第400話 思わぬ拾い物

「お、おい、イーサム?」

「どうされましたの?」

「壊れた?」

「さ、さあ?」

「………ゴミ父?」


 訳がわからぬイーサムの様子。


「ぐわははは、これはなんということじゃ! マニーめ、ぐわははは、どうせ後で交渉に使おうと思っておったのじゃろうが、それはうまくないであろう! ぐわはははは、それは大失敗じゃぞ!」


 俺たちが首を傾げていると、大笑いしているイーサムがマー君にノックした。


「おい、螺旋のカラクリよ。このまま、左に真っ直ぐ掘り進むのじゃ」

「はっ? いや、あの、オラに記録されている情報だと、落ち合う場所は………」

「良いからこっちに掘り進めい!」


 いきなり方向転換しろと告げるイーサム。その真意は不明だ。

 マー君もどうするべきか戸惑っている様子が分かる。

 しかし、イーサムは言う。



「ぐわははははは、すまんのう婿。少し寄り道じゃ。じゃが、この寄り道は決して無駄にはならんじゃろう」



 寄り道? どういうことだ? この先に、何かあるってのか?



「この先に、とびきり痺れる匂いがするのでな」



 イーサムの表情は、まるで興奮した子供のようにキラキラ目を輝かせている。

 一体、この先に何があると言うんだ? イーサムは「行ってからのお楽しみ」とばかりに、答えを言わない。


「ちょ、お待ちください、イーサム。今はコスモスの救出が先決ですわ!」

「ぐわはははは、硬いこと言うでない、フォルナ姫。精神的に処女喪失したのじゃ。少しはしなやかさも必要であろう?」


 正直、コスモスのことや地上の仲間たちのことを考えると、余計な寄り道はしたくねえ。時間もロスはしたくねえ。

 だが、このイーサムの表情、きっとこの先に何かがあるというのは分かる。

 そしてそれは、何かとてつもない重大なことだと。


「ヴェルトの大兄貴?」

「………………………仕方ねえ、行け」

「ヴェルト、いいんですの?」

「朝倉くん………」


 そして、それはこの不利な戦況を大きく覆せるものかもしれねえ。

 なら、それはコスモスを救うことにだって繋がる。


「わ、わかりやした。んじゃ、こっちにいくぜい」


 言われてマー君も方向を変えて、イーサムに言われた方向へ掘り進む。

 一体、この先に何があるのか? 気づけば俺たちは、何が起こっても大丈夫なように、いつでも動けるように身構えていた。



「そう怖い顔するでない。ほれ、もうそろそろじゃよ」



 次の瞬間、何かの壁を破壊した音が響いた。


「おっ、な、えっ?」

「これは………」


 地中を掘り進み、辿りついたそこには薄暗く広い部屋があった。


「なんなんだここは?」

「ニート君、何かありますよ? あれって、なんていうか………」


 床も壁も四角いレンガを敷き詰められ、どう見ても人工的に作られた空間。

 そして、そこは広い空間の中に真四角の立方体がいくつも置かれ、それぞれ周りは鉄格子で囲われている。


「………………檻?」


 そう檻だ。まるで巨大な猛獣を閉じ込めているかのように、鉄格子の周りは更に鎖でぐるぐる巻きにして、厳重にされている。

 ここは、猛獣でも閉じ込めてる部屋か? しかし一体何が………



「ぐわはははははは。懐かしい匂いじゃ………」


 

 そう言いながら、イーサムは勝手に車内から飛び降りて、檻の一つに向かって歩いていく。

 俺たちも互いに頷き合い、警戒しながら恐る恐るその後を追いかけて、イーサムの後ろから檻の一つの中を覗きみた。

 するとそこには………………


「えっ!?」

「うそ!」

「……こわっ!」

「えっ、な、なんですか!」

「……なにこれ?」

 

 俺たちは驚いた。ニート、フィアリ、ユズリハは純粋に中に入っている存在に驚き、俺とフォルナは別の意味で驚いていた。

 何故なら、そこに居た者は、俺たちには予想外で、しかし知っている存在だったからだ。



「久しぶりじゃのう。生きておるか?」



 イーサムが檻の中に居る者に声をかける。

 すると、檻の中に居た者は、ゆっくりと目を開けてこちらを見てきた。

 檻の中で、その全身を鎖で巻かれ、手枷足枷を嵌められて身動きひとつ出来ないというのに、その身から溢れる威圧感は死んでいない。

 そして、その者は目を明け、目の前に居た俺たちに気づき、驚きの声を上げた。


「……ッ! 貴様は、イーサム! なぜ、貴様がここに……それに……光の十勇者、フォルナ姫。そして………」


 ああ、間違いない。姿はボロボロだが、この威圧感。眼光。巨体。

 黒髪短髪の爽やかな容貌。そして、頭から伸びる鋭く特徴的な一本の角。そして、青い肌。

 二年前に出会った青鬼。



「リモコンのヴェルト!」


「ジーゴク魔王国、六鬼大魔将軍………『蒼鬼そうきのゼツキ』!」



 そう、ジーゴク魔王国軍最強の大将軍にして、あのキシンの片腕。

 あのゼツキだ!

 そして、ゼツキだけじゃねえ。少し離れた場所に置かれている檻からは……


「なんじゃとおお! ゼツキ、今おぬし何と……ああああああ! おおおお、おぬしはあの時の小僧!」

「テメエはあん時のジジイ!」


 こいつも覚えてる。確か、六鬼大魔将軍の一人、スドウとかいうジジイ。

 なんでコイツまで…………



「ぐわははは、ゼツキ、スドウ、おお、あっちにはトゲニーたちまでおる。あっちは、……ぐわはははは! どうやらおぬしら、連中に敗れて捕らえられてたようじゃな。それに……」



 まさかの再会に嬉しそうなニヤニヤが止まらないイーサム。

 そして、イーサムは更に何かに気づいて、ある檻の前に向かって歩いて行った。

 そこには……



「行方不明と聞いておったが、結局おぬしも捕まっておったか。……じゃが、生きていたのじゃな」


「……そなた……なぜここにおるのだ?」



 薄暗い檻の中に居たのは、何と幼い少女の亜人だった。

 年齢的にハナビより少し上程度か? 

 一切の汚れのない真っ白い頭。顔はどこか大人びた小生意気の感じがする、クールな無表情。

 しかし、格好はその……なんだ……


「ちょっ!」

「ひゃっ! ちょー、ニート君見ちゃダメです! あ、あ、あなた、そんな所で、って、その服装は何ですか!」


 フィアリが慌ててニートの目を体を使って覆う。確かに、目に余る。

 幼女が鎖でつながれて監禁されているという現実がどこかへ行ってしまうような……なんだ? その……


「なんだ、このガキ……白いスクール水着……?」


 白スク水……ではないだろうけど、その小さな体にピッタリとフィットさせたものは、正直似たようなもんだ。

 白スク水、そして黒いマント、黒ニーソ? 何だ、このヘンテコなコーディネートは。

 そして、亜人なのは分かるが、少し普通とは違う? 耳からして、猫? いや、狐か? そこまでは普通なんだが、尻尾が少し違う。

 小さな体の割に大きめのふさふさの尻尾。それが一本ではなく、複数に分かれている。

 一、二、……九本? この狐のガキ、尻尾が九本もある。何でだ?



「ぐわははは、不機嫌そうじゃな」


「ふん。不機嫌になるのも当たり前なのだ。名も知らぬ者の画策にハマり、敗れるだけでなく、死も許されずにこうして生き恥を晒し続けているのだ………」


「ぐわはははは、あいかわらずじゃの~。おぬしの部下は? 『百合竜』はここにおらんようじゃが?」


「分からんのだ。連中いわく、本当に行方不明らしいのだ。多分、あの二人のことなのだ。無事だと思いたいのだ」


「そうか。色々と大変そうじゃの~」



 イーサムの知り合いか? すると、少女は幼い子供とは思えぬ年寄りくさい口調で、とんでもないことを口走った。



「大変などというレベルではないのだ。……はあ……めんこいオナゴのマン〇にク○ニしたいのだ」



 …………………………………………?

 聞き間違い…………だよな?





――あとがき――

さぁ、今年もあとわずか! そして大晦日の本日に400話達成しました! まだまだ続きますが来年もよろしくお願いいたします!



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