11-4

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フランが言葉で噛みつくと、アルルカはぶんぶんと頭を振り、杖をくるりと回した。


「こんなまずい血、初めて飲んだわ。お口直しをしないと……」


アルルカは杖を顔の横に構えて、まるでライフル銃のような持ち方をした。なにしてるんだ、あいつ?


「メギバレット!」


ガキィーーン!一瞬のことで、何が起こったのか分からなかった。しかし、エラゼムが剣を振り上げて、何かを弾いたのはなんとか見えた。


「うっそでしょ!?あたしのメギバレットを見切ったの!?」


アルルカが驚愕しているところを見るに、やっぱりなにか攻撃を仕掛けてきていたようだ。


「ま、まぐれでたまたま弾けたかもしれないがのう。そう何度もうまくはいかぬわ!」


アルルカは再び杖を銃のように構えた。


「メギバレット!」


キィーーン!エラゼムは、今度は剣を捻るような動きをした。するとなぜか、アルルカの白い頬に、一筋の真っ赤な切り傷が現れた。


「え……な、なにが……」


「残念だが。まぐれでも偶然でもござらん。吾輩は今、貴様の放った弾丸を打ち返して見せたのだ」


アルルカは自分の頬をおさえて、信じられないと言う顔をした。そもそも俺は、弾丸が飛んできている事さえ気づけなかったのに。やはりエラゼムの技巧は、超人的だ。


「っ!だ、だったら!圧倒的力でねじ伏せるまでよおぉぉ!!!」


アルルカの声に余裕がなくなってきた。そろそろ本当の意味で、本気の攻撃が来そうだ。


「はああぁぁぁぁ……」


アルルカは頭の上で杖を両手で握りしめ、すさまじい集中を見せている。大技がくる……!しかしそれを見て、俺たちの高火力主砲、ライラもまた、呪文を唱え始めていた。


「オターリア、ハンマァァーーーー!!!」


バキバキバキバキ!アルルカの杖の先端に、キラキラ輝く氷の粒が凝着していく。彼女の握る杖を柄として、超巨大な氷の槌が作り出された。


「これで、潰れろおおおぉぉぉぉぉ!!!」


ブゥン!氷河のハンマーが振り下ろされる!その直前、ライラが呪文を唱え終えた。


「マッタブゥゥゥ……」


ギュイイイィィィィィ……凄まじい高温のエネルギーが、ライラの手の平に集中している。そしてライラは、振り下ろされる氷の槌にそれを放った。


「ビィーーーームッ!!!!!」


ズギュウウウゥゥゥゥ!赤熱する極太のレーザービームが、アルルカのハンマーを迎え撃つ。ビームは氷のハンマーの中を何度も反射し、ついにハンマー全体が真っ赤に染まった。

ボシュウウゥゥゥゥゥゥゥ!


「うわっ!」


生暖かい蒸気が部屋全体に広がる。氷のハンマーが熱で溶かされ、一瞬で蒸発したんだ。


「そ、そんな……あたしの、最大呪文が……」


もうもうと立ち込める蒸気の中、アルルカは呆然と自分の杖の先端を見つめていた。あれが、アルルカの最大の攻撃だったらしい。


「ッ!ウォール・オブ・レインディア!」


バキバキバキ!アルルカが素早く叫ぶと、俺たちとの間に巨大な氷の壁が出現した。くそ、まだやる気なのかよ!


「っ!まずいよ!あいつ、逃げる気だ!」


フランが鋭く叫ぶ。あ!部屋の上空に、一匹のコウモリが飛んでいる。コウモリはなりふり構わず、必死になって窓へと向かっていた。変身したのか?じゃああの壁は目くらましか!


「……ふっふっふ。空を飛べるのは、あなただけとお思いですか?」


だが、残念だったな。そう、俺たちの頭上には、唯一空を飛べるゴースト、ウィルが待ち構えていた。


「くらってください!ライラさんとの練習成果!トリコ、デルマ!」


ブワー!真っ赤な粒子が、部屋の天井付近にまき散らされる。コウモリは、そのど真ん中に突っ込んだ。


「ぐぎっ!?う、ぎゃあぁぁぁあ!」


コウモリは激しく身もだえると、その翼が大きく広がり、そしてぼろぼろのマントになって落っこちてきた。ドサ!人の姿になったアルルカが落っこちると、氷の壁は粉々に砕けてしまった。俺たちがそばに近寄っても、アルルカはまだ身もだえている。よく見ると真っ白な肌が、あちこち赤く焼けただれていた。ウィルの放ったあの赤い粉は、すさまじい高温らしい。


「う、ぐぅ……く、っそぉ……!」


アルルカは震える手で杖をつかむと、再び狙撃の構えを取ろうとした。だが、もう遅れは取らない。俺は即座に右手を構え、最小限の威力で唱えた。


「ソウル・カノン!」


ドン!放たれた魔力の塊は、アルルカを直撃する。


「きゃあああああぁぁぁぁ!」


アルルカは悲鳴とともにすさまじい勢いでぶっ飛び、階段を逆に転がり上がって、一面に張られた窓ガラスにしたたかに打ち付けられた。最小限でこれだもんな……アンデッド相手だと、相変わらずものすごい威力だ。

ピシピシピシ……バリーン!轟音と共に、窓が砕け散る。アルルカがぶつかった衝撃で、破れてしまったらしい。


「あ、まずい。下に落ちたか?」


俺たちは確認のため、急いで階段を駆け上った。幸いにして、アルルカは窓のフレームに激突していた。粉々のガラスにまみれて、弱弱しくうめいている。しかし、すごい生命力だ。さっきウィルにやられた火傷が、もう治ってきている。ぐずぐずしてると、すぐに元気を取り戻すかもしれないな。


「っ、そうだ!リンは?」


「いますよ、ここに」


ウィルが、床に横たわるリンのそばにかがんでいた。よかった、上層にいたおかげで、戦いに巻き込まれずに済んだみたいだ。


「気絶してしまっているようです。かなりショックを受けていたようですから……」


「そうか……だったら、寝かせといてやろう。その間に、こっちを片付けないとな」


俺はガラスをチャリチャリ踏みしめ、倒れるアルルカのそばに立った。


「フラン、エラゼム。暴れられるといけないから、こいつを押さえつけてくれるか?」


二人はうなずくと、ぐったり倒れるアルルカの両腕をつかみ、上半身をそらせる形で起き上がらせた。


「う、ぐ……」


体を起こされ、アルルカがうめき声をあげる。


「あんた、たち……いったい、なにもの……?」


「俺たちは、アンデッドとネクロマンサーだ」


「ネクロ、マンサー……?」


「そうだ。俺が術者で、みんなはアンデッド。俺の能力で、仲間になってもらったんだ。そして、今からお前もそうなる」


「は……?」


アルルカは、何言ってんだコイツという顔をした。俺は今まで、アンデッドを無理やり仲間にしたいとは思ってこなかった。経緯はいろいろあれど、最後には本人に納得してもらってからじゃないと、本当の意味で仲間になれないと思ったからだ。だけど、今回は違う。本人の意思は関係ない。俺の能力を、“使役”に使うのだ。


「俺の能力で、お前を俺に従わせる。お前を放っておいたら、何をしでかすかわからないからな」


「ば……バカなこと言わないで。たかだか死霊術なんかで、ヴァンパイアであるこのあたしを使役できるわけないでしょ……」


「さあな。実際に試してみればわかることだ」


俺は再び右手の袖をまくり上げる。するとアルルカの顔に、はっきりと怯えの色が走った。


「ま……まって!むだよ、試すだけムダ!やめて、やめなさい!」


「駄目だ。悪いけど、お前の意思は関係ない。これは、俺が決めたことだから」


「ふ、ふざけんな!誰がお前なんかのしもべになんか!あたしは、高潔なるアルルカ・ミル・マルク・シュタイアーだぞ!お前たち下等な人間なんか、あたしに血をささげるためだけに……」


俺はわめくアルルカを無視して、呪文の詠唱を開始した。


「我が手に掲げしは、魂の灯火カロン……」


「ね、ねえ!ちょっと待ってよ!いやよ、放して!放しなさいったら!」


アルルカはもがくが、フランとエラゼムは力を緩めない。


「汝の悔恨を、我が命運に託せ。対価は我が魂……」


「わ、わかった!もうこんなことはやめるわ!ね?毎月血を吸うだけで我慢する!それだったらいいでしょ!?ねえ、ねえったら!やめてよ、やめろ!」


俺はわめき散らすアルルカの胸の真ん中――すなわち、魂の上に右手を重ねた。


「響け」


「やだぁ!やだやだヤダやだヤダやだや、」


「ディストーション・ハンド!」


「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ……」




つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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