6-1 燃える王都

6-1 燃える王都


「……あ!見えたぞ、あれ、王都じゃないか!?」


俺ははるか前方を指さした。荒野の端っこに、ほんのりと赤く光る町のシルエットが、夜空の下で浮かび上がっている。エラゼムが背中越しにうなずくのが分かった。


「おそらくそのようです!しかし、戦局はあまり芳しくないようですな。ここまで火の手が見えます!」


「どうしよう、もう陥落してたりするかな!?」


「まだわかりません!もう少し近づきましたら、様子を探ってみましょう!」


俺たちは疾風のように走る魔法の馬に乗りながら、大声で会話した。こうでもしないと、風のうなりにかき消されちまうんだ。それからもう少し走ったところで、エラゼムは馬をいったん止めた。


「桜下殿。アニ殿に頼んで、遠視魔法で王都の周りを見ることはできますでしょうか?」


「なるほど。アニ、頼めるか?」


『承知しました』


ガラスの鈴が呪文を唱えると、すぐに俺の視界が、鳥になったようにふわりと浮かび上がった。王都には一度だけ行ったことがあるので、かろうじて外郭くらいなら遠視することができる。


「よし。城壁に近づいて行ってみよう」


俺がそう口に出すと、魔法で飛んだ視界も、王都のほうへぐんぐん進みだした。やがて、王都を囲む城壁の様子が見えてくる。


「うわ、門が壊されちゃってるぞ。それに、兵隊がいっぱいいる……」


『どうやら、城門を破られてしまったようですね。その兵士たちは、おそらく敵軍でしょう。主様、ほかの門の状況も見れますか?』


「わかった」


俺は視界を動かして、城壁の周りをぐるっと回った。ほかの門も似たような状況で、敵の姿のない所は一つもなかった。


「ひどいな。完全に包囲されてるよ」


魔法を解いて元の視界に戻ってくると、俺はみんなに王都の状況を説明した。


「城壁が破られたとなると、なかの城下町は悲惨でありましょうな……」


エラゼムが重苦しい声を出す。


「桜下さん、町の様子は見えなかったんですか……?」


ウィルが不安そうな声で質問する。聞きたいような、聞きたくないような声色だ。


「町の中は見えなかったんだ。俺、城下町はほとんど見たことなくてさ。あの魔法、俺が見たことがない場所は見れないんだ」


「そうですか……」


ウィルは凄惨な町の様子を聞かされなくて、少しほっとしたようだったが、それで解決にはならない。


「で、どうするの。町のなかに入る気?」


フランが単刀直入にたずねる。


「そうだな……やっぱり、中に入らないと、詳しい様子はわからないだろうな」


「でも、壁の向こうには敵がうじゃうじゃいるんだよ?そこに入っていったら、火に飛び込む虫と同じだ」


「うん……そもそも、入り口が全部敵に固められてる。あいつらをどかさないと、中に入ることすら叶わないぜ」


フランたちの力なら、門の前の敵くらいなら簡単にぶっ飛ばせるとは思う。けどそんなことしたら、玄関をぶっ壊して家に忍び込むようなもんだろう。当然ほかの敵にも気づかれるだろうし、そしたらそれこそ袋叩きだ。


「じゃあ、ライラがトンネルを掘ったげよっか?」


ライラが指をくるくる回して案を出す。


「すごいなライラ、そんなことできるのか?」


「ライラは大まほーつかいだからね。それくらいアサメシマエだよ」


しかし、それを否定したのはアニだった。


『いいえ、それは不可能です』


「え?なんでだよ、アニ?」


『王都の城壁は、地下深くまで続いているのです。あれだけの重量ですから、当然基礎工事も深いのですよ。それより下に潜ろうとなると、モグラが千匹集まっても無理でしょう』


「むっ……ライラ、モグラよりすごいんですけど?」


ライラが頬を膨らませる。が、アニはにべもなく切り捨てた。


『では、あなたはマウルヴルフの魔法を、百回連続で撃てますか?』


「え……ひゃ、っかい?」


『それでようやく片道キップです。地上に出るためには、もう百回撃たねばならないので、合計二百回ですかね。大魔法使いのあなたならば、それくらいは余裕でしょうか?』


「う……そ、れくらい、なら……」


『ああでも、地下では地盤が固くなるので、効果量も減ってくるかもしれません。となると、さらに倍の四百回は撃たなければ』


「……」


ライラが涙目になってきた。俺がライラの頭をぽんぽんとなでると、ライラは無言で俺の腰に抱き着いてきた。相手が悪かったな、うん。


「アニ?そんだけライラをいじめるってことは、何かほかに案があるってことだよな?」


『ええ。代替案もないのに、他人をこき下ろすような真似はしませんよ。実はこの近くに、王都の地下へと続く抜け道があるのです』


「え?そんなのがあるのかよ?」


『王家が緊急時にのみ使う、超極秘の地下道です。その存在を知る者は国のトップのみで、秘密を洩らせば極刑もあり得ます』


「……俺、今知っちゃったんだけど」


『今は緊急時なので、問題ないでしょう。光で案内しますので、ついてきてください』




つづく

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【年末年始は小説を!投稿量をいつもの2倍に!】



年の瀬に差し掛かり、物語も佳境です!

もっとお楽しみいただけるよう、しばらくの間、小説の更新を毎日二回、

【夜0時】と【お昼12時】にさせていただきます。

寒い冬の夜のお供に、どうぞよろしくお願いします!


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