第134話 天の力に平伏す魔王
「つうか、何なんだよあのクソババアどもは! 報告よりも全然ツエーじゃねえかよ! ただの、脳みそお花畑のエロエロババアじゃなかったのかよ! 偵察隊どもの報告はなんだったんだ!」
「……その……恐らくは、天空族に篭絡されたのではと……」
「ふっざけんじゃねええ! あんなブッサイクなババアを相手に鼻の下伸ばしやがって! この恥さらしどもがああああああああああ!」
あ、ある意味スゲエ…………
絶世の美女天使集団を前にして、ブサイクなババア呼ばわりか。
こいつは、頭は悪そうだが、戦ばかりを繰り返してきて、そういうハニートラップ的なものには逆に引っかからない硬派なタイプ……
「いいか、クソども! そもそも、女ってのはな、十二歳までを女って言うんだ! それ以上は全員シワクチャのババアなんだよ! 死んでいいんだよ!」
前言撤回。ただの変態ロリコンだった。
「お前らは何も分かっちゃいねえ! 俺のような凶暴で醜い魔王にはねえ可愛さという魅力を子供は持っている! そいつを体張って守ってやるのが、本物の男! 男の女の愛し方! 守るに値しねえ腐りきったババアもブサイクも全員死んでよし! 皆殺しにしてやりゃいいんだ! わかったか!」
「し、しかし、魔王様。それはあまりにも極論といいますか……見てください、あの天空族ども! 整った顔立ちに、その、む、むしゃぶりつきたくなるような、きょ、巨乳」
「クソガアアア、何でだ! 整ったツラ? そんなもんは、骨の上にある一枚の皮じゃねえかよ! 胸? そんなもん、脂肪の塊だろうが! 大体、巨乳の何がいいっていうんだ! 巨乳の女なんか、肩が凝る肩が凝るとか、ババアみたいなことを言いやがって、おまけにあせもができるとかウルせえし、乳輪の形だって重要になる! おまけに、もっとクソババアになったら垂れるんだ! 小ぶりで掌サイズが一番魅力的なんだよ、覚えておけ!」
………おい……
「っておい! 違うレールに乗ってるじゃねえかよ! お前ら今、大ピンチなんだから戦争の話をしろよ! 攻め込まれてるんだろうが!」
思わず、この俺ですら助言してしまうほどの大バカっぷりに、ファルガたちも頭を抱えて呆れていた。
「あ、あのクソが、七大魔王だと?」
「……父上が、私を叱るときに引き合いにだしていた怪物がアレか?」
「亜人族にも伝わる、爆怪のチロタンとも言われていた……」
もう、好きにしてください。
そんな印象を受けた。
「天変天異!」
「天元撃破!」
「天軍武帝!」
そして、もはや何が起こっているのかよく分からない。
「ひ、ひいいいい! き、きたあああ!」
「ま、魔王様、お、おにげくだ……ッ……なんという美しさ……」
雲全体に轟くような光の爆発が戦場を包み込み、多くの魔族たちが舞い上がり、怒号を上げて猛っていたチロタンの前に、三人の大天使が舞い降りた。
「テメエが将だな」
「降伏してください」
「引けば命は助かる。しかし、引かねば……天に代わって成敗する!」
その圧倒的な存在感に、本陣の魔族たちは全員がたじろいで、既に戦意を失っていた。
「本当に、この恥さらしどもが~、糞味噌粉砕して、あとでぶっ殺してやる」
たった一人を除いて。
「天だなんだ、そんなもんただの理屈にもならねえ、カス言葉だ! 黙ってこの王国を俺に渡してれば、地上に蹴落としてやるだけで済んだのに、この救いようもねえクソババアどもが!」
ゆらりと、笑みを浮かべて、チロタンが前へ出た。
輝かしい光のオーラに対抗するように、どす黒い瘴気を溢れさせて。
「ま、魔王様!」
「チ、チロタン様が直々に!」
空気が変わった。
そうだ。相手は腐っても魔王。
世界三大称号の一つ、七大魔王に数えられた一人だ。
「覚えておけ、ババアども! 空にぷかぷか浮いて黙って衰えるテメェらには、想像出来ねえ力と世界だ! 理屈にならねえ、七大魔王と呼ばれたこの俺様の圧倒的で超絶的で大爆砕な力でバラバラにしてヤラァ! ションベン垂れ流して泣き叫びやがれ!」
そして…………戦争の決着を着ける頂上決戦は…………一瞬で終わった。
「へへ、やってみろよ真っ黒野郎! オラオラオラオラオラ!」
「ッ、ウザってえ、ドブスが!」
真正面から。女の細腕で振り回す超重量武器。
レンザの振るう巨大斧の連撃を、チロタンに振り回す。
だが、チロタンは半端な小細工はしない。
その見かけ通りのパワーに頼った単純な拳を、レンザの戦斧にぶつけた。
「つっ!」
「ぐぬぬぬ!」
衝撃波が生じるほどの威力。
互は無事だが、その衝撃に両者が後方へ飛ばされる。
「へへ、やるじゃねえか! オレのパワーを耐えられた男は初めてだ! そんぐらい逞しい奴は、意地でも犯したくなったぜ!」
「うるっせえ、クソババアが! もうブチキレタ! こんな世界どうでもいい! 役にも立たねえ部下どもまとて全員ぶっ殺してやる!」
途端に、チロタンが全身を思いっきり縮こませてうずくまった。
いや、それはうずくまっているんじゃない。
極限までに力を圧縮して溜め込んでるんだ。
なら、溜め込んだものはどうするのか?
決まってる、発散させるんだ。
「全員消えてなくなれええええ! バーストエンドディストーション!」
悪魔の輝き。全てを奪い尽くす圧倒的な爆発。
世界の消滅を思わせるほどの巨大な威力……だったのかもしれない。
「うおっ、こいつはヤベエ! エルジェラ!」
「お任せ下さい、レンザお姉様!」
爆発の光が全てを覆い尽くす前に、エルジェラが前へ出た。
「我が天力を全て注ぐ! 天空天華!」
何が起こった? それは、フォルナやウラの魔道兵装と似た力かもしれない。
真っ白いウェットスーツが変化した。
ガンレット、鎧、ヘルム、そしてロングソード。そして、エルジェラ自身の両翼も全てが眩い黄金色へと進化した。
「全ての現象から我らが天を守ります!」
光の衣が、全ての爆発を包み込んだ。
まるで、最初から何も起こらなかったかのように、静まり返った天空で、チロタンは驚愕の表情を浮かべた。
「は、な、お、俺様の力が……なんだそりゃああああああああああああああああああ!」
そして、叫び終わった頃には全てが終わる。
「幕だ。地上の王よ!」
「ッ!」
最後には、先端が螺旋状に渦巻く槍を、ロアーラがチロタンの腹部に突き刺して抉った。
大量に飛び散る青い血液と、チロタンの悲鳴にも似た呻き声と共に、天空で行われた戦が終を告げた。
「へへ、一対一だったらヤバかったな」
「すぐに手当を。まだ助かるはずです」
「ふっ、くだらぬ戦だった」
そして、俺たちがその三人に戦慄したのは言うまでもない。
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