二十歳の恋~このまま君と歩いていけたら
チェシャ猫亭
第1話 恋人は欲しいけど
未熟であること、
それが私の二十歳の原点。
そんなことを誰かが言ってた、ような。
僕もそんな感じだな。
大人だなんて、実感ないよ。いつまでたってもガキのまんま。
十月下旬。
引っ越してから、早いもので、もう一か月近くが過ぎた。
義兄である
あれから、姉夫婦には会っていない。姪の顔くらい見に行けばいいのに、鋭い姉に、何か気づかれるのでは、と。姉からは、
どっちに似ても可愛いに決まってる、美男美女カップルだもん。
ついでに、と言い訳しながら、義兄が写ってるのも見てしまう。すっかりパパの顔で、自分のことなんか、とっくに忘れているだろう。
会いに行かないのは、会ったらきっと、勇策に目がいってしまい苦しくなる。それが分かっているから、行けない。ただの義弟扱いだと思うと、それも悲しい。
義兄さん。
僕はまだ、忘れられない。
姉の夫と、なんて、許されないことだ。
でも、三年もひそかに思い続けてきた男性。アクシデントとはいえ、誘惑に逆らえなかった。抗ったところで力では敵わないし。二度とないチャンスだったのは事実だし。
あの朝。義兄の胸で目覚め、一緒に風呂に、なんて甘くささやかれて。
姉が産気づいた、と電話がなかったら、どうなっていただろう。土日と時間はたっぷりあった、行くところまで、行ってしまったかもしれない。少なくとも秀人は、それを期待していた、心の奥底で。
今は、何をしても他人に見られる恐れはない。その安心感もあって、どうしても股間に手が伸びる。これじゃいけない、と思っても、だめだ。
義兄さん。
他人の指づかいが、あんなに気持ちいいとは知らなかった。思い出すだけで、うっとり、を通り越して欲情、爆発。恥ずかしいほど乱れてしまう。
空想の中で、秀人は義兄に抱きすくめられ、息が止まるほど熱いキスの連続。限界まで硬くなったものを重ねて、それから、それから。
これじゃ、ダメだ!
一発抜いて我に返った秀人は、いい加減にアクションを起こそう、と決めた。
じーっと鏡を見る。
あの美人の姉の弟だ、イケメンと断言、は無理でも、それなりの顔。
この程度でいい、と言ってくれる人が、きっといる。いるはずだ。
恋人がほしい。
恋人をつくるのだ!
しかし、どうやって。
そう簡単には見つからないだろう。男女なら、若い子の集合体の大学に籍を置く身。いっくらでも相手はいそうなものだが、彼、彼女がいない学生も多い。結局、一部のモテ層がいるだけで、ほとんどは、あぶれ層、なのでは。
恋人、という言葉を思った瞬間、浮かぶのは勇策の顔だし。
マッチングアプリ、はどうよ。
特にゲイは自然な出会いは難しい。まさかハッテン場に行くわけにはいかない、怖すぎる。二丁目の店に行く勇気が、そもそもないし。
アプリで出会うカップルも多いって聞くけど。
思い切って検索してみた。びっくりするくらい、ゲイマッチングアプリはヒットした。
「ヤリモク」という言葉にギクッとなる。
やるのが目的、という意味だろう。なんて即物的な、と焦るが、自分はどうなんだ。
パートナー募集とか、結婚相手、なんてのもある。
秀人の場合、そこまでは考えていない、とりあえず話すだけでも。
「ゲイ友達」アプリもあった。
ここらへんから始めるかな。
そういのもあるんだ、とわかってほっとして、それ以上は何もしなかった。
「シュウ」
キャンパスで、後ろから声をかけられた。
「サキ、ひさしぶり」
山田佐喜が笑顔で立っていた。
おとなしそうな穏やかそうな、どこにでもいそうなタイプ。
高校、大学と一緒だが、高一の時だけクラスが同じ、話したことは、あまりなかった。入学してすぐ再会し、今は、わりあい仲良くしている。やはり一人暮らしの佐喜の部屋に、一度だけ遊びに行ったことがあった。
「一人暮らし、どう」
「うん、快適。あ、サキの真似して、布団で寝てるんだ。あれ、いいね。部屋を広く使えて」
「だろ」
佐喜は、うれしそうだ。急な引っ越しでベッドがないと楽と気づき、佐喜の部屋で見た布団を思い出した。
「今度、遊びに行っていい」
「うん」
次の週末でも、と、いうことにして、ふたりは別れた。
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