第215話 最強で最狂で最凶からの旅立ち
二年ぶりに再会できた前世からのダチ。
しかし、喜び合っているのは俺たちだけで、カー君、そして特に加賀美に関しては混乱の極みだった。
「え~、じゃ、じゃあ、あの七大魔王最強候補の一人でもあった、魔王キシンって、村田くんのことだったの?」
「ひゅう、ミスター加賀美。まさか、ユーまでここに居るとは、中々に皮肉なディスティニーだな」
「うわ、うわ~、疑いようもないほど村田くんだわ。なんで、サラッとそういう大物になってんの?」
「そうでもない、今はただの浮浪魔族。魔王なんてベリー昔のストーリーだ」
「朝倉くんの話じゃ、死んだけど鮫島君が七大魔王のシャークリュウだったみたいだし、なんなの? パナくない? 七大魔王の内、二人も前世のクラスメートとかさ」
「お~、ミスター鮫島、あのカラテマンか。あまり話したことないからミーもそれほど覚えていないが、そうだったのか」
そういや、こいつらも前世からの再会だな。
二人共、もう何十年ぶりかの再会だ。
この世界のこの人生では果てしなく濃い人生を歩んできたこいつらだが、二人共何十年も前のクラスメートのことはちゃんと覚えていた。
まあ、二人共濃い奴らだったからな。
「なんと、ヴェルト君が魔王キシンと繋がりがあったとは驚きだゾウ。しかし、先ほどその看守が言っておったが、ジーゴク魔王国の魔王にキシンという者は存在しないとはどういうことだゾウ?」
俺たちのやり取りを不思議に思いながら、カー君は更なる疑問を口にした。
それは、キモーメンが、ミルコのことを「賞金首」と認識しても、「魔王」という称号に首を傾げたからだ。
「小生はジーゴク魔王国と戦争することはなかったが、それでも魔王キシンの名は亜人大陸にも轟いていたゾウ。もう、魔王を引退したのであれば不思議ではないが、魔王であったことすら知らないというのはどういうことだゾウ?」
「そ、そんなこと、僕に言われても困るんだな。ジーゴク魔王国の魔王は、『キロロ』っていう、可愛い女の鬼が魔王をやってて、その前は……誰だったんだな? 思い出せないけど、少なくともキシンなんて聞いたことないんだな」
「なんと………無知にもほどがあるゾウ……では、先ほど、賞金首と言ったのは?」
「それは、えっと、確か二年ぐらい前に神族大陸で、和睦の決まったジーゴク魔王国と人類大連合軍の関係を破壊しようとしたテロリストで、たった一人で魔族と人間に多大な損害を与えようとした、浮浪鬼魔族って呼ばれた、犯罪者なんだな。ただ、誰も捕まえられずに、賞金だけが跳ね上がってたんだな」
キモーメンとカー君の会話に、加賀美も首を傾げた。
だが、俺とミルコは目を瞑って二年前のことを思い出す。
全てを失った日を。
「カー君、そして加賀美、キモーメンの言ってることは間違ってねえ」
「朝倉くん?」
「とある理由で、二年前……聖騎士が世界に放った魔法で、世界から二人の男の記憶が消え、そしてラブ・アンド・ピースの工作で歴史が改竄された」
そう、その二人が、俺とこいつ。
「二年前、世界の真実に辿り着き、そして協力を拒んだ俺たち二人は……『リモコンのヴェルト』と『魔王キシン』は全世界からその存在を忘れられたんだ」
忘れられないけど、思い出したくもない、すべてを失った日のことを。
だが、そんな言葉だけではよく分からないのだろう。案の定、カー君と加賀美は目を丸くしている。
「あ、朝倉くん、忘れられたって、えっ? 君たちのことが世界から?」
「そうだ。人類大陸、魔族大陸、亜人大陸、そして神族大陸に至るまで、全世界を覆う強力な記憶操作の魔法を放った。まあ、記憶操作と言っても単純なもの。ただ、特定の人物を忘れるだけ。範囲が世界全体ということで、聖騎士もせいぜい二人か三人ぐらいしか人類から記憶を消せなかったらしいが、それで十分だった」
「それじゃあ……まさか、君が牢獄に入れられても仲間が来ないことや、村田くんが魔王としての存在を忘れられてるのは………」
「この魔法は、タイラーたちにとっても奥の手だったらしい。ラブ・アンド・ピースの下で全種族を一時的に管理する状況において、計画に反抗する邪魔な四獅天亜人や七大魔王を孤立させるためのものだったらしい。いくら四獅天亜人や七大魔王の力が強くとも、犯罪者にでも仕立て上げて国から孤立させれば、総力を上げれば始末できると踏んでいた。ラブ・アンド・ピースのそういう工作や根回し、または王族関係者への賄賂は完璧だったらしいしな」
その結果、圧倒的な権限を誇っていたはずのミルコは、すべてを失い、タイラーたちに懐柔された魔族がそのまま後釜に収まった。
「しかし、魔王の存在を忘れたとはいえ、キシンほど他者に多くの影響を与え、歴史の行く末にも左右していた存在であれば、少なからず矛盾や疑問が生じるはずだゾウ?」
「そう、この魔法のおっそろしいところは、そういう『矛盾を疑問に感じない』っていうところで、記憶操作と共に幻術的な効果があるみたいだ」
母子家庭で育った子供が、父親が居ないということを何も疑問に思わず、父親が誰かと知ろうとも思わないのと同じこと。
「だから、俺も忘れられた。幼馴染も……ファルガやウラ、ムサシ、クレラン、エルジェラ………フォルナですらな」
全員生きているのに、繋がりも記憶も完全に絶たれたことにより、全てを失う。
そう、俺はそんな世界に絶望して、タイラーたちに捕らえられた。
いや、タイラー『たち』じゃねえか。
俺を、人類存続という大義に反発した俺を逮捕したのは……
「皮肉なもんだな。おかげで、記憶を失われて悲しいのに、反面、もう戻らねえほうがいいと思ってる自分も居るぜ。………あいつは……あいつが、俺にしたことを思い出した瞬間、多分……耐え切れねえだろうからな……俺への想いと、人類の存続という板挟みにあってな……」
本当は思い出して欲しい。記憶を取り戻して欲しい。
「あいつが俺の敵になったとしても…………あいつの苦しむ姿だけは、絶対に見たくねえからな」
もしあいつが今、記憶を取り戻したら、あいつは多分二度と立ち上がれないかもしれないから……
「そ、そんな魔法があったとは、驚きだゾウ」
「ああ。だが、あまりにも強力すぎるために、聖騎士たちですら六人で力を合わせて、生涯で数回しか使えないらしい。これまで、戦争でも使われなかったのはそのためらしい。だが、二年前……もし、真実を知られたまま、俺とミルコを野放しにすれば、全てが水の泡になる。だからこそ、その魔法を使った。ミルコを犯罪者に仕立て上げた。そして、当時の俺は、俺の考えや行動しだいで、魔族側や亜人側、そしてフォルナたちにも悪影響が出ることを危惧してだな」
繋がりまくって出来上がった、リア充のヴェルト・ジーハはもう存在しない。
今ここにいるのは、誰との繋がりもなくなった、ただのクソガキ一人だけ。
自分でも、哀れで惨めで、泣けてきて、そして笑っちまうようなもんだった。
だが……
「だが、こうしてまた繋がったわけだがな、ミルコ」
「ああ、もはやミーの味方は世界でユーだけだからな。地図にも乗ってないこの監獄を探し当てるのに、二年というロングタイムを費やした」
「それでいい。おかげで、ニートから社会復帰できるだけの時間が貰えたわけだからな」
そう、もう、十分絶望した。十分イジけた。ひねくれた。
あとは、いい加減、立ち直るだけだ。
俺ができることをやってやる。
たとえ、フォルナたちが、俺のことを忘れていたとしてもだ。
「ミルコ、カー君、加賀美、まずはここを脱出し、そして体の垢でも落とそう。温泉にでも浸かってな」
「ひゅ~、パナいいね~、温泉か!」
「うむ、この汚れ切った体をリフレッシュするのは異存ないゾウ」
「それで、リューマ。リフレッシュしたらどうする?」
そのあとはどうする?
「ある程度リフレッシュして、その後それなりの軍資金と手駒を集めて…………」
決まってる……って、さっき決めたんだけどな。
「この世を俺が征服する」
………やべ、言っててちょっと恥ずかしかった。小学生か、俺は!
案の定、ミルコと加賀美は大爆笑。
んで、カー君も真顔で頷かれても、それはそれで恥ずかしいぜ。
「と、とにかくだ、さっさと陸に行くぞ。人類大陸に着けば、ちょいと知ってる温泉がある。まあ、そこに居る奴らは俺のこと忘れてるだろうし、この二年でどんだけになったかは知らねえが、ついて来な」
「ほ~、温泉なんてパナい貴重じゃん。俺も色々とビジネスやったけど、温泉までは手を広げてないっしょ。さすが、朝倉くんパナいね」
「しかし、小生とキシンは大丈夫か心配だゾウ?」
「へい、ユー。スモールなプロブレムなど、気にしないことだ」
二年ぶりの温泉か…………果たして、あそこはどうなったかな?
何だか懐かしい気分になった。
「んで、場所はどこだい?」
「旧シロム国近くにある山岳地帯の麓だ。二年前まで寂れた村だったが、俺が温泉掘り当てて、その後、ハンターたちが商業化するって話になってた」
「はっ? マジマジ? 温泉掘り当てた? 何その意味不明な過去と展開って、パナイ!」
あん時は、まだ皆が居て……て、やめろやめろ、シュンとなるな。
そうだ……
「しっかし、シロム国か、懐かしいね~。俺がラブ・アンド・マニーの社長だった頃に、よく利用してたっしょ」
「小生も人類大陸の地理に詳しいわけではないが、確か、帝国とそれほど距離が離れていないところだと思うゾウ? 大丈夫か心配だゾウ?」
「な~に、問題ねえさ。問題あるようだったら、こっちも大人しくしなけりゃいいだけさ」
「ミートゥー、だな、リューマ」
ここから始めるって決めたばかりだろうが。
「それと、朝倉くん。軍資金なら宛があるよ~。その温泉がシロムの近くにあるってなら都合がいい。シロムには、俺がタイラーたちに隠れて作った、地下カジノがあるからね~。収支報告してない俺の個人金庫にたんまりお宝が眠ってる」
「地下カジノ~? おいおい、シロムは滅んだだろ? それに、タイラーとの面会でチラッと聞いたが、ラブ・アンド・ピースに組織を改変してから、違法な麻薬とか裏カジノ的なものは撤廃してったって聞いたが? クリーンな組織を目指すってことでな」
「チッチッチ、パナ甘いよ、朝倉くん。裏カジノは所詮裏カジノ。ただレートが高いだけで、小金持ちたちをカードやルーレットでもてなす、お上品なもの。俺が趣味で作ったのは、もっと過激なもの。組織とは関係なしに、俺が個人的に経営して息のかかった奴らにしか教えてない、地下世界さ」
「相変わらず、胸糞悪そうな武勇伝が多いみたいだが、まあいいだろ。金の切れ目が縁の切れ。せーぜい、こき使ってやるよ」
「ま~かせなさい。でも~、金の切れ目にならないと縁が切れないなら、一生切れないかもね? お金に関して、パナイパーフェクト!」
まったく、聞いてるだけで嫌な予感しかしねーけど、まあいいか。
今のところ、半端な驚きぐらいじゃ、それほど狼狽えたりはしねーしな。
「ラジャー。なら、まずは温泉でリフレッシュして、ミスター加賀美のマネーを使って必要な準備を整えるわけだな。しかし、カジノ……ギャンブルか……もう一人のマイフレンドを思い出すな」
「まあ、妥当だと思うゾウ。あまりカネカネと言いたくはないが、神族大陸を支配して、三種族を退ける勢力となるには、軍資金は多い方が良いゾウ」
しっかし、何ともヘンテコな四人組が出来上がっちまったぜ。
まさか、初日からこんな展開になるとは思わなかったな。
まあ、二年も停滞してたんだから、こっから一気に駆け上がっていくには丁度いいか。
高揚感と共に、俺は魔力を解放して念じた。
今の俺は、空気に干渉し、自分の感知できる範囲に存在するものを全て理解し、操ることができる。
俺が念じたもの。それは、二年前に没収された、喧嘩の道具。
「見つけた」
ふわふわ発動。その瞬間、監獄の壁を突き破って施設の中から二本の棒が俺のところまで飛んできた。
これまで色んな奴のドタマに振りおろしてきた警棒。
久々持ったらズッシリと重みを感じる。
だが、これこそがこれから世界を征服する男の魔剣的な役割だ。
左右の両腰にホルスターを装着し、納める。おお、しっくり来た。
「おっと、あまりのんびりとこの場にステイしているわけにもいかないみたいだぞ?」
「ん? 軍艦だゾウ。ふむ、どうやら連絡を受けた人類大連合軍が駆けつけているようだゾウ。だが、旗を見る限り…………十勇者はおらんようだゾウ」
「あららら~、まっ、あんまり大きくないけどね。どうする? 潰しちゃう? それとも通り過ぎちゃう?」
やれやれ、犯罪者になんて、やっぱなるもんじゃねーよな。
落ち着く時間があまりないからな。
「ミルコ」
「ん?」
「景気づけだ。ハイテンションになる曲を頼むぜ。俺たちは………真っ直ぐ突き進む」
「ふっ、お~けい。では、まずはマイ・フェイバリットソングの、ロックンロールファンタジーで盛り上がろうか!」
そうだ、沈んだ気持ちをぶっ飛ばし、ここから反逆開始だ。
今の俺たちを、一体誰が止められるって言うんだよ。
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