第20話 不信感

【タイトル】

第20話 不信感


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2023-10-26 12:35:20(+09:00)


【公開日時】

2023-10-26 12:35:20(+09:00)


【更新日時】

2023-10-26 12:35:20(+09:00)


【文字数】

2,984文字


【本文(127行)】

「ローグ」


オレはローグを呼び止めた。ローグはくるりと振り返り、まるで少女のような無邪気な笑顔をオレに向けた。その表情は、ついさっきまで冷酷なまでの顔でサントスを射殺した女とは思えない。サイボーグの顔は本来表情の変化に乏しいはずなのに、ローグはまるで生身の人間のように表情豊かに見えた。


「なあ、サントスを殺す必要はあったのか?」


オレはローグに問いかけた。サントスの死体はまだ路地裏に横たわっている。彼の死は、この冷酷な世界ではただの小さな出来事に過ぎないのかもしれない。だが、オレにはどうしても、彼の死を簡単に受け入れることができなかった。


「ゼロ、甘いな」


ローグはオレの言葉を遮るように言った。その口調は、まるで子供を諭す母親のようだった。


「彼は、マルス帝国の敵だよ。殺して当然だ」


ローグの言葉は冷酷だった。だが、それは紛れもない事実だった。サントスはマルス帝国を転覆させようとしていた。彼は、多くの人々を危険にさらす存在だった。


「だが、まだ彼から聞き出せる情報はあったかもしれない」


オレは食い下がった。サントスは組織の重要なメンバーだった。彼を捕らえることができれば、組織の壊滅に大きく近づくことができるはずだ。


「そんなものは、もう必要ないわ」


ローグは冷たく言い放った。


「それに、彼を生かしておけば、私たちに危害を加える可能性もあった」


「そんなことはないだろう」


オレは反論した。サントスはすでに致命傷を負っている。もはや、反撃する力は残っていないはずだ。


「ゼロ、あなたはまだ、この世界のことを何もわかっていない」


ローグはオレに近づくと、オレの胸に手を当てた。その手は冷たく、まるで機械のようだった。だが、その目は、どこか悲しげだった。


「この世界は、あなたが思っているよりも、ずっと残酷な世界なのよ」


ローグの言葉は、オレの心に突き刺さった。オレは、ローグの言葉の意味を理解することができなかった。だが、ローグの目は、真剣だった。オレは、ローグの言葉を信じることにした。


「ローグ、君は本当に、冷酷な女だな」


オレはローグの瞳を見つめながら言った。ローグはわずかに眉をひそめ、そして静かに口を開いた。


「そうかしら?」


「私は、ただ、自分の任務を遂行しているだけよ」


ローグはそう言うと、オレの胸から手を離した。わずかな温もりが消え、再び冷酷な表情に戻っていく。


「ゼロ、あなたは、まだ、この世界のことを何もわかっていない」


ローグはそう言うと、オレを置き去りにして、部屋を出て行った。彼女の後ろ姿は、どこか寂しげに見えた。


オレは、ローグの言葉の意味を考え続けた。ローグは、この世界の残酷さを知っている。そして、その残酷さに立ち向かうために、冷酷にならざるを得なかった。


オレは、ローグの強さに憧れた。そして、ローグのような強い人間になりたいと思った。強くなることで、この残酷な世界で生き抜くことができる。強くなることで、大切な人を守ることができる。


オレは、ローグの後を追いかけた。


「ローグ、待ってくれ」


オレはローグに追いつくと、ローグの腕を掴んだ。ローグは驚いたように振り返り、オレの顔を見つめた。


「ローグ、私は、君のような強い人間になりたい」


ローグはオレの言葉に、一瞬だけ表情を和らげたように見えた。だが、すぐにいつもの冷徹な顔に戻り、オレに静かに語りかけた。


「ゼロ、あなたは、まだ、若い」


「若いからこそ、強くなりたいんだ」


オレはローグの言葉に、強い決意を込めて答えた。ローグは、少しだけ間を置いてから、再び口を開いた。


「強くなるということは、孤独になるということよ」


「それでも、私は、強くなりたい」


オレはローグの言葉にひるむことなく、力強く言い切った。ローグは、しばらくの間、オレの顔を見つめていた。その青い瞳は、オレの心の奥底まで見透かしているようだった。


「ゼロ、あなたは、本当に、強い人間になりたいのね」


「ああ」


オレは迷いなく答えた。ローグは、ゆっくりと頷くと、オレの手を取った。その手は、さっきよりも温かく感じられた。


「いいわ。私が、あなたを強くしてあげる」


ローグはそう言うと、オレの手を引いて歩き出した。


「さあ、行きましょう」


ローグはオレを連れて、部屋を出て行った。オレは、ローグの強さに惹かれていた。そして、ローグの優しさに救われていた。


オレは、ローグと一緒にいることで、強くなれるような気がした。ローグは、オレにとって、師であり、そして、かけがえのない存在になりつつあった。


二人が向かう先は、まだ見ぬ危険に満ちている。だが、オレはローグと共に、この残酷な世界を生き抜いていくことを決意した。

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