第359話 目指せ神族大陸へ
「フォルナ姫や、今はいないがロア王子がどう謝罪しようとも響かぬ。なぜなら、そう誘導されていたようなものだからな」
「……………………」
「ヴォルドと言ったな。本来なら、聖母カイレと話をしたいところだが、お前では話にならん。……お前たちが支持する聖王は、こんな状況でも来ないのか?」
聖王……全てはそこから始まったのかもしれない。それは、マニーも含めて、全てだ。
そして、ネフェルティが言う言葉は俺も思っていた。聖王はまだ出てこないのかと。
「会ってもあまり意味はない。聖王は、ただ我らに未来を告げただけ。その未来を回避するために動いているのは実際我々だからだ」
「そういうことを聞いているのではない。王であるのなら、そんな言い訳など不要。顔ぐらい出したらどうだと言っているのだ」
いや、包帯グルグル巻きのお前が言うなよ。
「時が来ればその時にな。まあ、本当であればその時が来ないことに越したことがないのだがな」
相変わらずの思わせぶりな言葉。流石にイラっとくる。ってか、俺ならこいつ一発ぶん殴っていいよな?
「ヴォルドとやら。それはやはり、モアと関係あるのか?」
その時、意外な方面から口が挟まれた。
それはリガンティナだ。
「天空皇女リガンティナ……やはりそなたも知っていたか。まあ、次期天空族の皇であれば不思議ではないがな」
「やはりな。お母様が仰っていたことは本当であったか」
「そうだな。今回、天空族にも色々と工作してもらうために、そして理解を得るために、『現・天空皇』であるそなたの母親には全て話したからな」
「そうか………だが、いいのか? 必要な鍵、代行者の女には裏切られ、お前たちは聖騎士が一人欠けたそうではないか」
ん? ん? んん?
なんか、俺たちの旅立ちなのに俺たちは置いてきぼりだぞ。いいのか?
そう思ったとき、ヴォルドがいきなり聞き捨てならない爆弾発言をぶち込んできやがった。
「なに、代行者のマニーについては考えている。それに、タイラーが欠けたことは確かに痛手だが、神聖魔法の使い手は他にもいる。十勇者のギャンザであれば実力も実績も問題ない」
「人間性に問題ありだろ、バカやろう!」
気づけば俺は、コンマゼロ秒でツッコミ入れていた。
「あの、ヴェルト君。一応、ギャンザは私の副官だったのだけれど」
「いーや、アルーシャ。それでも俺はあいつは嫌だ。それに、ヴォルド。テメエはあんなサイコ女にタイラーの穴埋めさせるとかマジで言ってんのか? 冗談じゃねえ! 余計にメチャクチャになるのが目に見えてる」
それだけはマジやめろとマジクレームだった。
つか、そういやギャンザは見ねーな。それなりに重症とかで寝込んでんのか?
「しかし、ヴェルト・ジーハ。お前がそう言おうとも、我々は我々で神聖魔法使いは常に揃える必要があるのでな。お前には面白くない話でも、それは聞き入れられんな。今の世界に、他に神聖魔法を使えるものはいない」
だから、その聖騎士そのものをもう無くしちまったらどうだと言いたいところだが、それが出来ないなら………
「いや、居るぜ。もう一人、神聖魔法の使い手がな」
「なに?」
「もう何年も隠居して、ゴミ溜めの島でのほほんとした日々を送っているが、まだその奥には燻ったものが残ってる、神聖魔法の使い手がな」
「バカな。そんな者が存在すると?」
「今度そいつを連れてくる。だから、ギャンザを昇格させんのはやめてもらおうか? そうじゃねえと、聖騎士とかいうもんを根こそぎブッ潰すぞ?」
俺は不意にあいつを思い出していた。
そんな俺の背中を、アルーシャたちは突っついて来た。
「ちょ、ヴェルト君! それって、まさか!」
「おいおい、ヴェルト、いいの? あいつ、もう静かに余生過ごしたいとか言ってたじゃん」
ああ、そう言ってたな。でもさ………
「何で、俺があいつの言い分を聞かなきゃいけねーんだよ」
「うわ、君も本当に勝手ね………」
確かにあいつは、もう自分は終わった人間だからと言っていた。
あの場所で、あの場所に向かうものを受け入れ、守り、静かに余生を過ごしていくと。
でもさ、あいつはまだ生きている。
なら、これっきりってのも淋しいじゃねえか。せっかくの縁なんだから。
それに、聖騎士が何を企もうと、あいつがそこに居てくれるならきっと………
「ヴェルト・ジーハ。その話は本当だろうな」
「ああ。多分、タイラーも生きてたら太鼓判押してたと思えるぜ。こいつなら………ってな。だが………」
「しかし、それは、お前が帰ってきたからということだな」
「ああそうだ。だから、それまではもう余計なことするんじゃねえよ。マニーの件なんて、お前らのしでかしたとばっちりみてーなもんなんだからよ」
俺の言葉にヴォルドはやけに真剣に食いついた様子だ。黒子姿だが顎の位置らへんに手を置いて、何かを考えている。
「ゴミ溜めの島……か……少し噂で聞いたことがある。スモーキーアイランドに、『奴』が居るのではないかと……」
「ああ、多分そいつのことだ」
「……だが、あいつはもう二度と……」
「前世の縁だ。それでも信用できねえか? まあ、クラスメートではなかったけどな……」
「ッ!? 前世繋がり……そうか……そんなことが……やはり、お前は何かを持っているな……あの勇者を再び……」
すると、答えが決まったのか、ヴォルドは頷いた。
「いいだろう、ヴェルト・ジーハ。お前の要望に従おう。欠けた聖騎士の補充は見送る。確かにギャンザは、たまに独断で動くことがあるからな」
「いや、そんな危険人物いい加減クビにしろよ人類大連合軍。ってか、アルーシャ、マジで」
「そこで私に振らないでよ。仲間だと本当に頼もしいし、深く付き合って信頼を得られればきっと……」
「あいつと深く付き合うとか、千パー無理」
話は決まった。これで、やるべき先のことまで決まったわけだ。
ニート暮らしをしたがってる奴の就職先を無理やり決めちまった感もあるけど、ま、恨みは面と向かってハッキリと言えよな。
テメェも、そろそろ立ち直れよな………なあ?
「んじゃ、そろそろ行くとするか」
俺が手を挙げてそう言うと、途端に全員戦闘モードのスイッチが入ったのか、真面目な顔に切り替わった。
こういうとき、パーティーほとんど百戦錬磨だから助かる。
そして、一番この中でそういう空気の似合わなそうだったアルテアですら、今回はマジだな。ギャルでいう、マヂだ。
そりゃそうだ。俺が家族を救いに行くなら、こいつも家族を救うために行くんだからな。
「では、姫様、御武運を」
「ウラ姫様、我らいつでも馳せ参じる準備をしているであります」
「無事に帰ってくるのだぞ、我が妹、義弟、そして夫よ」
「って、リガンティナ皇女、ドサクサにまたラガイア王子を拉致ろうとしてるし!」
それぞれの見送りの言葉を受けながら、俺たちは神族大陸の夢の国を目指す。
すると、ジャックが翼を羽ばたかせようとした、次の瞬間だった。
「これはプレゼントだ。武運を祈る」
ヴォルドが何かを詠唱し始め、足元に眩い魔法陣が浮かび上がっていく。
あっ、デジャブ。
「ランドに直接送っては、カラクリモンスターたちの的になるであろう。少し離れた場所だが、これで一気に行くがよい」
すると、ヴォルドの描いた魔法陣から淡い光が漏れだし、俺たちを包むような風が巻き起こった。
淡く輝きだした光が渦を巻く。渦巻いた光が自分たちを引き寄せようとする。
「ゆくぞ! チチンプイプイ、オープンセサミ!」
目の前に現われた光の渦から発する風が、勢いを増した。
「ちょっ!」
俺たちは予想してなかった。空を飛んで神族大陸目指すつもりだっただけに、これは驚いた。
だが、こいつも聖騎士の一人であるなら、あいつと……アウリーガと同じ魔法が使えても全然不思議じゃねえ。
つうか、タイラーだって転移魔法を使えたんだ。
「これは、ワープね!」
「はは、なんや、こないな便利なもん使えたんか!」
「ラッキーだ。これで一気に神族大陸に行ける!」
あの時と同じだ。
光の渦の中、まるで無重力のように体が浮き上がる感覚。
上下左右、どこまで吸い込まれても壁も天井も見当たらぬ世界。
次元の異なる空間を、まさかまた漂う体験ができるとは思わなかった。
「しかし、やはりこれだけのことを成す神聖魔法は恐ろしいものじゃな」
「でも、魔王キシンに秒殺された奴もいたではないか」
「ウラウラ、それは、相手が悪すぎんじゃね? こいつはマヂ別格っしょ」
「というより、僕はお兄ちゃんの友達が魔王キシンだったという現実が恐ろしいよ」
「だが、やはり伝説のカイレは別格であったな。もう少々話をしてみたかったゾウ」
「ワタクシはヴェルトが四獅天亜人のカイザー大将軍まで仲間にしている状況が未だに驚きですわ」
おっと、雑談もここまでだな。
グニャグニャ曲がった気持ち悪い空間の中で、光の亀裂が見える。
まあ、ヴォルドのつぶやきからして、いきなり飛び出したら敵地のど真ん中ってことはねえだろうけど、用心するに越したことはねえ。
俺たちはその亀裂を前に、いつでも動ける準備をして身構え、そして光り輝く世界へと飛び出した。
――第十章 完――
色々ごっちゃごっちゃの戦争でしたが、正義だ何だとの戦いは一旦中断し、今度は攫われた娘の奪還やら色々なものとのケリをつける章になります。そして、まだ完全に元に戻れないヴェルトとフォルナですが、次の章ではもっと二人にフォーカスが当たります。まだまだ続きますので、引き続きよろしくお願いします。
また引き続き本作のブクマやご評価いただけましたら嬉しいです!
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