第二十二章 魔女ルハーニ
第二十二章 魔女ルハーニ
マルラーリーばあさんの家は町外れの森の中。ニルマダの
小さな町の賑やかな大通りを歩いている時、ソーハンとモーハンが道すがら自己紹介をした。
「俺はソーハン。
ソーハンは
「そんな大それたもんじゃないだろう。ただ
横からモーハンが言った。ソーハンはモーハンをキッと
「俺はモーハン。
モーハンはそう言って自分の手をハルシャ王子に見せた。太くて短い指で、とても
「なあ、王子様ってお城で何してるんだ?」
ソーハンが尋ねた。
「いつも勉強している。語学とか、数学とか、科学とか、それに経済学と政治学も。」
ハルシャ王子は何気なく答えた。
「そんなに勉強してるのか。」
モーハンが
「そんなに勉強して一体将来何になるつもりなんだ?」
ソーハンがまた尋ねた。この質問にハルシャ王子は
「何だ、まだ決まってないのか。でも夢くらいあるだろう?俺の夢は
ソーハンが目を輝かせてそう言った。ソーハンは良く見るとハンサムだった。髪がくせっけで、
「俺の夢は自分の
モーハンの目も輝かせて言った。モーハンは良く見ると、若く見えた。一見するともう四十を過ぎているように見えるのだが、肌や髪がつやつやしていて、まだ二十台の若者だということを示していた。
「何だよじろじろ見て。」
モーハンが
「別に。」
ハルシャ王子はつんとした顔で言った。
それからしばらく歩いて町外れの森に入った。その頃には日が沈みかけて、
さらにしばらく歩くと、ソーハンが上の方を指して言った。
「ここだ。」
ソーハンの指の先には、とてもへんてこな家があった。とんがり屋根にジグザグ煙突、目玉のような窓。それが木の枝の上にちょこんと乗っていた。
「あれがマルラーリーばあさんの家だ。」
ソーハンが言った。ソーハンは家だと言いったが、ハルシャ王子には家には見えなかった。大きな鳥の
「これが家?」
ハルシャ王子はそうつぶやいていた。
「
モーハンがからかうように言った。ハルシャ王子はモーハンに
「おーい、ルハーニ!」
ソーハンが木の上の家に向かって大声で呼びかけた。ハルシャ王子はこんな変な家には変人が住んでいるに違いないと
「いないのか?」
モーハンがつぶやいた。その時背後から声がした。
「呼んだ?」
二人は驚いて後ろを振り返った。そこにはくすんだ
「ル、ルハーニ。」
ソーハンとモーハンが
「何か用?」
ルハーニが
「ちょっと聞きたいことがあって来たんだ。」
ソーハンが
「ルハーニはタール
モーハンが尋ねた。
「知らない。」
ルハーニがまた
「そうか。」
ソーハンは残念そうに言った。モーハンとハルシャ王子もがっかりした。
「でも、『どっちだの
「本当か?」
ソーハンはそう
「今の誰の声?」
ソーハンが
「わしじゃ。」
またさっきと同じ声がした。しわがれた年寄りの声だった。ソーハン、モーハン、ハルシャ王子はあたりを見渡した。
「ここじゃ。」
また声がした。三人ともどこから声がするかなんとなく見当がついた。ただ声の主があまりにも信じがたいものだったので、自分の耳がおかしくなったのではないかと疑った。三人ともルハーニの頭の上に乗っている亀を見つめた。
「そうじゃ。わしじゃ。」
亀はパクパクと口を動かしていた。どう見てもしゃべっているようにしか見えなかった。
「これは
ルハーニが手短に
「よろしく。」
クールマが
「
またどこからか別の声がした。
「しゃべった。」
ソーハンが声を
「そんなにしゃべる
クールマが言った。
「普通亀はしゃべらないぜ。」
モーハンが顔を
少しの間
「なあ、さっきの話なんだけど、タール
ソーハンはルハーニを見て話せば良いのか、亀を見て話せば良いのか、それとも蛇を見て話せば良いのか分からず、一人と二匹を見回した。答えてくれたのはルハーニだった。
「『どっちだの術』を使えば行けるよ。」
ルハーニがポツリとそう言った。
「どっちだの術?」
モーハンが聞き返した。
「ああ、行きたい場所の方向を知るための術じゃ。ルハーニはまだ子供だが、
クールマが
「マルラーリーの
シェーシャが
「なら、頼みたいことがあるんだ。こいつをタール
ソーハンがそう言ってハルシャ王子の背中を押し出した。ルハーニ、クールマ、シェーシャはさっきから黙って突っ立っている
「こいつはスターネーシヴァラ国のハルシャ王子なんだ。」
モーハンはルハーニたちに驚くことを期待しながら言った。
「スターネーシヴァラ国のハルシャ王子?というとあの
クールマが聞き返した。
「そうだ。そのラージャ王の弟だ。」
モーハンが満足そうに言った。
「あのラージャ王の弟はこんな
シェーシャが
「それで、ハルシャ王子はなぜタール
クールマが質問した。
「そこにアニルという
ハルシャ王子が自ら答えた。この質問は自分が答えるべきだと思った。
「スターネーシヴァラ国を救うためとな?」
「兄上はシャシャーンカ王の
だけどこのことを知っているのは僕と家庭教師のラーケーシュだけだ。そのラーケーシュも
だから僕がタール
ソーハンとモーハンは互いに顔を見合わせた。自体があまりも大事だった驚いたのだ。
「どうするルハーニ?」
クールマが頭の上から見下ろしながら尋ねた。ルハーニは
「道を案内するだけださ、ルハーニ。」
ソーハンが言った。
「そうだ。
モーハンが
「分かった。案内するよ。」
二人の押しが
「よく言ったルハーニ!」
ソーハンとモーハンが
「
クールマが頭の上から言った。
「ルハーニ、死んだマルラーリーも
シェーシャが
ハルシャ王子も何か言うべきかと口をパクパクさせたが、結局何も言葉が浮かばず、言うタイミングを逃してしまった。
「よし、じゃあ早速
ソーハンが言った。
「お前さんたちは自分の
クールマが尋ねた。
「ああ、俺たちは行かないから。」
ソーハンが
「仕事があるからな。」
モーハンも言った。
これに一番驚いたのはハルシャ王子だった。てっきり二人ともついてきてくれるものと思っていた。
「そんな!子供だけで行くのか!?」
ハルシャ王子が声を張り上げた。
「大丈夫さ。何たってルハーニは魔女だ。」
ソーハンが
「そうそう。」
モーハンもそれに同意した。ハルシャ王子が
「まあまあ、安心なされハルシャ王子。こう見えてもわしは
ハルシャ王子はクールマとシェーシャを見た。亀と蛇が立派な大人だとは思えなかった。ハルシャ王子はルハーニを見た。ルハーニもハルシャ王子を見た。ハルシャ王子はぼうっと自分を見ているルハーニの目から何も感情を読み取れなかった。ルハーニの方も同じだった。
翌朝、ハルシャ王子、ルハーニ、そして亀のクールマと蛇のシェーシャはニルマダの診療所の前で見送られて出発することになった。見送りに来てくれたのはソーハン、モーハン、ニルマダはもちろん、
「ルハーニ、本当に大丈夫か?」
ニルマダが心配そうに尋ねた。
「大丈夫。クールマとシェーシャもついているから。」
ルハーニが静かにそう言った。
「旅の間、
ニルマダはそう言って
「ありがとうございます。」
ルハーニはお礼を言った。
「すまんのう、ニルマダ。気を使わせて。」
今日はルハーニの
「気にしないでくれ、クールマ。私もマルラーリーばあさんによく
ニルマダはそう言った。それからハルシャ王子に向き直って、大きなリュックを差し出した。
「ハルシャ王子、中に水と食料、それからその他の必要なものが入っています。」
ハルシャ王子はリュックを受け取った。『ありがとう』という言葉が出て来なかった。人がこういう時にそう言うものだということは分かっていたのだが、実際に言ったことはなかった。リュックを受け取ったのにその場でもじもじしているハルシャ王子を見て、ニルマダにはハルシャ王子が何を考えているのか分かった。言葉にして出てこなくても、心がこもっている感謝の気持ちが伝わった。
「旅の間頼れるのはルハーニたちだけです。くれぐれも
ニルマダは少し
「ハルシャ王子、ルハーニ、気をつけてな。それからクールマとシェーシャも。」
ソーハンが言った。『クールマとシェーシャも』というところは声が上ずっていた。一日経ってもしゃべる亀と蛇には慣れなかった。
「本当はついて行ってやりたいんだが、店があるんだ。悪いな。」
モーハンがすまなそうに言った。ハルシャ王子もルハーニも首を横に振った。
「ルハーニ、そろそろ行こう。」
シェーシャが言った。シェーシャはルハーニのリュックの上に乗っかっていた。
「クールマとシェーシャは人目を引く。隠れていた方がいい。」
ニルマダが二匹に
「分かっている。町を出るまでは、リュックに隠れるから心配要らない。」
シェーシャが答えた。
「じゃあ、行って来ます。」
ルハーニが言った。
「行って来ます。」
ハルシャ王子も言った。ハルシャ王子の声には不安と感謝が入り混じっていた。
皆、ルハーニとハルシャ王子に手を振った。二人も皆に手を振った。さあ、旅の始まりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます