第5話 戦乱の惑星 5

黙々と食事を始めたが、ローグが放っておいてくれなかった。

オレはうるさいとは思わなかったが、少し邪魔だと思った事は確かだった。

ローグは意外に口の数が多い女性だった。

オレはこの時間を利用して、今後の作戦を立てたかったのだが、それはままならないと、諦めて、ローグの話し相手になることに決めた。


何か今後に役立つ事があるかもしれない。

そういった割り切りもあって、ローグの言葉に耳を傾けた。


「わたしは第160太陽系の136艦隊に居たの」

オレはあまり聞いた事のない太陽系の名前に、大した興味も湧かなかった。

ローグはさらに続けた。

「18ヶ月前にサンバラ帝国軍が侵攻してきて、激しい戦闘になり、敗退を余儀なくされたの」

オレは彼女の言葉の中に、ようやく興味の湧く単語を見つけ出して、眠気が起こる前に意識を集中する事が出来た。


サンバラ帝国、それはこの大戦の仕掛け人の一つである。

それにしても18ヶ月前ならば、もう、停戦協定が結ばれているはずである。

明らかな協定違反であるが、政治的な判断でもあったのか、それともローグの嘘なのだろうか。

彼女の声や態度から判断する事は難しかったので、ネットワークに接続している電子脳を駆使して、彼女の言った情報を元に、検索してみた。


確かにサンバラ帝国は、18ヶ月前に第160太陽系に侵攻軍を派遣していた。

帝国側の言い分として、侵攻軍は、停戦の事を知らなかったというのが、軍事行動に対する言い訳だった。

サンバラ帝国は、我が国のマルス帝国の抗議を受けつつも、その後も居座り続けているらしい。


こんな事件があったなんて、ニュースはチェックしているのだが、見落としていたなと、オレは思った。


オレはローグの方に、意識を戻した。

ローグは護衛艦隊の戦闘班のリーダーだったらしい。

今の時代、女性の戦闘指揮官などは珍しくも無かったが、それでもまだ、数は全体の30分の1にも満たない数である。


彼女の階級章を確認して驚いたが、自分と同じ大尉だった。

戦闘班のリーダーになるには准尉以上と決まっていたが、まさか階級が同一の位だったとは思わなかった。

それとともに、彼女の雰囲気から、上官であるかもしれないという懸念も浮かばなかった事から、階級章を確認するのを怠っていた事に気が付いて、自分のミスを反省した。


マルス帝国の階級章は、正装の時は左胸のところと、両肩に表示する事が決まっていた。

戦闘服や作業服の場合は、左胸のところだけ、階級章を縫い付けるようになっている。

軍の服装規定でそう決まっている。

自分で縫い付ける事も許されているので、恋人関係の女性隊員に縫い付けてもらう男達もいた。

オレは、脳の欠損も激しかったせいもあり、実は恋人がいたのかさえも憶えていない。

だから、前回の任務で昇進した時には、基地内のクリーニング屋で、階級章を縫い付けてもらった。


ローグとの会話は、久しぶりに楽しかった。

忘れてしまった恋人との再会でもしたみたいに、心が軽くなった。

初印象でうるさい女だと思っていたのも消し飛ぶくらい、重苦しい精神状態が軽くなっているのを、自分自身驚いている。

オレは食事に意識を戻しながらも、彼女との会話を楽しむ事にした。

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