第35話 収束



 その後僕たちは数カ月レーグル王国に滞在した。

 今のレーグル王国は、人手が足りず猫の手でも借りたい現状だということ。

 まだ、みんなの体調が万全ではないこと。今外に出ることは危険だということ。


 だから今はレーグル王国で力を尽くす。

 そういったディグニは一刻も早くモーヴェ王国に戻りたい感じだった。

 クラフト、シェーンも。ツァールさえも。






「ビス様、おはようございます。」


「ビス様今日も精が出ますね。」


「あっ、ビスだ。一緒に遊ぼうよ。」


「おう、坊主。これ食ってけ!」



 僕はレーグル国民に英雄扱いされていた。

 国民の何人かが僕とタドの戦いを見ていたらしい。

 そしてそれが広まった。その言葉が僕を考え込ませる。



 僕は魔法で瓦礫を片付け始めた。



「精が出るな。ビス君。いつもありがとう。」



 ツァールがやってきた。



「ううん。やることもないし。大した事じゃないよ。」



 物を治すのは簡単で楽だった。



「そんなことはない。

 ビス君のおかげで当初の予定より大幅に早く進んでいるよ。」



 そんなことを言ってくれるツァールは人一倍疲れているように見えた。

 午前中は見えていなかったが、隈が薄っすら見えている。

 おそらく化粧でもして隠していたんだろう。



「そうならいいんだけど。

 それより、ツァール休んだ方がいいんじゃない。

 隈見えてきてるよ。」



「休んではいられないよ。いつまた敵に襲われるかわからない。

 それに、これ以上国民を危ない目に合わせるわけにはいかない。


 まあ、あんな痴態をさらしたんだ。

 国民の疑心を取り払うのはまだまだかかりそうだけどね。


 でも、これでよかったとも思ってるよ。

 ・・・失った代償は大きかったけどね。・・・もうし」



「やめてよ。謝らないで。ツァールのせいじゃないよ。

 それに、ツァールはもう軽々しく謝っちゃいけないと思うよ。」



「・・・そうだな。いや、参ったな。そろそろいかなくては。

 ビス君、適度に休憩をとるんだぞ。」



 そう言ってツァールは城の方に戻っていった。






 ディグニとクラフトも王国の復興に尽力していた。

 クラフトは僕と同じように瓦礫運びなど力仕事を

 率先してやるものだと思ったが違った。


 ツァールに着いて仕事を手伝っている。

 それにクラフトは勉強もしているようだった。


 ツァールのお付きとして、右腕になるべく頑張っているみたい。

 まあ、中身は全然変わんないんだけど。



「おう、ビス。今日も元気か‼」





 ディグニは、目立たないように行動していた。

 みんなの輪から離れて仕事をしている。

 それに国民の前だとディグニは僕を避けた。

 ある日ディグニに理由を聞くとこう答えてくれた。



「俺とビスが一緒にいるところをあまり国民に見せない方がいい。

 俺は前王を殺した男だ。国民にあらぬ疑心を持たせてしまうかもしれない。」



 僕は理解した。ディグニの行動に合わせようと思う。





 シェーンは、変わらずだった。本に没頭している。

 何を勉強しているのか聞いても教えてくれない。



「ねえ、シェーン何をそんなに勉強しているの?」



「教えないわ。これは私が絶対に探しだして見せる。絶対に。

 そうだ、今度魔法使うところ見せてね。」



「えー。教えてくれないのに?」



 シェーンが僕の目をジーと見て顔を近づけてくる。



「魔法を教えてあげたの誰だっけ?」



「わ、わかった。見せればいいんでしょう。見せれば。」



「わかればよろしい。」



 それに、剣術の稽古にも力を入れていた。

ディグニやクラフトの空いている時間稽古を頼んでいた。

僕も相手をした。最初の頃はコテンパンにやられた。全然歯が立たなかった。



 ただ、僕が倒れても、倒れても軽口をいってこなかった。

今はそれよりもマシにはなっていると思うけど。

僕は尻もちを突いてしまう。そして目の前に剣先が付き突き付けられる。



「うわっ。」



「またあなたの負けね。ほら。」



 シェーンはレイピアを仕舞い、手を差し出してくる。

僕はシェーンの胸元に目をやった。

そこには僕があげたネックレスをしていて、飾りが一つ増えていた。同じ飾りが。




「ビス、どこ見てんのよ‼」



 パシーン‼



「痛ってー‼」







 みんな大なり小なり変わった。

それが良いことなのか悪いことなのかはわからない。


確実に進んでいる。後戻りはできない。

前に進むしか、もう道は残されてない。




変われない人を置き去りにして。

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