第214話 初日から世界最強チーム結成
そーいやー、昔の世界では流行ってたな~、「もってる」って。
俺が何かをもってる人間なら、今頃こんな狂ったバカやろうや、ゴツイ亜人とかと行動してるわけねえっての。
だがその時、現状の異変に何かを感じたカー君が口を挟んできた。
「しかし、どういうわけか幸運なことは間違いないかもしれないゾウ?」
「カー君?」
「気づいているゾウ? さっきから、小生らを止める看守たちが全く見当たらない。だが、罠を張っているようには見えないゾウ」
ああ、それは俺も気になっていた。
看守たちが俺たちに攻撃を仕掛けてこないどころか、さっきからその姿がどこにも見当たらないのだ。
確かに階数ごとに足止めが多ければ登るのにも時間がかかるが、今ではスイスイだ。
しかしここまで来ると、幸運というよりも、何か嫌な予感もする。
「おい、キモーメン、こりゃどういうことだ?」
「わ、わからないんだな!」
キモーメンは即答する。
しかし、急に何かを思い出したかのように顔を上げた。
「あっ……」
「どうした?」
「えっ、あ、いや、その……さっき、君たちの脱走で大騒ぎでそれどころじゃなかったんだけど……そういえば、本部からも何か念話みたいのが飛んでたような……でも慌てて、全然聞いたなかったんだな」
慌てて? そりゃー、この三人が一斉に脱獄しようとしていたら慌てるだろう?
すると、その時、キモーメンが新たに何かを受信したようだ。
「えっ! あ、へっ? ………?」
恐らく念話がキモーメンに流れたんだろう。この監獄に居る看守たちは何をしようとしてるんだ?
すると、キモーメンが自分でもよく分かっていないのか、首を傾げた。
「あ、あの、なんか……地上に居た誰かから何だけど……地下に居る看守全員に直ちに地上の監獄入口に集合しろって……」
「はっ? なんだそりゃ? 地下で戦わずに俺たちを地上で迎え撃とうってのか?」
「い、いや、そうじゃないみたいなんだな………なんか……」
次の瞬間、キモーメンが口にした言葉。
それは、俺たち三人も意味不明で思わず……
「なんか、この監獄というか……この島に何者かが襲撃して、大暴れしてるって………」
「「「はっ?」」」
それは、予想外過ぎて反応に困るものだった。
「おいおいおい、この安定期に入った世の中で、この海の孤島の地下大監獄を襲撃するって、そんな馬鹿な国があんのか?」
「ひはははは、それはそれは、パナいね」
「七大魔王国? それとも、亜人? ラブ・アンド・マニーの関係者? いずれにしても、もしそれが本当なら、逆についてるゾウ」
そうだ。カー君の言うとおり、どこのバカがこんな時代にそんなアホな真似をしてるかは分からないが、もし現在地上でそんなゴタゴタが起きてるならチャンスだ。
なぜなら、戦う手間も減るし、ドサクサに紛れて脱出することだって出来るからだ。
「その馬鹿たちの目的はよく分からねーが、その騒ぎが収まる前に俺たちも出るぞ!」
俺たちはキモーメンを引きずりながら駆け足で階段を上っていった。
そして、徐々に地上に近づくにつれて、確かに騒がしい音が聞こえているのが分かった。
「戦闘の音だゾウ」
「揺れがパナいここまで響いているね。どーやら、そーとー激しい戦いをしてるみたいだね」
「ふっ、神族復活匂わせて暫らく大きな戦争を中断させる……しかし、その状況もいつまでも続かないだろうって予想は当たったようだな」
皮肉なもんだ。タイラーに同情しつつも、それでも今は運が良いとだけ思って、俺たちはついに地上へと飛び出すことが出来た。
「お、おお……………」
「まぶし………」
「太陽を見るのは、七年ぶりだゾウ……」
久しぶりに見た。
空は青い。
エネルギー溢れる太陽。
水平線の彼方まで続く海。
塩の混じった匂いが風に運ばれる。
肌に心地よい空気は、地下世界では決して味わえるものでもなく、俺たち三人はほんの一瞬だけ無防備になって、世界を堪能した。
だが……
「……つか……こりゃ~」
だが、すぐに現実に帰る。
「あ、朝倉くん、その、俺、ありのままを言っていいかい? 地上に出た俺たちの目の前にはデカイ船着場があるわけなんだけどさ………ここに倒れてるの………全員、看守じゃね?」
この大監獄は、地上に出ると目の前はすぐに船着場に直結している。
逮捕した犯罪者を船で連行し、船から降ろしたらそのまま監獄へと収監されるようになっている。
どんな巨大な船でも寄せられるように、船着場の面積は、人間が千人ぐらいはすっぽり入り切る程度には大きい。
もし、この監獄を襲撃するなら、戦闘はこの場で行われているはずなのだが、俺たちの目の前には、異常な光景。
「一方的だゾウ」
それは、戦っていたというよりは、一方的にやられていたという表現の方が正しい。
倒れているのは、全員がこの監獄に配属された人間だけ。
海には大破した船。
そして…………
「ああああああああああ! ま、ま、ま、魔法障壁が破壊されてるんだな!」
キモーメンが指差した先には、本来この島を覆っていた魔法障壁が張っていたと思われる空。
しかし、そこには何も感じない。何も見れない。
魔法障壁が、消えていた。
「いっ、一体誰が………」
「しかしここまで一方的とは……しかも、全員目立った外傷はない。何か強いショックを受けたように気絶しているゾウ」
「おいおい、ここには光の十勇者クラスの署長まで居たんじゃねえのか?」
そう思って辺りを見渡すと、キモーメンがまた叫んだ。
「あっ、署長!」
「えっ、あれが十勇者クラスのキャニオン署長とかってやつ? やられてんじゃん!」
キモーメンが指差した先には、大勢の職員が倒れている中に紛れて、倒れている一人の男。
すると、キモーメンに反応したように、署長と呼ばれた男が僅かに意識を取り戻して動いた。
「うっ、ぐ、がっ、あ………」
「署長、一体、何があったんだな!」
駆け寄ったキモーメンに対して、署長と呼ばれた男は意識は朦朧としている。
しかし、辛うじて動かした口から出た言葉は……
「つ、つよ………つ……よ………すぎる………あんな、ばけもの……」
強すぎる? 化物?
ちょっと待て、光の十勇者クラスとか言われていたこいつが、こんな恐怖を感じるような何かが、ここを襲っていたのか?
「署長、て、て、敵は、どこの国なんだな? どこの種族なんだな?」
俺たちも息を飲んでその問の答えを待った。
すると……
「ひ、…………ひとりだ………」
はっ?
「国……じゃない……ひとりだ……わずか、一人の………あいつだ……あの、二年前……突如世界に現れた……謎の、浮浪……魔族……」
その時だった。
――――♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
変なものが聞こえた。
音と……
「大人たちが言った、この世に本当の自由はないって。ファッキングじゃねえか! 俺たちを見ろ! 俺たちの自由はここにあるじゃねえか! フリーダムは確かに存在している!」
変な歌が……ギターに乗せて………
「…………………………………」
思わずポカンとしちまった。
もうさ、不意打ちはやめようよ、そういうの。
俺は、嬉しいやら、混乱やら、もう色々と訳がわからなくなって項垂れちまった。
だが、他の奴らは違う。
「ひいいいいいいいいい! こ、こいつは! こいつは! SS級賞金首! 浮浪鬼魔族のキシン!」
ブラックレザーのパンクなロックンローラースタイル。
真っ白いフライングVのギターを鳴らして熱唱する鬼野郎。
「えっ、えっ!? キ、キシンって、あれっしょ! ほら! 俺も良く知らねーけど、あの、確か七大魔王の!」
「何故だゾウ! なぜ、ジーゴク魔王国の魔王キシンがここに!」
加賀美も珍しく真面目に驚いている。お~、貴重だ……
「えっ、七大魔王? 何言ってるんだな? ジーゴク魔王国の魔王は、確か……『キロロ』っていう若い魔王なんだな」
「………はっ? 何を言ってるゾウ。いかに人間とて、魔王キシンを知らぬはずがないゾウ」
「魔王ってどういうことなんだな? 『ジーゴク魔王国の歴代魔王にキシンなんてやつ居なかった』んだな」
その時、会話の噛み合わないキモーメン、そしてカー君たちの会話が繰り広げられている中、ロックの鬼はギターをやめ、そして自嘲気味に笑った。
「ふふ、魔王キシン……そのネームはベリー久しぶりに聞いた。二年前から……世界がミーの存在を忘れた瞬間、もう誰もそのネームをコールしてくれないものだと思っていた」
ほんの少しだけ、シンミリとした空気を出し、しかしすぐにウインクして笑った。
「バット、魔王の称号に未練なし。なぜなら、世界中がミーを忘れても、ミーの本当のネームをコールしてくれるフレンドがここに居るからだ」
だから、俺も笑って返してやった。
「途方も無い追っ手から逃れ、二年もかかった………地図にも載っていない秘密の島……探すのがベリーディフィカルトだった」
「は……はは……お前……」
「ソーリー、リューマ。しかし、ミーが助けに来た日に、リューマまでエスケープしようとしていたとは、流石はミーのベストフレンドだ」
「グッドタイミングにもほどがあるだろ………ミルコ………」
「ふっ、その様子、どうやらレゾリューションが固まったようだ」
「ああ」
気づいたら、俺たちは力強いハイタッチを交わしていた。
「なら、レッツゴーだリューマ! ミーもトゥギャザーしてOK?」
「くはははは、……オフコースッ!」
乾いた音が、実に心地よかった。
そのやり取りに意味不明で固まっている、キモーメンとカー君。
そして……
「いやいやいや……魔王キシンが朝倉君のことを『リューマ』って……で、朝倉くんは魔王キシンを『ミルコ』って………え~、そ、え、どええええええ! そんなパナいことってありえるの?」
もう、なんか色んな意味で頭を抱えだした加賀美。
「は~~~、やっぱ、朝倉くん、なんか『もってる』よ。なんでさ、世界征服しようと決めたその日にさ、既に世界最強っぽいチーム作ってんの?」
とりあえず、色々唸りながら、加賀美が俺に言った。
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