第402話 噂の彼氏は俺がよく知る二人だった

「ん? おい、キロロよ。『ノッペラ』はおらんのか?」

「……分からない。私たちも意識は戻ったものの、正直、記憶は曖昧」

「なんと。ちゅうことは、マーカイ魔王国はどうなったかは分からんと。おまけに、ヤヴァイ魔王国の他の王子も気になるが……つまり、今この場にいるのは、ジーゴク魔王国の『新魔王キロロ』と、ゼツキら六鬼大魔将軍……そして、エターナル助平幼女である、『淫獣女帝エロスヴィッチ』だけか……」


 ………………おい、糞ジジイ………なんか今、サラッととんでもない名前が出てこなかったか?


「……フォルナ?」

「聞き間違いではありませんわ。それに、本人ですわ……」

「マジで?」


 地上の情勢に詳しくないニートは「淫獣?」と呆れた顔をしているが、フィアリは完全に顎が外れるぐらい大口開けて固まってる。

 まあ、そりゃそうだよな。まさかあの伝説の亜人がこんなところに居たなんて………

 

「ぐわははは、ヴィッチよ、何年ぶりじゃ? おぬしとこんな形で会うことになるとは思わなかったのう。人間への憎しみを旨に暴れまわっていたおぬしが、随分と死んだような目をしておるのう」


 まさか、この狐女……ファンタジー的に言えば、九尾の妖狐。いや、九尾の幼狐? が、四人の世界最強亜人の一人、四獅天亜人だってのかよ……


「それもそうなのだ。もう、わらわは亜人の長の一人として、世界同盟に加盟した瞬間に死んだといっても過言ではないのだ」


 しかし、本当に四獅天亜人か? 他のメンツがメンツだけに、今のこいつはただの卑猥な根暗なガキにしか見えねえ。

 そんな薄暗い雰囲気を発しながら、エロスヴィッチは語り続けてきた。


「亜人の長として、上に立つものとしての責務。個人の感情に左右されずに種の繁栄と存続のために生きねばならなかったわらわは、『あの方』を失った悲しみと憎しみに堪えて生きることを強制されて……もう、いろいろなことがどうでも良くなったのだ」


 んで、なんだよ……よくわからんが、こいつも「大切な人を戦争で失った」的な過去持ちかよ。

 やめてくれ、テンションが下がるから。


「ほうほう、そうじゃの~、そうじゃったの~、『七年前まで』のおぬしは、好きな男に認められたいがために戦い、名を上げ、そして可愛らしかった。しかし以降は、ただの復讐にとりつかれた、百合娘じゃ」


 そんなエロスヴィッチを容赦なくこき下ろすイーサムは、随分とニヤニヤした表情だ。なんだか、かなりヒデー気もするが、少し様子が変だ。

 まるで、悪巧みをしている悪ガキのようなニヤついた表情だ。



「大きなお世話なのだ! それに、わらわは同性愛者なわけではないのだ! わらわが望み、お魔羅を受け入れるのは、この世であの方だけなのだ! ……しかし、あの方はもういない……だから……わらわは……仕方なくクン○したり、擦りつけたりするだけなのだ」


「ぐわはははははは……や~い、エッチめ」


「エロスじゃないのだ。わらわは普通なのだ。性欲処理の数だってそんなに居ないのだ! そう……わらわはどちらにせよ、世界同盟に加盟する以前より……あの方を……あの魔羅を失った瞬間に死んだようなものなのだ…………」


「まあ、それは確かにそうじゃのう。昔のおぬしは、引くぐらいのド淫乱じゃったからの~。というか、『あやつ』もおぬしが怖くて、なるべく関わらんように逃げ回っておったぐらいじゃ。じゃが、今は随分と丸くなったものじゃ」



 丸くなった? これで? まあ、死んだ彼氏に操を立ててるあたり、意外と一途だというのは分かったが、今より引くぐらいに淫乱てどんなだよ。

 その「あの方」だったり「あやつ」が誰かは知らんが、そんな女にロックオンされりゃ、そら逃げるか。

 まあ、もうそれを知るすべはないわけだがな……



「まあ、未亡人共がどう叫ぼうと、世界にはどうでも良い事なんじゃが、どうじゃ? その怒りをもう一度発散させる気はないかのう? ヴィッチ、そしてキロロよ」



 そんな扱き下ろした二人に、突然の提案をするイーサム。おいおい、何を言ってんだよ。つうか今の話の流れ的に……


「断るのだ」

「ダメ。私はもう、全て終わった。あの人を失い、今、おじさんのことを世界が思いだした瞬間に」


 ほらな。速攻で二人共拒否したよ。



「もう、わらわは疲れたのだ……もう、いいのだ……憎むべき人間と手を組んだかと思えば、裏切られたり、もう、ワケわからないのだ」


「立ち上がったところで、私ではダメ……あの人とももう会えない……あの人の無念を晴らすためにせめて世界を変えようとしても、それも叶わない。なら、もう……」



 この反応は明らかに分かっていた。

 どうしてイーサムはこんな誘いを? そりゃ、戦えば戦力にはなりそうだけど、この勧誘は無理がありすぎだろ。

 フォルナやフィアリの表情からも分かる。

 この二人が失った彼氏とやらが何者かは知らないが、愛するものを失い、それでも戦い続けた二人は、ラブ・アンド・ピースの襲撃をきっかけに、支えていた心も既に崩壊している。

 そう、ここに居る二人の女は既に屍みたいなもんだ。

 呼吸をするだけで、もう立ち上がる意思も感じない。


「お待ちください、キロロ様! 我輩は戦いまする! この地にキシン様がおられ、そして戦われているのであれば、この身、この命をここで使わせていただきたい!」


 そんな中で、唯一立ち上がる意志を見せているのは、ゼツキのみ。まあ、ぶっちゃけた話、それでも十分すぎるほどなんだけどな。

 そのことに対して、キロロもエロスヴィッチも何も言わない。まるで、もう勝手にしろと言わんばかりの様子だ。


「なんじゃ、枯れとるの~。猛っておるのはゼツキだけか」

「おやめなさい、イーサム。もう、それまでに……」

「そうですよ~、状況は良く分からないですけど、好きな人を失うことがどれだけのことか……」


 挑発するようにはやし立てるイーサムに対して、その行いを止めようとするフォルナやフィアリは、どうやらエロスヴィッチやキロロに感情移入しちまったようだ。

 好きな人を失う。それを自分に置き換えて……



「そう、わらわはもういいのだ。……カイザーの魔羅顔を失った日から……わらわはもう終わりなのだ」


「もう、今更私が何をやっても……ラガイアは……ラガイア……」



 …………………………ん?


「へっ? えっ? それってまさか、カイザー大将軍に……ラガイア王子……ですの?」


 おんや~? あっ、イーサムがメッチャニヤニヤした顔を俺に向けてる。


「そうなのだ、フォルナ姫。七年前、十勇者のロアに討ち取られた、カイザーなのだ!」

「ラガイア……二年前、あなたとヴェルト・ジーハに敗れ、失脚……そして全てを失って行方不明に……」


 あ~、そういうことなの? あ~、そういうことだったのか?

 ちょっと待て、あの二人はそんなこと全然……



「カイザー……嗚呼! カイザー! 舐めたいのだ! しゃぶりたいのだ! 口をパンパンにはちきれんばかりに咥えたいのだ! カイザーの鼻を! 鼻を! 鼻! そしてその鼻先で弄られ、ねぶられ、……あああああああっ! 濡れるのだ! カイザーに会いたいのだ!」


「誰にも認められず、それでも幼い頃から努力を続けてきたラガイア……恵まれた私と違い、努力家。純粋な心。向上心。私にはないもの。彼は輝いていた。社交界でも恥ずかしくて声がかけられない……私は、密偵よりマーカイ魔王国から入手させたラガイア観察日記、寝巻き、下着、歯ブラシ、シーツを裏取引で入手するだけで満足し、見守るだけで……苦しむラガイアを助けられなかった……」



 その瞬間、俺とフォルナは同じような表情で見合って頷いた。

 ああ、こういう奴らなのね……そりゃ、あの二人も言いたくねえよな……


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