第8話 異種族の町
6 異種族の町
街はモンスターたちでにぎわっていて、ふつうに(俺からすれば普通じゃないが)お店などもあった。
「旅の思い出に1枚いかがっすかー! メモリアルカードだよ!」
大きなカメラをかまえた魔物がやたらと写真撮影をおしてきた。俺たちがここじゃ珍しいヒトだから、旅行者だとバレているんだろう。
その向こうに通りをひときわ目立つ存在があるいていた。モンスターの毛並みがあるが、どこか作り物のように見えて挙動もあやしい。
「なんか変なのいるワヌ」
そいつはこちらに気がつくと、すごい勢いで寄ってきて1枚のカードを見せ付けてきた。
「き、きみ! 人間だね?」
ひげを生やした男性がものすごい形相の顔をちかづけてくる。やはり着ぐるみで変装しているだけのようで、中身は人間だった。
「は、はい」
「この女の子を知っているかね」
カードの写真には女性の姿があって、彼とは父と娘ほどの年齢差があるようにおもえる。
知らないと答えると、彼は肩を落として、
「彼女は冒険士なんだが、じつはクリスタルのうわさをきいて出かけてから帰ってこなくてね。見つけたら教えてくれ! じゃあな少年!」
そう言って走り去る男。ああやって町中を駆け回っているのだろうか。
「あっちょっと! あんまりひとりでうろつかないほうがいいですよ!」
声をかけたが男はまったく立ち止まらなかった。みるみるうちに雑踏のなかに消えていく。
「だいじょうぶかな」
「この島には優秀な救助隊がいるからだいじょうぶだべよ」とヨッゾは言う。
と、そこに、
「おや、ヨッゾじゃないか」
かわいらしい不思議な生き物3匹組があらわれる。
「お、おつかれさん」
ヨッゾと知り合いらしい。3匹組のひとりのトカゲっぽいのが、こちらを見ておどろく。
「あれ? ヒトじゃないか」
「冒険士だそうだよ」とヨッゾ。
「じゃあクリスタルを?」
「はい」
「それは危ないなあ。あそこのダンジョンにいって帰らないヒトが後をたたないんだよ」
「そのひとたちのことも見つけ出したいんだ。なにか知らない?」
「実は僕らも探してる最中でね。あ、挨拶がおくれちゃったね。レディ!」
リーダーらしき存在の一声で、3匹組はポーズとセリフをキメる。
「力のケーダ!」
「勇気のマタカラ!」
「愛のリニオ!」
「われらナサイア防衛隊!」
おもわず、俺は真顔になってしまった。フォッシャとサナにはけっこうウケがよかったのか、彼女ふたりは拍手していた。
ヨッゾといいここの住民は独特のノリがある。自分のなかのモンスター像がくずれていく。
「えーっと……さっきおじさんと会って、ひとりで島をうろつこうとしてるみたいだから助けてあげてほしいんだけど、頼めるかい」
とりあえず用件を伝えておく。
「クリスタルと消えた冒険士たちのことは、僕らにまかせておいてよ。この島の平和をまもるのが僕らの仕事だからね。君たちまでダンジョンに入っちゃダメだからね」
ケーダはそう忠告してくれた。と言ってもそういうわけにもいかないのだが。
「ではこれにて失敬! われら、」
「力のケーダ!」
「勇気の……!」
「もういいもういい。ありがとう」
3匹組をおちつかせて、追い払うようにして別れる。
そこで切り替えてこれからどうするのか確認しあう。
「まず準備ワヌね」
「ああ。サナが必要なものは揃えてくれる」
「え!? 行くの!?」とヨッゾはおどろいていた。
「そのためにきたんだよ」
「で、でも」
「近くによるなとは言われてない。なにかわかるかもしれないし言ってみよう」
「強引だなあ」
「仕事だからな」
「ゆっくりしてけばいいのに。ここはたのしいよ」
「言ったろ。クリスタルだけじゃない、冒険士たちも見つけてやらないと。あまり悠長にかまえてられない」
「あ、そうだったね。……じゃあ、わても手伝うよ。この島のことは、エイトたちより詳しいし」
「そうしてくれるとありがたいよ」
「ところでそっちのお嬢さんは、何者なんだい? 変な感じがするんだけど……」
ヨッゾはサナにむかって言う。
「私はこうみえてこの島とはゆかりがあるんですよ」
「ほーん。なんかたしかに……会ったことあるかな?」
首をかしげるヨッゾ。ふたりのやりとりをきいている場合じゃないが、たしかにサナの素性が未だに謎なのはすこし気になる。
今まで依頼人の個人情報を知ろうとすることなんてなかった。必要なかったからだ。だがいつもとはなにもかもが違う。
どこかでたずねるチャンスを作っておかないとな。
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