2-1 魂砲《ソウル・カノン》

2-1 魂砲ソウル・カノン


やみ……」


『勇者の能力も、広域的には魔法の一つです。そういう意味では魔法を使えると言えますが、通常の魔法の習得は相応に難しいと思われます』


「なんだぁ……じゃ、結局俺は何の技もなしのままってことかよ。ちぇっ」


『技……そうですね、そろそろ必殺技の一つでもほしくなるタイミングですよね』


「お!そうなんだよ。どうせなら魔法がよかったんだけど……」


『ふむ。魔法とは少し違うかもしれませんが、魔力を応用して攻撃技に転用できるかもしれません。名付けて“魂砲ソウル・カノン”』


「ソウルカノンっ!?なにそれかっこいいっ!」


『そうでしょう。主様の魂の霊波を、魔力に乗せて放つ技です。これなら主様でも使いこなせるかと』


「それで!どうやってやるんだ、その技は!?なんだよ、そういうのは早く教えてくれよ!」


『魔力の扱いは感覚的なところが多いので、実際にやってみたほうが早いでしょう。そうですね……ディストーションハンドを使う際、それを右手にとどめて放つイメージでしょうか』


「なるほど……?ま、とりあえずやってみっか。習うより慣れろだ」


やったぜ、念願の必殺技だ!名前の語感的に飛び道具だろうな。気功波みたいな感じだろうか?俺は意気揚々と右手の袖をまくり上げると、手を突き出して意識を集中した。ディストーションハンドを使うときの感覚だな


(……っていっても、俺、何か意識したことあったっけ?)


呪文を唱えれば勝手に発動するし、これと言ってコツがいるわけでも……と、とりあえず難しいことは後だ。まずは実践!アニもそういってたし。

改めて右手に集中。魂みたいな、もやもやしたエネルギーが集まっていくようなイメージで……するとあっという間に、右手の手のひらに桜色のかたまりが浮かび上がった。これが、魔力か?


「……できたぞ?」


『はい。あとは込める魔力量で威力を調整して、放てばよいだけです』


「は、はは。なんだ、意外と簡単だな。けどネクロマンスの能力もこんなもんだった」


能力ってのも案外、手足の延長線上なのかもしれない。つまり、自分の意志である程度自由に動かせる。


「よっし!なら試し打ちをしてみよう!威力を確かめてみないと、実戦で使いこなせないからな!」


『あ、主様。それなんですが』


「わかってるって!きちんと安全には配慮するよ。とんでもない威力だったら困るもんな」


『いや、そうではなく……』


「というわけで、フラン、ウィル!」


俺はとなりで話を聞いていたウィルと、遠巻きにこちらを見ているフランに向き直った。


「ちょっと身を隠しててくれ。そうだな……あ、そこの岩陰にでも」


ちょうど手ごろな大きさの岩があった。俺がそこを指さすと、ウィルは首を傾げた。


「ええ?そんなに警戒する必要ありますか?」


「あたりまえだろ!なんたって、元勇者の必殺技なんだぞ。すさまじい破壊力だったらどうする」


「ど、どんな技を想像してるんですか。それに私たちはアンデッドですし、別に危険なことは」


「ダメだ。俺はネクロマンサーだぞ?その技がアンデッドに影響を及ぼさないとは限らない。それに、仲間に万が一があったら最悪だ」


「は、はあ。そこまで言うなら……フランさん、付き合ってあげましょうか」


「……はぁ、しかたないな」


ウィルとフランは岩の陰に身を隠した。若干わがままを言う子ども扱いされた気もしたが、気にしない。


「ようし、始めるぞ……!」


俺は離れたところにポツンと生えている、一本の木を標的に定めた。お前に恨みはないが、実験台になってもらうぜ……


「標的確認!出力上昇!」


右手に込める意識を強める。桜色の魔力の塊は、さらに大きくなった。だが、あまり飛ばしすぎてほんとにエライことになっても怖い。これくらいに留めておくか。


「いくぞ!ソウル・カノンッ!!」


ドン!俺が打ち出すイメージをすると同時に、魔力が弾き出された!魔力の塊はまっすぐに木に向かって飛んでいく。よし、狙いバッチリだ!


「いっけー!」


そして、木に直撃した!


さわさわぁ……


「……え?」


魔力の塊は、確かに木に命中した。しかし、何も起こらない。いや、確かにリアクションはあった。木は、むずがゆいとでもいうように、さわさわと枝葉を揺らした。そう、まるでそよ風にでも吹かれたかのように……その揺れで、木の葉が一枚だけ枝を離れ、ひらひらと地面に舞い落ちた……


「……………………」


俺は、呆然としていた。木の葉一枚?俺の必殺技の威力が、はっぱ一枚分?


「……ぷっ」


「あ、フランさん。くく、笑っちゃだめですよ。桜下さんが悲しみます……ぷふふっ」


「だ、だって。こんなに注意したのに、ぜんぜん意味な……」


…………。


「……お前ら」


「ふふふっ、え?」


「……お前ら、冥土の土産は何がいい?」


「くひひっ、はい?」


「……今から冥土に送ってやるって言ってるんだよー!」


「きゃああ!?桜下さん、それ逆切れっていうんですよ!?」


「うっせ!」


「だいたいわたしたち、なにもしてないし。隠れてただけで……ぷぷぷっ」


「ああああー!笑ったなぁー!」


俺はブンブン腕を振り回して、笑いをこらえる二人を追いかける。ここに、人間VS幽霊・ゾンビ連合の、壮絶な鬼ごっこの火蓋が落とされた。人間の相手は疲れを知らないゾンビと、空を飛べるゴースト。勝敗の行方は……火を見るよりも、明らかだった。



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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