第299話 集束と収束

 いや、ごめん、で、何があった?

 俺自身がキョトン顔になっちまった。

 状況を整理するとだ。なんかエネルギー砲みたいなものを俺の腕から放って? そのエネルギー砲を直撃したシャークリュウがぶっとんだ?


「なんだ! あの、人間、何をやったんだ!」

「あいつ、まだあんな力を隠し持って……」

「いや、でも、撃った本人が驚いてるぞ?」


 いや、意味分からねえ。だって俺、そんな魔法使えねえし。そんな技、練習したこともねえ。

 大体、あんなスゲーの放ったのに、俺自身全然疲れてねえの、どういうこと?


「ッ、アレは? …………ねえ、ルシフェルさん……空気砲じゃないよね? ……魔力砲?」

「いや、アレは、ただの魔力砲じゃない……ヴェルト氏自身の魔力だけではない」


 俺が驚いていることには、会場中もざわつきだして驚いている。

 一体、俺が何をしたのかと。いや、俺が知りてーよ。

 だが、この手応えは、何だ? 今まで掴みきれてなかったもんを、ようやく掴めたような感覚は?


「おい、マッキーラビットと言ったな……今すぐ、この瞬間だけサークルミラーの放映を止めろ。世界がパニックになる」

「はっ?」

「早くしろ。世界の歴史どころか、魔法の歴史まで革命的に変わってしまうかもしれないぞ?」

「えっ、魔王ネフェルティ、何かわかったの?」

「いや、まだ全容は………しかし、これは危険だ。余も、予想外であった」

「……わ、分かったよ。んじゃ、えっと、番組の途中ですが画像の乱れがあるので、しばらくは放映が途絶えま~す」


 何やら緊迫した声でネフェルティが身を乗り出して何かを言っている。

 えっ、俺、今そんなヤバイことやっちゃったの?


「ガハハハハハハハハハハハ、何だよ、クソガキ。ちゃんとできるじゃねえかよ。そうだよ、テメエはちまちま空気を圧縮したり、気流を作ったり、そんだけじゃねーんだよ、テメェの能力はな」


 そして意外なことに、この状況を一番早く理解できたのは、何を隠そう、脳筋のチーちゃん。


「二年前……テメエは俺が放出した魔力や、纏った魔力に干渉し、無理やり方向転換させたり、奪い取ったりした。だからよ、テメエは空気に触れて放出させた他人の魔力にも干渉できるんだ……大気中に漂って存在する魔力に干渉することぐらい朝飯前なんだよ」


 ゴメン、意味不明なんだけど。


「魔力の源は生命、この世の自然や大気に溢れている。そして肉体とはいわば、魔力を入れる箱。大気中の魔力をどれだけ取り込めるかは魔力容量……つまり箱の大きさ次第。そして魔法とは、自身の精神力と魔力と術式によって、世界に存在する風や炎の力を借りて放出する。だがな、テメエはその工程を全てふっとばせるんだよ」


 どーした、チーちゃん。何でそんな難しい言葉をツラツラと!

 ほら、アルテアもユズリハも意味不明で首かしげてんじゃん。

 でも、何故か当事者の俺は置いてきぼりに、マッキーや他の魔族たちは驚いたような表情で俺を見ていた。



「そ、そっか! 普通、魔法は体内に取り込んで一体化した魔力をコントロールし、体内から放出する。でも、……体内に取り込むことなく、リモートコントロールで大気中の魔力を操作できるヴェルトくんは、それをやる必要がない!」


「生命が使える魔法は、体内に蓄えることのできる魔力量によって決まるじゃない? 強大な魔法であるほど、体内から放出される魔法とエネルギーの量は半端ないでしょ? そして消費した魔力を取り戻すには、休息しか方法はないでしょ? つまり?」


「しかし、自身の魔力を消費することなく、大気中の魔力を自在にコントロールし、放ち、纏い、戦うことができれば……それは魔力の消費など関係ない。体力や精神力が続く限り、永久に魔法を使い続けることができる。無論、大気中の魔力と干渉してコントロールするための魔力は消費するが……その魔力が消費しても、大気中の魔力を強制的にかき集めて自分に取り込めば、それでヴェルト氏は回復することができる」


「やはりな。そして、今、ヴェルト・ジーハがシャークリュウに反撃した技は、余でもあまりみたことがないが、紛れもなく……『魔力集束収束砲』だ。大気中の魔力を集め、収束し、砲弾に変えて放ちおった」



 ダメだ、児童魔法学校中退の俺に、そこまでよくわからん原理をベラベラ喋られても分からんぞ。

 マッキー、ジャレンガ、ルシフェル、ネフェルティ、頼むから、アルテアの頭でもわかるぐらいの説明じゃねえと、俺にも分からねえよ。



「ひはははははははははは、パナ! パナ! パナーっ! 魔法知識のないヤンキーがファンタジー世界に放り込まれてたどり着いたのが、魔法の革命的境地! パナイ傑作!」


「だから、俺にはパナイ意味不明なんだよ! テメェらだけで納得すんなよな!」


「あ~、もういいからさ。ひはははは。今の要領でもっかいやってみそ」



 マッキーがもう、腹抱えて笑って、俺の身を全然案じてねえのが気になるが、確かに今はまだ戦闘中。

 手応えあったが、アンデットが相手ならこれぐらい……


「って、結構ボロボロじゃねえか」


 無言で立ち上がるシャークリュウ。しかし、その肉体の損傷はひどく、腹に風穴が空いている。

 まあ、それでも向かってくるから面倒なんだけどな。


「ったく、しつこいな! 今の要領だ? え~っと、こう、かき集めて、圧縮して、放つ!」


 今度はハッキリと分かった。かき集めるだけかき集め、圧縮して密度を増したエネルギーが、レーザー砲のように駆け抜け、今度はシャークリュウの右半身を消し飛ばした。


「う、うそおおお!」


 いや、マジでウソ?


「な、なんだありゃあ!」

「急に強くなったぞ、あの人間!」

「いや、ヴェルト、何してるっしょ!」

「ゴ、ゴミが………………ダイヤになった……」


 かつてない手応え。それどころか、どんどん力が増すようなこの感覚。どうなってんだ? 俺。

 だが、これはイケる。自然と体が高揚する!



「わお、ヤバくない? てか、ホントにやばくない? いや、ボクたちヤヴァイ魔王国もさ、魔力を収束させて放つ砲撃は、戦争の最新兵器の開発として注目されているんだよね? でもさ、魔力を集め、それを空間に留め、狙いを定めて砲撃することは、複数の魔道士が協力し合っても実現化は難しくてね、まだまだ実践でできる兵器じゃないでしょ?」


「しかも、確か研究されているその技術は、魔道士同士の相性や神がかり的な狂いのない一致した力配分が必要。少しミスすると、空間に止められた魔法が暴発して自爆してしまうという、高リスク」


「ガハハハハ、あのクソガキ、自分の魔法を追求し続けて、知らずにそこにたどり着いたという恐ろしいことしてるんだよ」


「な、なあ、あのさ、マッキー。あたしには良くわかんねーけどさ、とりあえずヴェルトが今やってることって?」


「いや、まあ、パナイぐらい物凄いことなんだよね。単独で、しかもノーリスクで魔法集束収束砲を使えちゃうって。しかも、使ってる魔力は大気中に散らばってる魔力だから、無尽蔵に撃てちゃうの。普通は常識では考えられないの」


「どういうことだ? ゴ、ゴミが覚醒しているだと?」



 新しい力。ふわふわ空気弾が更に進化した。

 なら、打撃の方はどうだ?

 これまで無理やり気流を纏って攻撃してたが、今の要領で、魔法を放つんじゃなくて、体や武器に纏わせたら?



「くはははは…………なんか…………漲ってきた…………」



 大気中に漂う目に見えない力。それが集まって収束され、俺の体にまとわりつく。

 それは、雷でも炎でも闇でも光でもない。でも、何かが俺に力を与える。


「うそっ? あれってさ、もう、そうだよね? ねえ、ルシフェルさん?」

「ああ、属性に変化させてはいないものの…………あれも立派な魔導兵装だ……」

「ガハハハハ、クソガキ~、……二年前よりよっぽど悪魔的になりやがったな」

「ふむ、余もまさかこれほどとは思わなんだ。サークルミラーを切って良かった。こんなものが世に知られたら……戦争の歴史に革命が起こってしまうかもしれん」


 ああ、もういいや、何でも。難しいこと考えるのは、俺には向いてねえからな。


「そんな…………お、お前は何者なんだ……ヴェルト・ジーハ」


 それは単純な驚きか、それとも恐怖かは知らないが、震えた唇で訪ねてきたウラに、ただ一言だけ俺は答えた。


「もう二度と、俺のことを忘れねえように、ちゃんと心と目に焼き付けとけよな」


 そして、すぐに決着をつけてそこまでたどり着いてやる。



「さあ、ふわふわ時間タイムといこうじゃねえか!」



 普段の自分からは考えられない爆発的な反動とともに、俺は一瞬でシャークリュウの懐に飛び込み、そして、閃光を纏った蹴りを放っていた。





――あとがき――

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