第132話 チンチン

「あ、あれが男なの? やだ、初めて見た」

「でも、確かに顔つきや体つきが私たちと違うわ」

「例の攻めてきた捕虜になった地上人も、男らしいけど全員戦乙女たちが連れて行ってしまったし」


 な、なんなんだ? なんか、ものすごい好奇な目に晒されているんだけど。

 って、俺の全裸を見たエルジェラまで、何をショックを受けてやがる。



「そ、そんな……ヴェルト様、それに、ファルガさんも……男だったのですか?」


「ど、どー見ても男だろうが! つーか、俺のナニを素手で掴んだくせに、未だに何を言ってやがる!」


「ナニ?」


「……お、お前、ふざけてんのか? 俺を素っ裸にして、偶然触って驚いていただろうが!」


「えっ…………ま、まさか! そんな……では、あれが……あれが、あれが噂の……男性にのみ備わると言われる、人体の一部……チンチンだったのですか!」


「大声出してんじゃねえよ、バカアアア! 天使が言っちゃいけねえキーワードだぞそれは!」



 いや、なんかショックの受け方が違う。

 すると、エルジェラは、「確か、これぐらいの大きさで」「温かかった、逞しくて」と俺のナニを触った手をジーッと見てニギニギしながら、途中から俺の股間と自身の手をチラチラ交互に見てやがる。

 な、なんなんだ?


「しら~~~~~~」


 ウラ、お前、そんな白けたツラをすんなよ。

 俺だって何が何だか。


「なにい? おまえ、エルジェラ! おま、お前……伝説の性剣……チンチンを触ったのか! オレだって触ったことねえのに!」

「それは、本当か! 噂は本当だったか。この間、捕らえた地上人どもを尋問している部下たちから聞いたときは、まさかとは思ったが……チンチンというものは、やはり存在したのか!」


 やべえ。天使が三人揃って真顔でチンチントークしてるんだけど。

 さすがに俺たちも反応に困りすぎてどうすればいいのか分からねえ。

 すると、頭を掻きながら、レンザが前へ出てきた。


「あ~、オレたちは皇女だからさ、分裂出産以外で子孫を生むことは基本的に掟や母様たちに言われて禁じられていてよ~、だから、赤い毛むくじゃらの地上人共も捕らえたはいいけど、俺たちはその後は関与できねーんだよ。でもよ、捕らえた奴らを尋問していたやつらは………自分の性別が女で良かった……とか、スゲー幸せそうな顔してんだよ! 気になるだろ?」


 いや、その前に、尋問と称して、戦乙女たちはナニをヤってんだよ。


「だからよ、そこの二人。どっちでもいい、お前らを盛大に歓迎してやるから……こっそり、チンチン見せな!」


 うん、最初は天国に感動してたけど……やっぱ、こいつらもどこか頭おかしかった。

 スゲー男前な顔して、この女は何を言ってんだ?



「ふむ。なるほどな……確かに、我々には得難い情報だ。可能であれば、私も同席させていただきたい。是非にチンチンを! できれば触らせて欲しい!」


「あっ、ヴェルト様! 私も、是非もう一度お願い致します! チンチンを! あの逞しく、だけどどこかかわいらしく蠢いていた、あのチンチンをもう一度! その、噂では触るだけでなく、口に含んだりとかするものだとも聞いております! ヴェルト様、どうか!」



 あっ、ウラが……「もう……帰らないか?」的な顔してやがる。

 ムサシは頭から煙り出して顔を真っ赤にしたままフラフラ。

 

「ぎゃーはっはっはっは! マジウケルッスー!」

「あははははは、よ、よりにもよって、ファルガに向かって、おちんちん見せてって……あはははは、さいっこう!」


 ドラとクレランだけは大爆笑だった。

 まあ、俺たち自身は爆笑するよりも、もはや言葉もないといった感じだ。

 ファルガに至っては、エルジェラたちをゴミ虫を見るかのように呆れた目をしてやがる。

 まあ、女しか居ない環境で育った連中の感覚からして仕方ないのかもしれないが、ここで御開帳しようもんなら、一生の黒歴史になりかねん。

 ここは丁重に………



――――パンッ!



 何かが弾けた音が、急に俺たちの頭の中に鳴り響いた。



―――――ッ!



 その瞬間、チンチンチンチン連呼していたエルジェラたちの顔つきが変わった。



――――天空戦乙女騎士団に告ぐ。新たな不法侵入の反応あり。数はおよそ五百。行動可能な騎士団を結集させ、これを処理せよ。座標を送る。侵入者は既に下層雲海を越えたと思われる。



 五百! 

 突如鳴り響いたテレパシーの知らせに、俺たちだけでなく、王国の女たちも慌ただしく動き出した。


「総員戦闘準備! 先日より、既に和平交渉は不可能! 早急に撃退する!」

「へっ、これまでチマチマ偵察を送ってたようだが、急に大胆にきやがって。オレが全滅させてやる」

「また、争いが起こるのですね」


 これは、つい先日までアークライン帝国で見ていた兵士たちと同じ表情。


「ヴェルト様たちは少し待っていてください。追い払ってきますので。チンチンの件はまた後で!」

「ああ。オレらが帰ったらチンチン見せろよ」

「うむ、チンチンは残念ながら後回しだ。行くぞ」


 戦争へ向かう兵士たちの顔つきだ。


「行っちゃったよ」

「結局天国でも戦争か……クソみてえな時代だぜ」

「何とも言えないな、私には」

「う~む、しかし、五千でこの規模の国を攻めるとは、随分と強気でござるな」

「そうね。よほどの自信があるか、おバカさんか」


 だが、それを見ても俺たちにはどうすることもできない。

 この世界でありふれた戦争の世界。

 帝国の時と違い、俺たちが関わる理由も義理もないからだ。

 例え、相手が誰であれ……



――――新たな情報を送る。敵軍の総大将が名乗りを上げて、侵略を宣言。強力な波動を感じる。総員、警戒せよ。敵軍総大将の名は『チロタン・ポポポ』と名乗っている。



 ちょっと待て、何だそのいかにも爆笑してくださいな名前は。

 シリアスな状況も吹っ飛びそうな名前に俺が笑いそうになる。

 だが……


「なに?」

「まさか!」

「なんと!」

「うそ……」


 ファルガ、ウラ、ムサシ、クレランの四人の顔が強ばった。

 意味がわからないのは俺とドラだけ。

 一体何の意味が……


「そうか、ヴェルト。お前は知らないんだな。まあ、私も魔族大陸に居た頃しか名前を聞いたことがないが……」

「お、おい、ウラ。なんだよ、そのチロタンとかいうのは、有名なのか?」

「あ、ああ……チロタン・ポポポ……噂では魔界一短絡的な暴れん坊だとか……昔、父上が言っていた。そして、何よりも、チロタンは……」


 暴れん坊ね~、なんか名前とギャップがありすぎて、イマイチピンと来ないというか……



「チロタンは、七大魔王の一人だ」



 おい、それを先に言うもんだろうが!


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