第32話 最悪の出会い

 僕の考えは外れていた。

 シェーンはクラフトのところで別れた時と姿は変わっていなかった。

 シェーンが悲鳴をあげたのは別の理由だった。



「ディグニが、ディグニが・・・」



 シェーンが僕の服の裾を掴んで言う。そこには血だらけのディグニがいた。

 バケツいっぱいの血をぶっかけられたみたいに。


 ディグニの血が地面に小さな池を作り出していた。

 ディグニは僕たちが見えないみたいで相対している男を見据えていた。



「シェーン様の次はビス様ですか。

 せっかく留めを刺すところだったのに、悉く邪魔をされますね。」



 シェーンを先に行かせたのは正解だったみたいだ。

 それより、なぜあの男は僕の名前を知っているのか。



「ああ、すいません。申し遅れました。

 私はフィロ様にお仕えしていたタドと申します。以後お見知りおきを。」



「ビス。しっかりして。ディグニが危ないのよ。」



 僕は現実逃避してしまっていたらしい。



「おっと、お二人とも動かないでくださいね。

 間違ってディグニ様を殺してしまいます。」



 足を動かそうとした瞬間言われ慌てて足を止める。



「そうです。それでいいんです。」



 グサッ



「っ‼」



「動かなかったら殺さないって、いったじゃないか‼」



「殺してはいないですよ。

 ただ、何度も何度も立ち上がってくるので、さすがに疲れたのでね。

 気を失ってもらうにはここまでしなければいけなかったんです。」



 タドが何かディグニに魔法をかけようとしている。



「なにをする気なんだ。止めろ‼」



「せっかちですね。治すんですよ。ヒール」



 ディグニの体が光り出した。こいつ何を考えているんだ。

 自分で傷つけて自分で傷を治している。怖い、単純にそう感じた。



「こっちの方が面白いと思いまして・・・」



 何を言っているんだ?次の瞬間ディグニの体が宙に浮いた。



「これで良し。あとはあなたたちを殺しているところを

 ディグニ様に見せて完成です。想像するだけで興奮します。

 さすがにこれでたち上がってこないでしょう。」



 壊れている。フィロ以上に。いや、フィロとは別物だ。

 フィロには嫌悪感が湧いた。でもタドには湧かない。ただ、恐怖があるだけだ。



 なぜなら、タドのことがわかることさえできないから。思考が。行動が。

 フィロには理解は出来なかったが、わかることはできた。それゆえの嫌悪だ。



「ただ、さすがにディグニ様を相手にするのは疲れましたので、

 こいつらに相手をさせます。」



 無数のヴォルフがこっちに向かってくる。



「シェーン動かないでね。デファンス。」



 僕は防御壁を張った。ドンッ。ドンッとぶつかる音がする。

 僕が魔法で電気を防御壁に纏わせ何匹か倒れる。

 そしてウロウロし始めてしばらく様子を見たら、岩を放ってくる。


 僕はこの光景を一度見たことがある。

 この後は、血を噴き出し、塵になって消滅する。



 予想通りだ。



「あれはお前がやらせていたのか。」



 自然と僕の口がそう言っていた。



「あれとは?ああ、プロウバの森のことですか。

 そうですよ。それがどうかしましたか?」



「ヴォルフたちがああなることがわかっていて魔法を使わせているのか‼」



「そうですが。それがどうだと言うんです。ヴォルフは捨てるほどいます。

 別にいいでしょう。それにあなたたちもここに来る途中何匹も殺していますよね。

 それと何が違うんですか。」



 僕は声がでなかった。感覚的にはわかるがうまく言葉が出てこない。

 それにみかねたのかシェーンが代わりに行ってくれた。



「違う。うまくいえないけど、違うわよ。」



「話になりませんね。ヴォルフ何をやっているのです。さっさと倒しなさい。」



 ヴォルフたちの攻撃が激しくなる。

 さすがに数も多すぎるため、防御壁が持ちそうにない。



「ビス。防御壁解いてもいいわよ。私も戦えるわ。」



 僕は一瞬考えたが、シェーンの言う通りにするのがいいと判断した。

 防御壁を張ったままだと僕しか攻撃できない。

 このままだと、魔力が減る一方だ。魔力が多くてもなくなることはある。

 できるだけ温存しておかないとあいつには敵わないはずだ。


 二人で戦った方がいい。



「そう、だね。ヴォルフたちの攻撃が防御壁にあたった瞬間に解くよ。」



「わかったわ。」



 ヴォルフの魔法が放たれる。



 バアン‼バアン‼バアン‼バアン‼


「今だ。行くよ。シェーン。」



「ええ。」




 僕は防御壁を解いた。

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