7-1 オークの襲撃

7-1 オークの襲撃


「焦げ臭い」


フランが見えないにおいを辿るようにしながら言った。


「村のほうだ」


俺は昼間も、フランが焚き火を嗅ぎ当てたことを思い出した。ってことは、今回もおそらくそうなんだろう。


「村で……なにか起こってるのか?」


気になる。しかし、ライラのほうがもっと気になる。こんなチャンス、もう二度とないかもしれない。今なら、彼女の真相がわかるかもしれないんだ。


「私が様子を見てきます」


ウィルが宙に浮かび上がりながら言った。


「私ならひとっ飛びして、そんなに時間もかかりませんから」


「おお、ナイスだウィル!頼んでいいか?」


「任されました!」


ウィルは敬礼すると、ビューンと森の木々の向こうに飛んで行った。


「よし……向こうはウィルに任せるとして、今はこっちだな。エラゼム、まずはその子の縄をほどいてやってくれるか?」


『主様、いけません!』


「桜下殿、よろしいので?」


「うん。アニもわかってくれよ、この子はどう見ても普通のモンスターじゃない。こんな脅すような形じゃ、話を聞くどころじゃないだろ?」


『しかし……はぁ、分かりました。くれぐれも、十分注意してくださいよ』


「分かったよ、ありがとな。それじゃあエラゼム、頼む」


エラゼムはうなずくと、ゆっくりと革ひもをほどいた。ライラは自由になってからもしばらく、手首をさすって、俺たちの様子をうかがっていた。


「あー……ライラ?手荒なことして悪かったけど、先に仕掛けてきたのはそっちなんだから、ここはおあいこってことで手を打ってだな……」


ライラは最後まで話を聞かなかった。猛然と立ち上がると、エラゼムのそばを離れ、ダダダッと俺の背中に隠れてしまった。


「わっ、ライラ?エラゼムだって悪気があったわけじゃ……あ。あの鎧のおじさんはエラゼムっていって……」


「こっ……こわっ、怖かった」


俺の背後から、か細い震え声が聞こえてくる。


「ちょっと!その人から離れて!」


フランが露骨に剣幕を見せながらライラに詰め寄ると、ライラはますます俺の服をきつく握りしめた。ちょ、ちょっと苦しい……


「ふ、フラン、大目に見てやってくれよ……ライラ、とりあえず俺たちの話を聞いてくれないか?」


「……もう、怖いことしない?」


「分かった、約束する。その代わり、お前ももう俺たちを攻撃するなよ」


ライラは俺の服を離すと、こくりとうなずいた。


「よし。じゃあまず、俺たちのことから話すけど。俺は桜下っていうんだ。俺たちはある人の頼みで、赤い髪の、ライラっていう女の子を探している。その子はお兄さんとお母さんの三人家族だって聞いたんだけど、きみで間違いないかな?」


「うん……そう、だと思う」


「じゃ、本当にきみか……けど、それだとおかしいな。その子は俺と同い年くらいだって聞いてたんだけど。きみはどう見ても……」


「む……ライラはこどもじゃないよ!いっぱい魔法が使える、大まほーつかい、なんだから……」


ライラはいばったつもりなんだろうが、まだエラゼムがこちらを見ているので、最後の方は消え入るように尻すぼみになった。


「んー、大魔法使いねぇ。なぁ、けどきみは……あー、気を悪くしたら謝るけど。その、どう見ても普通の人間には見えないぜ?」


「う……ライラは……人間だもん」


「まぁ、露骨なモンスターには見えないかもな。けど、その黒い手足。それに、きみは人の死体を食えるんだろ?きみが人間だっていうなら、どうしてそうなっちまったんだ?」


「それは……」


ライラはうつむいて、口をつぐんでしまった。さすがに俺も、この子が普通の人間です、を信じる気にはなれない。何らかのモンスターに変異してしまっているとして、問題は、それが何なのかだ。さっきも思ったけど、人間がグールになるなんてあるのか?それともフランたちみたいに、もっと別のモンスターなのか……?

それに俺は、さっきからある一つの懸念を抱いてもいた。ありえない予想だとは思うのだが……

俺が質問を変えようかと口を開きかけたその時、ウィルが血相を変えて空から舞い降りてきた。


「お、桜下さん!大変なことになってます!」


「ウィル。何があったんだ?」


「スラムがモンスターに襲われています!オークです!炭鉱跡から、ものすごい数のオークが押し寄せてきて……」


オークだって?確か、ミシェルから聞いた、炭鉱に住み着いているモンスターだ。そいつらが地上に出てきたってことか?


「スラムからすごい火の手があがっています。大勢の人たちが取り残されていて、あのままじゃみんな……」


ウィルが真っ青な顔でふらりとよろめく。俺はとっさに肩を抱いて支えると、フランとエラゼムに振り返った。


「みんな。聞いたからには、ほっとけない。スラムの人たちを助けに行こう」


「わかった」「承知しました」


俺は呆けているライラにも声をかけた。


「ライラ。村の人たちが危険な状況にいるらしい。俺たちは行って、その人たちの助けをしてくる」


「村って、旧市街?火が出てるの?」


「みたいだな。ライラ、もしよかったら、もう一度ここで会いたい。きみのことを探してる友達についてももう少し話したいし。俺たち、またここに戻ってくるからさ」


「またここに……」


「考えといてくれよ。じゃあ、俺たちは行くな。ウィル、案内してくれ!」


「わかりました。こっちです!」


俺たちはウィルを先頭に、暗い森を走り出した。後にはライラだけが、人気のない墓地にぽつんと残された。



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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