二十歳の恋~このまま君と歩いていけたら

チェシャ猫亭

第1話 恋人は欲しいけど

 二十歳はたちは、立派な大人、そのはずだ。酒、たばこが解禁。成人式に選挙権。いまは十八からだけど。


 未熟であること、ひとりであること。

 それが私の二十歳の原点。


 そんなことを誰かが言ってた、ような。

 僕もそんな感じだな。

 大人だなんて、実感ないよ。いつまでたってもガキのまんま。



 十月下旬。

 引っ越してから、早いもので、もう一か月近くが過ぎた。

 義兄である勇策ゆうさくとの罪深い夜。姉にバレるのが怖くて、秀人しゅうとは、大急ぎで引っ越した。

 あれから、姉夫婦には会っていない。姪の顔くらい見に行けばいいのに、鋭い姉に、何か気づかれるのでは、と。姉からは、八菜はなちゃんの画像が届いた。はじめはシワシワだったが、だんだん可愛くなってきている。


 どっちに似ても可愛いに決まってる、美男美女カップルだもん。

 ついでに、と言い訳しながら、義兄が写ってるのも見てしまう。すっかりパパの顔で、自分のことなんか、とっくに忘れているだろう。

 会いに行かないのは、会ったらきっと、勇策に目がいってしまい苦しくなる。それが分かっているから、行けない。ただの義弟扱いだと思うと、それも悲しい。


 義兄さん。


 僕はまだ、忘れられない。


 姉の夫と、なんて、許されないことだ。

 でも、三年もひそかに思い続けてきた男性。アクシデントとはいえ、誘惑に逆らえなかった。抗ったところで力では敵わないし。二度とないチャンスだったのは事実だし。


 あの朝。義兄の胸で目覚め、一緒に風呂に、なんて甘くささやかれて。

 姉が産気づいた、と電話がなかったら、どうなっていただろう。土日と時間はたっぷりあった、行くところまで、行ってしまったかもしれない。少なくとも秀人は、それを期待していた、心の奥底で。

 今は、何をしても他人に見られる恐れはない。その安心感もあって、どうしても股間に手が伸びる。これじゃいけない、と思っても、だめだ。


 義兄さん。

 他人の指づかいが、あんなに気持ちいいとは知らなかった。思い出すだけで、うっとり、を通り越して欲情、爆発。恥ずかしいほど乱れてしまう。

 空想の中で、秀人は義兄に抱きすくめられ、息が止まるほど熱いキスの連続。限界まで硬くなったものを重ねて、それから、それから。


 これじゃ、ダメだ!

 一発抜いて我に返った秀人は、いい加減にアクションを起こそう、と決めた。

 じーっと鏡を見る。

 あの美人の姉の弟だ、イケメンと断言、は無理でも、それなりの顔。

 この程度でいい、と言ってくれる人が、きっといる。いるはずだ。

 恋人がほしい。

 恋人をつくるのだ!


 しかし、どうやって。

 そう簡単には見つからないだろう。男女なら、若い子の集合体の大学に籍を置く身。いっくらでも相手はいそうなものだが、彼、彼女がいない学生も多い。結局、一部のモテ層がいるだけで、ほとんどは、あぶれ層、なのでは。

 恋人、という言葉を思った瞬間、浮かぶのは勇策の顔だし。


 マッチングアプリ、はどうよ。

 特にゲイは自然な出会いは難しい。まさかハッテン場に行くわけにはいかない、怖すぎる。二丁目の店に行く勇気が、そもそもないし。

 アプリで出会うカップルも多いって聞くけど。

 思い切って検索してみた。びっくりするくらい、ゲイマッチングアプリはヒットした。


「ヤリモク」という言葉にギクッとなる。

 やるのが目的、という意味だろう。なんて即物的な、と焦るが、自分はどうなんだ。

 パートナー募集とか、結婚相手、なんてのもある。

 秀人の場合、そこまでは考えていない、とりあえず話すだけでも。

「ゲイ友達」アプリもあった。

 ここらへんから始めるかな。

 そういのもあるんだ、とわかってほっとして、それ以上は何もしなかった。



「シュウ」

 キャンパスで、後ろから声をかけられた。

「サキ、ひさしぶり」

 山田佐喜が笑顔で立っていた。

 おとなしそうな穏やかそうな、どこにでもいそうなタイプ。

 高校、大学と一緒だが、高一の時だけクラスが同じ、話したことは、あまりなかった。入学してすぐ再会し、今は、わりあい仲良くしている。やはり一人暮らしの佐喜の部屋に、一度だけ遊びに行ったことがあった。


「一人暮らし、どう」

「うん、快適。あ、サキの真似して、布団で寝てるんだ。あれ、いいね。部屋を広く使えて」

「だろ」

 佐喜は、うれしそうだ。急な引っ越しでベッドがないと楽と気づき、佐喜の部屋で見た布団を思い出した。

「今度、遊びに行っていい」

「うん」

 次の週末でも、と、いうことにして、ふたりは別れた。


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