話つながったし!』



 その時、この場に居る誰もが顔を上げた。いきなり聞こえた妙な声。

 馬鹿っぽい女の声。

 聞こえたというより、頭に響くという、テレパシー的な奴だ。

 そして、この声の主はよく知った奴。


「アルテアか?」

『お~、ヴェルトじゃん! あんた、マジで心配したし。ラガイアっちの感知とかでも全然あんたら見つからねーから、マジ心配してたし! でも、やっぱ無事だったっしょ。フォルナっちや、ユズっちとライオンちゃんは、そっちいんの?』

「ああ。そっちも無事みたいだな。でも、何で急に?」

『それがさ~、ついさっき、いきなりあんたらの魔力感じたとかラガイアっち言ったわけ。だからさ、協力してもらってあんたらにテレパシー的なの? やってみた』

「お前、そんなこと出来たのか? 今まで全然……」

『ああ。なんか、やってみたら出来た! ラガイアっち曰く、あたし天才だってさ! マジすごくね?』


 そういうのできるなら早くやれよ! と言いたいところだが、こいつ天才だったわ……なんか、釈然としねえ。



「それにしても、ワタクシたちの魔力を急に感知できるように……おそらく、地底世界には何かしらの効力が働いて、外からは感知できないようになっていたのかもしれま――――――――」


「ラガイア?」



 その時、ラガイアの名前を呟いて、ピクリと反応する女が一名。あっ、ヤバ……



『でさ、ヴェルト。そっち大丈夫なん? 今、こうして話してるあたしの目の前にさ、あんたの嫁がハラハラした顔で突っ立ってるわけ。どうなん? あっ、話してみる? あたしの背中に触れば、多分、あたし介して話せると思うんだけどさ』


「ああ、至って無―――――」



 無事だから心配するなと伝えてやろうと思った瞬間、まるで携帯電話で話している最中に他の人間が携帯を取り上げて話し出す感じで、別の奴らの声が聞こえた。



『ヴェルト様、ご無事ですか? もう、心配させないで下さい! コスモス……そして、ヴェルト様に何かあれば、私はもう生きていけません!』


『ヴェルト、新婚早々に妻を置いてきぼりとは何事だ!』


『ヴェルト君、無事よね! 色々と無事よね? フォルナとユズリハ姫も居るみたいだけど、抜け駆け……いえ、とにかく無事なの?』



 ご無事で何よりで。





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