第16話 捜索③
ホシが東京で見つかったという情報が入ってきてから四時間が経っている。日は沈み、時計の針は午後八時をみなに知らせていた。別件捜査で席を外していた白神一課長が、特捜本部に戻ってくる。入室するなりデスクにまで駆け寄ってきて、尾上管理官に状況を問うた。
「村越から連絡はあったか」
「まだなにもありませんね」
席に座している尾上が、首を横に振って答える。
「浅草近辺のホテルを片端から当たらせていますが、それらしい二人連れは見ていないと」
「警視庁は」
「同じく、連絡なしです」
村越の所属する捜査一課第二係及び特殊捜査班らで組織された二班は、ホシの目撃情報を聞きつけるや直ちに台東区へと飛んでいた。警視庁との協力もあり、ホシが今夜泊まりそうなビジネスホテルや旅館、漫画喫茶などあらゆる可能性を考慮し、さらに範囲を拡大してローラー作戦を実行中だった。
「今夜が山じゃないか」
白神がそうつぶやく。尾上も頷いて答えた。
「分かっています。そのときは」
「判断下せよ」
「分かっています」
判断というのは、公開捜査に踏み切るか否かの判断であった。メディアを通して、広くホシに関する情報を募ることが出来る反面、ホシを不用意に刺激してしまう可能性がある。女児の身の安全を最優先と考えると、公開捜査は諸刃の剣だった。デスクの面々にとっては、責任問題となりうる最も重要な判断事項だ。
ホシの足取りは未だ掴めず、有益な情報も乏しい。刻々と過ぎていく時間に、白神も尾上も、そして本部に詰めている他の捜査員たちも次第に焦りを感じ始めていた。
沈んだ空気の中、無線音が鳴り響いた。署長の大田原が無線を取り、返事をした。
「こちら特捜本部」
「警視庁本庁より特捜本部へ通達。たった今、ホシとおぼしき子連れの男を荒川区のホテルで発見したとの通報あり。至急、向かえる者を向かわせろ。場所は荒川区町屋四番二号、リンガルホテル正面入口の受付にて」
「四番二号リンガルホテル了解」
すぐさま無線を通して、東京へ飛んでいる二班へ同様の内容が伝えられた。ホテルでの聞き込みが効を奏した。白神が席に着き、腕を組む。尾上が両手をテーブルの上で結び、祈るように囁いた。
「これでいけてくれれば、いいんですが」
「待つしかないだろ」
本部に詰めていた捜査員たちもみな、デスクの周囲に群がり、次の報告をただ静かに待ち続けた。
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