第236話 腐れ縁

 人数が増えたのか、怪我人が増えたのか、病人が増えたのか……


「かはッ、あ~、もう、ワレ、ほんま強かったわ。あいたたた、ユズリハ、つんつんせんでくれ!」

「ちっ、生きてたか、兄」

「ユーの奏でたパンクも、ミーのロック魂に響いた。おっ、たたたた」

「落ち着きなさい、村田君、と言うよりも、君たち、バカなの? いえ、バカなのは知っているわ、それこそ前世から。でも、もっとバカになったの?」


 地下カジノから隠し通路を使ってしばらく。またまた日の光の見えない地下世界に逆戻りな俺たちは、どこか出口が繋がる場所を目指しつつ、ボロクソ状態のミルコとジャックポットを地面に寝そべらせ、回復に当たっていた。

 どこか満たされたようにガキみたいに笑うジャックポットを見ると、ため息つきながらも「仕方ない」と思わせられる。


「おい、ジャックポット、気分はどうだ?」

「おお、あんさん、なはははは、清々しい気分や」

「まあ、あんだけやりあって、物足りないとか言わなくて良かったぜ」


 結局、どっちが勝ったとか、そんなものはどちらも気にしちゃいねえ。

 ただ、ひりつくような戦いをしたいというこいつの望みは叶えられた。

 まあ、そんだけミルコも体張った甲斐があるってもんだよな。


「それで、王子、姫、どうされるゾウ? 地下カジノはもう取り潰しになりましたし」

「ん~、せやな~、まっ、最初は家出資金稼ぐための遊びやったから、それはもう十分達成できたしな~」

「ゴミ兄、やはり私を忘れて遊んでいたな」


 今後どうするか。と言っても、こいつらは家出中のために行く当てや何か目的があるわけでもない。

 あえて言うなら、世界を見て回るとかブラブラするとか、そんなところだろうな。


「ちなみに、あんさんたちはどうすんのや?」

「ん?」

「キシンやカイザーなんちゅうゴツイやつ等が、あんさんに付き従っとる。正直このメンツ、なにやらかす気なんか、気にするなっちゅうほうが難しい話や」


 確かにそうだろうな。こいつと正面から力と力でぶつかり合えるミルコ含めた曲者集団。

 たとえ、こいつじゃなくても気になるところだ。


「そうね、朝倉君。私にも教えて欲しいものだわ。君のこれまでとこれからのこと、そして真実を」


 チラッと加賀美とミルコを見てみるが、こいつらに至っては正直それほど気にしてなさそうだ。

 カー君を見る。少し難しい表情なのが気になるな。


「カー君。一応、この女は俺やこいつらの旧友だ。特に問題ないぜ? まあ、カー君にとっちゃ複雑な相手かもしれねーがな」


 だって、カー君を倒したのは、真勇者ロア。つまり、アルーシャ姫の実の兄貴だ。

 宿敵の妹が目の前にいるとしたら、そりゃー複雑な心境だろうよ。


「って、そういや、今にして思うと、綾瀬、お前の兄ちゃんスゲーな」

「あら、今更という感じだけれど、どうして?」

「いや、ほら。俺はお前の兄貴と二年前に会ったわけだけど、あの兄貴含めた勇者総がかりでミルコにボロ負けだろ? それなのに、十二歳の時にはカー君に勝ったんだろ?」


 ん? すごいというか、なんか変な感じがするな? だが、綾瀬もそこらへんに何か引っかかったような表情を見せた。


「言われてみたら、そうね。その話は私も聞いてはいるけど、私はまだ十歳で戦争にも参加していないしね」

「カー君、どうだったんだ?」


 カー君からしたら敗戦の黒歴史かもしれねーが、純粋に素朴な疑問だった。

 だが、カー君は少し目を瞑って考えるようなそぶりを見せたが、すぐに微笑んだ。


「いや、真勇者ロアは強かったゾウ。小生は正々堂々と戦い、そして敗れたゾウ」

「ほお~、じゃあ、やっぱ勇者はスゲーんだな」


 さっきのカー君の力。

 カー君の力は七年前で止まってるんだろうが、正直あれと今戦えといわれたら、俺も相当シンドイな。

 そしてそのカー君に勝った勇者。

 二年前も五年前も何度も味わった感覚。上には上がいる。

 そして今度は、世界に打って出るには、人類すら相手にしなくちゃならねえ。

 まったく、なかなか楽にはいかねーな。


「小生の過去よりも、ヴェルトくん。これからはどうするつもりだゾウ?」

「だね~、朝倉君。まっ、当面の金も手に入ったし、人数は少ないけどこのメンツなら、メンバー紹介だけで十分パナイぐらいに名を上げられるっしょ。後は、本格的に領土に乗り出さないとね」


 このメンツってどっからどこまでを入れてんだ?

 加賀美の軽口に若干の嫌な予感がしながらも、確かに今後のことについてそろそろ動き出さないといけないのも事実。


「あれから二年。連中がどれだけ計画の準備を進めてるか分からねーが、のんびりするわけにもいかねえな」


 温泉でもそうだったが、こんなに早く聖騎士やイエローイエーガーズと遭遇し、戦闘までするのは正直、予想外だった。

 オルバントやギャンザに俺らの存在を知られたことは、今後の行動を相当気をつけないとマズイことになる。



「確かに、もし小生が敵であった場合、卒倒するほどの組み合わせだゾウ。世界が混乱するかもしれんので、それほど帝国も情報を開示せんかもしれぬが、少なくとも小生らの存在は軍関係者に知られたと言っても良い」


「だね~。あ~あ、もっとのんびりまったり世界征服しても良かったけどね~。なんか、パナイ怒涛の数日間だったね~。さすが、朝倉君と居ると、飽きないね~」



 のんびりするつもりはなかったが、怒涛だったのは俺も否定できない。

 最初は、この加賀美のアホだけ連れていくつもりだったんだが、今はどうだ?

 ラブ・アンド・ピース元社長のマッキーラビット。

 四獅天亜人のカイザー大将軍

 元七大魔王の一人にして、SS級賞金首のキシン

 それと、扱いに困る、武神の子にして亜人の王族、ジャックポットとユズリハ。

 だが、今の俺たちを更に悩ませるのは、こいつだ………


「つか、加賀美! テメエがドサクサ紛れに綾瀬を連れてきたからメンドーなことになりそうなんだろうが!」

「そんな~、朝倉君! 俺は、ただ、空気を読んだだけだよ! むしろパナイぐらいに女心を読め夫くんの朝倉君に代わって、恋するクラスメートの背中を文字通り押してあげただけじゃないか~」

「うそつけ! テメエ何を企んでやがる!」

「そんな企むなんて、パナイ失礼な。仲間が信頼できないの? 俺はただ、この方がなんかおもしろそ……じゃなくて、綾瀬ちゃんを味方にしといた方が、後々聖騎士たちに対して有効なカードになると思ってだね~」


 アークライン帝国の姫、アルーシャ。

 さすがにマジぃだろ、こいつが居るのは。

 あん時、加賀美が余計なことをして何やかんやで綾瀬が巻き込まれちまったが、もしこのまま放置すれば、地上や帝国は大騒ぎだろ。


「綾瀬、あのさ、そろそろ別行動して、お前は隊に合流したら?」

「この状況下で帰れというのも、とても難しい話だと思うのだけれど、誘拐したのなら最後まで責任を持って全うして欲しいわね」


 そして、こいつもこいつだ。別に拘束してねーし、別行動してさっさと帰ってもいいはずなのに、なんかもう、普通に溶け込もうとしてやがる。



「でも、確かに綾瀬ちゃんには綾瀬ちゃんの道がある。ソコデドウダロウ、アヤセチャン、カコヲミズニナガセトハイワナイケド、セカイノタメニオレタチニキョウリョクシテモラエナイダロウカ?」


「マダコタエハダセナイケドスクナクトモアナタタチヲホウチスルワケニハイカナイワ。シバラク、カンシノイミモコメテドウコウサセテモラウワ」


 

 何で棒読み? 「同行?」って綾瀬は言ったのか? いや、お前ら普通に敵同士だっただろうが。

 なんか淡々と話を進めている状況なわけだが、何で俺が置いてきぼりなんだ?


「ただ、それでもやはり教えてほしいわね。朝倉君、君たたちは何にたどり着いてしまったのか」


 正直な話、こいつに全部話したらこいつはこいつの正義に悩まされると思うな。

 実際、フォルナはそうだった。人間として生まれ、人間として育ち、人間として世界の異種族と戦った。そして、多くの仲間も失った。

 そして、それは綾瀬もそうだ。むしろ、フォルナと同様の人生を歩んできたと言ってもいい。

 ここまできたら、ホレたハレたの問題を大きく上回る。

 全ての真実を語ることで、こいつがどうなるのかが、やっぱり大きな問題になるわけだが……



「ん~、ま、あんま難しく考えて、またテンパんなよな」



 果たしてこいつが、綾瀬として答えを出すか。それともアルーシャとして答えを出すかは分からねえが、そこまで言うならと、俺は俺の知っていることまでを話した。


「へい、ジャック」

「ん? なんや、キシン。それ、ワイのことか?」

「ふっ、ユー以外誰がいる?」


 俺がガラにもなくシリアスなことを話している傍らで、ミルコはジャックポットとお互い腫れあがった表情ながらも嬉しそうに笑っている。

 まるで以前の世界で言う青春ドラマの光景だな。

 ま、そこは不良ではなく、鬼と竜なわけなんだが。


「なんやろな……よう分からんけど、なんや懐かしい気がするわ。鬼とド突き合いは初めてやのに、なんか、胸に来るなんかがあったわ」

「YES。言葉で表すなら、腐れ縁、運命、宿命、メニーメニーある。しかし、それでもあえて言うなら……ブラザー」

「ほっ、そらスゴイわ。あんたみたいなゴツイのにそこまで言われると照れてまうな」


 結局、ジャックポットは、この戦いで十郎丸の記憶を取り戻すことはなかった。

 まあ、そこまで何でもかんでも都合よくはいかねーし、それぞれタイミングってものがあると言えば、それまでだ。

 だが、今になって思うが、正直、木村田コンビにとってはどうでもいいことなのかもしれねーな。

 ミルコだったときの記憶とか、十郎丸だったときの記憶とか、それこそ生まれ変わってもまた何度でもダチになれる。それを正に証明している。

 もう今の時点で、何年も連れ添った腐れ縁の空気を醸し出してるんだからな……

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