第308話 世界大戦の始まり
その瞬間、感じたのは、空間が圧縮され、引き寄せられるような感覚。
「月光眼、発動しちゃったよ?」
ジャレンガが何かをやった。この場に居る俺たちですら感じる感覚。
右腕を直接向けられたマニーは、吸い込まれるかのよう勢いよくジャレンガに引き寄せられた。
「うお、お、ありゃああ!」
俺のレビテーションや、エルジェラと同様の力か?
だが、俺も似たようなことを過去にやったが、マニーは無効化させる。
しかし、
「無駄だよ? 月光眼は魔法じゃなくて体質的な能力だから、無効化できないよ?」
マニーは止まらない。勢いよく引き寄せられたままで、無効化できない!
だが、マニーもまだ、笑う。
「いや~ん、て、なんちゃって! へへん、やったな~!」
おい、この場で始める気か? そう思った時、マニーは何かを取り出した。
「ジャジャーーーーーン!」
その手には、何十本もの短剣を構え、そしてジャレンガに向けて投げた。
「いっくよー、目指せ大当たりー!」
ほぼ同時に投げられたナイフは直線的に進み、引き寄せられる力を利用して、ジャレンガを目指す。
だが、こんなもので奴を倒せるわけがねえ。それとも牽制か?
いや……
「いえーい」
「ん?」
マニーがテレポートでジャレンガの背後に回りこみ、羽交い絞めにした。
両腕を押さえられたジャレンガにナイフを止めることも避けることも……
「月光眼あるって言わなかった?」
「きゃいん!」
その瞬間、今度はジャレンガを中心にして後ろに引っ張られるようにナイフもマニーも後方に飛ばされた。
「マニーちゃん!」
「お、おお! って、まあ、こんなんでやられるとは思ってなかったけど、何だアレ!」
「……スキルの発動が実にスピーディーだ。これが、ヴァンパイア王族のムーンライトアイ!」
特に詠唱もルーティンも必要なく、ただ、眼がパチパチ光って、形を変える。
これは一体、どういう効果だ?
「はうう、いたたたたたたたた、ずるいよ~」
壁に激突してのた打ち回るマニー。ふざけているのやら、真剣なのやら……
「もう、ずるっこだね~。うう~、これでもくらえ!」
その時、一瞬だけテレポートしてマニーが姿を消した。
どこだ? 俺たちの背後か? 俺たちは無言でそれぞれの背中を庇うように立ち上がり、迎撃態勢。
しかし、マニーは消えたら同じ場所に再び現れた。
しかし……
「くらえー!」
部屋を埋め尽くすほどの大岩と共に現れた。
テレポートで一旦消えて、別の場所に用意していた武器を持って、再び現れた?
「つぶれっちゃえー!」
「だから、無駄って分からない?」
しかし、岩は出現した瞬間にジャレンガから弾かれてマニーごとぶっとばした。
「うひゃあ!」
「な、い、色々とどういうことだ!」
「ゴラぁ、クソ王子、俺たちまで巻き込むんじゃねえ!」
俺たちそのものへの被害は少ないが、大岩はマニーごと壁に激突して壁を貫いて外までぶっとばされた。
「ぬぬぬ、えい、えい!」
岩ごとぶっとばされたマニーだが、一旦テレポートで消えて、また現れる。
何だか怒ったように、腰に手を当てた、ぶりっ子のプンプンスタイルだ。
「ずるいな~、もう、ずるっこだよ。マニーの力が使えないなんてずるっこだよ」
確かに、反則的な能力を保有しているマニーが圧倒されている。
マニーの能力に影響を受けない、月光眼? どういうことだ?
「あれが、ジャレンガ氏の月光眼」
一瞬でバラバラになった円卓や飛び散った資料が舞う中で、表情を綻ばせたルシフェルが俺の疑問に答えた。
「自身を中心に引力と斥力を発生させる、月光眼。ハンパな物理的な力は、ジャレンガ氏には一切届かない」
引力と斥力。それでか。
マッキーの重力魔法と似たところもあるが、それを魔法ではなく体質でコントロールし、体質だからこそ余計な詠唱だの必要としない。
「さて、マニーだっけ? もう、色々とやかましいからさ、宣言どおりにさ、………月に代わって殺しちゃうよ」
なるほど、これがヴァンパイアか。
「バット、プリンス・ジャレンガの力は、まだまだこんなものではない。彼のパワーからすれば、ムーンライトアイはオマケ」
オマケ? あんな反則的な能力がか?
「フルフルフル……」
「……ッ……」
ん? その時、ジャックの背中に隠れて震えているユズリハと、額から汗を流して表情を引きつらせているジャックの姿が視界に入った。
「どうされたゾウ、ジャックポット王子、ユズリハ姫」
「いや、なんや………あの兄ちゃん……なんか、よう分からんのに……体が震えてきたわ」
ジャックまでも? 獅子竜なんて、超絶生命体のクセに、こいつらは何を恐れている?
だが、ジャレンガの力がどうであれ、マニーの能力がどうであれ、そもそもこの争いは最初から見えていた。
「マニーちゃん……別にジャレンガ王子が居ようが居まいが、君一人でここに乗り込んで、どうにかできるわけないじゃん。どうしたの?」
そう、マッキーの言うとおり、ハナから無謀だ、こんなもの。
なのに、何故現れた? 何のために戦う? 何しに来たんだ?
「とにかく、チェックメイトだ、お姫様。ジャレンガ氏が本当に殺す前に、降伏はないのかな?」
「勇敢か、無謀か、余には理解できんが、タダで帰れると思ったか?」
七大魔王クラスの集結に加えて、ルシフェルや俺たちまで居る。
勝てるわけがねえ。
「なあ、マニーちゃん。どうせ君は捕まえても逃げられるからさ、逃げる前に教えてくれない?」
「……マッキー……」
「さっきの、ジーゴク魔王国VSヤヴァイ魔王国とかサラッと言ったけど、今、世界では何が起こってるの?」
そうだ。ルシフェルたちは今回のサミットを、魔族の意思統一を図るためのサミットと言っていた。
なのに、その水面下では既に、そんな戦いが開こうとしてるっていうのか?
マッキーの問いかけに、マニーは小さく息を吐きながら答えた。
「ロックの魔王キシン不在。でも、ジーゴク魔王国はその国土も軍勢もすごいし、それを束ねる六鬼大魔将軍は健在でしょ? でも、その大規模な軍勢と、魔王キロロに最強将軍ゼツキを切り離せればさ、千載一遇のチャンス! サミットに向かう二人の警護も厳重だけど、二人の居ないジーゴク魔王国はチャンス!」
いや、そんな簡単に言うけど、そんなアッサリと戦争に踏み出せるなら、どうしてこれまでやらなかったんだ? 二人が不在にしただけで戦争に乗り出せるなら、別に他のタイミングでも……
「お~、アンダースタンド」
「キシン?」
「これまで、ジーゴク魔王国とヤヴァイ魔王国が戦争しなかったのは、マップ上で両国の間にヤーミ魔王国とクライ魔王国があったからだ。両国が戦争をするには、どちらかがヤーミとクライを滅ぼすか、協定を結ぶしかない」
そういえば、そんな話をしていたな。それが、魔界最強の国を決定することができなかった最大の要因だと。
ん、待てよ?
「待って、キシン君! でも、今この場にクライ魔王国とヤーミ魔王国が居るから……」
「イエス、プリンセス・アルーシャ。……壁が無くなった……ワールドワーのスタートだ!」
三国で同盟を結ぼうとしている以上、もはやジーゴクとヤヴァイの間に障害はない。
そんな状況下で、新魔王と、あのゼツキの不在。
それは確かに千載一遇のチャンス。なるほどな。ヤヴァイ魔王国だけ、魔王がこの場に出席していない理由が良く分かったぜ。
本命の最強魔王は、とっくに……
「ゆえに、ミーの存在と力が、魔王ネフェルティたちには気がかりだった。何故ならミーの力を誰も覚えていない上に、今後の行動が読めない。だが、偶然にもミーがこの国に来た以上、サミットやそのほかのイベントなどで事が終わるまでミーをこの国に置いておく……それがユーたちのシナリオだったわけか」
「しかし、それは見破られていたわけだゾウ。あの面妖な者が言うには……」
そうだ。確かにマニーには筒抜けだったようだ。
だが、筒抜けだったというのなら、どうだというのだ?
「えへへへ……私たちは、世界同盟で、仲良しだからね……もう一つの魔王国が動いてたり?」
その時、マニーの言葉にラガイアが立ち上がった。
「まさか、マーカイ魔王国が、ジーゴク魔王国に援軍を?」
「うん、マーカイ魔王国『も』援軍してるんだ~」
そういうことかよ! マーカイ魔王国が……ん?
「も? じゃと? おぬし……どういうことじゃ?」
「えへ、えへへへへ、えへへへへへへへへ!」
バルナンドの問いかけに、俺たちも頭の中にある疑問が浮かび上がった。
既に情報が筒抜けで、ジーゴク魔王国はマーカイ魔王国と秘密裏に手を組んで迎え撃とうとしている。
なら、サミットは? その間の人類や亜人はどう動くのか?
「うふふふふふふふふふふふふふ! ああははははははははは! 壊れちゃえ! 全部全部壊れちゃえ! ねえ、マッキー! すごいよ、すごいの! あのね、マニーはちょっと教えてあげただけなんだよ? ヤヴァイ魔王国が戦争の準備してるって! それだけなのに、こうなっちゃったの! すごいよ! マニーすごいんだ! 私の一言だけで世界も歴史も変わるんだよ?」
不気味に笑うマニーにイラついて、思わず誰かが攻撃をしていた。
それが誰の攻撃なのかは分からないが、しかし、マニーの余裕は崩れない。
「マニーちゃん………んっ?」
「はっ?」
「なんと!」
「こ、これは……!」
そして、俺たちは、終わりへの始まりを目の当たりにした。
「く、雲が……!」
空に異変が起こった。
青い空を覆い隠す巨大な雲。
それは地平線の果てまで続く巨大なもの。
ついほんの少し前までは砂漠に照らす強烈な陽の光と雲ひとつ無い空だと思っていたのに、いつの間にこんな雲が?
いや、この雲は、ただの雲じゃねえ。
「ど、どういうことなん!」
「雲が……雲がゆっくり下降しとるやないか!」
そう、それは何かの表現じゃない。
見たままなんだ。
空を覆い隠す巨大な雲が、ゆっくりと下降し、砂漠のど真ん中の魔王城へと近づいてくるのだ。
「バカな、どういうことだ!これほどの接近を、余が気づかなかったと!」
「えへへへ、包帯お姉さん、そうだよね。この国に上陸しようとすると、包帯お姉さんが感知しちゃうでしょ? だからね、みんなね、お空から来たんだよ~!」
空からの接近。それは、雲というよりも、空そのもの。
一体誰が……
「バカな、どういうことだ! 私は何も聞いていないぞ! エルジェラッ!」
ありえないと叫びながら、エルジェラに言葉をぶつけるウラ。
だが、エルジェラも肩を大きく震わせながら、空を見え上げていた。
「そんな……どうして……天空王国ホライエンド……本土!」
天空世界!
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