第22話 気晴らし


 僕は部屋に入って時間を潰していた。




 バァン‼




 いきなり大きい音が聞こえてきた。驚いて僕は扉の前まで行く。

 すると、こっちの方に近づいてくる足音が聞こえてくる。





 ドッドッドッドッ




 開けるのが怖くて扉の前で立ち尽くしていると、

 バァンと扉が鼻先すれすれを通っていく。



「うわっ‼」



「あら、そこにいたの。ごめんなさい。」



 足音の主はシェーンだった。



「シェーン、危ないじゃないか。」



「だって、扉の前にいるなんて思わないじゃない。それより出かけるわよ。」



「えっ。何で・・・」



 僕の言葉を聞かずに腕を引っ張ってくる。



「何も言わないで、私に付き合って。」



「わ、わかったから。腕引っ張らないで。いたい」



 それでも、シェーンは腕を離してくれなかった。






 街に着いてやっと腕を離された。僕の腕にはシェーンの手形の跡がついている。



「もう、離してって言ったのに。」



「ごめんなさいね。こうでもしないとあなたが

 ・・・いえ何でもないわ。行くわよ。」



“ぐぅううう”



 僕のお腹の虫が暴れ出した。



「そういえば昼食食べてなかったわね。」



 そういうと、シェーンは周りをキョロキョロする。



「あっ。あれ、何てどうかしら。」



 僕の答えを待たずに視線の先に向かっていった。



「ちょっと、待ってよー。」







 そこには屋台があった。いい匂いがしてくる。



「お兄さん、これ何?」



 明らかに呼び名より年取った人にお兄さんと言っている。



「あはは。嬢ちゃん、口がうまいな。

 これはな、”たこ焼き”って言ってな、遠い国から伝わった食べ物なんだ。

 この生地のなかに、タコを入れるんだ。」



 お兄さんは、なんだかウネウネ動く物体を取り出した。き、気持ち悪い。



「タコを小さく切ったやつがこれだ。

 あとは、これとこれを入れて、気泡が出てきたらひっくり返してっと。」



「「うわー‼」」



 シェーンと感嘆が重なってしまった。



 おにいさんが作っている”たこ焼き”はまん丸になっていた。




「ほれ、できた。これはサービスだ。」



「いいの⁉」



「ああ、姉弟で仲良く食べてくれ‼」



 お兄さんには僕たちは姉弟に見えるらしい。



「お兄さん、ち・・・」



 違うことを伝えようとすると、シェーンに口を塞がれる。



「ありがとう!ほら、行くわよ。ビス。」



 足早にシェーンは僕を引きずって屋台から離れていく。



「おおーい。熱いから気をつけて食べろよー!

 一気に口に入れると火傷するからな‼」



 おじ・・・お兄さんがそう叫んでいた。



 僕たちはベンチに座った。



「ねぇ、なんで本当のこと言おうとしたのに邪魔したの?」



「ああいう時は別に訂正しなくてもいいのよ。それとも、私が姉なのは嫌?」



「別に、そんなことはないよ。」



 僕は本心を答えた。



「そ、そう。ビス、あなたたまにそういうところあるわよね。」



 シェーンは耳を真っ赤にしていた。そういうところってなんだろう。



「それより、冷めちゃうわ。早く食べましょう。」



 シェーンは大きい口を開けて、食べようとしていた。



「あっ。ちょっと待って。さっきお兄さんが一気に食べると、」



 僕の言葉は遅かった。



「熱っ⁉」



「火傷するって言ってたよ。」



 シェーンは口をパクパクして冷やしていた。

 僕はたこ焼きを半分に切って食べた。



「んー。美味しい。」



 外がカリッ、中はトロッとしていて絶妙に美味しい。

 それにタコから塩味とうまみがでていて美味しい。

 あの見た目からは考えられない。



 たこ焼きを味わっているとシェーンに怒られてしまう。



「ちょっと、なんであなただけ無事なのよ。」



「お兄さんの言っていることを聞かないシェーンが悪いんだよ。」



「ぐぬぬ。」



 初めてシェーンから一本とれた気がした。



「ほら、これ冷めてると思うから、はい。」



 さっき半分に割ったたこ焼きをシェーンの口に持って行く。

 ただ、シェーンは口を開けてくれない。



「早く食べてよ。腕が疲れる。」



「わ、わかったわよ。」



 そういうと、躊躇いながらもパクっと口にした。



「あなた、わざとやってるの。さっきの仕返しに。」



 僕はたこ焼きを口にしていた。



「ふぇ?ふぁに?」



「いえ、何でもないわ。あなたはそんなに器用じゃないものね。」



 シェーンが一人で納得している。なんだかモヤモヤする。

 今度はシェーンがたこ焼きを僕の口元に持ってくる。

 半分に切ってないたこ焼きを。



「ビス。あーん。」



 なんだか恥ずかしいのと同時に湯気がたっているたこ焼きに

 恐怖を感じて口を閉ざしていた。

 そうしていると、シェーンは無理矢理口にねじ込んできた。

 唇に熱さを感じ、口を開けてしまう。



「熱っ‼ひうぶぉいよ、ふぇぇん‼」



 僕は口をパクパクしながら抗議した。

 それなのにシェーンは大笑いしている。ひどいや。





 そのあとも僕らは屋台を回っていろんな食べ物を食べた。

 ”焼きそば””ケバブ””胡椒餅”“ホットドック”“エンパナーダ”“フォー””クレープ”

 いろんなものを食べた。売っているのは、様々な種族の人たちだった。



「ふぅ。ちょっと食べ過ぎたかしら。」



 全部シェーンと半分こにして食べたが、それでもお腹は膨れていた。



「もう、食べられないよ。」



「そうね。今度は買い物をしましょ。」



「えー。まだ回るの?」



 正直、足が重くなっていた。



「当たり前よ。」



 シェーンはスタスタ進んでしまう。今度は服を見る。



 シェーンは二つ服をとって「どっちがいいかしら」と聞いてくる。

 僕はどっちでもいいじゃないかと思いつつも、右の方を選ぶ。

 けど、シェーンは「うーん」と考え込んで左を選んで買っていった。

 聞いた意味は?と思ってしまう。



 その次は本、といった形でいろいろなお店をみて回った。


 何店舗も回ってその繰り返しだった。

 僕は疲れたので、シェーンの隙を見てベンチで休んだ。






 日が暮れ始めてきた頃、シェーンが僕の前に現れた。



「あっ。ここにいた。探したじゃない。」



「ごめん。ちょっと疲れちゃって。」



「急にいなくならないでよ。心配するじゃない。」



 シェーンは寂しそうな表情をしていた。徐に袋を差し出してきた。



「これ、あげるわ。その・・・今日のお礼よ。

 無理矢理引っ張ってきちゃったし。」



 僕は袋を開ける。そこには、ブレスレットが入っていた。僕は右手首につけた。



「似合ってるかな?」



「私が選んだのよ。当然じゃない。」



 シェーンが何かもじもじしていた。



「ビス。今日は本当にごめんなさい。私むしゃくしゃしていたの。

発散したかった。付き合わせてごめんなさい。」



 シェーンは深々と頭を下げた。



「ううん。僕も楽しかったし。それと・・・」



 僕は思ったことを口にした。



「僕は謝ってるシェーンなんて、見たくないな。」



「何よ。人がせっかく誤ってるのに。」



 下を向いていてシェーンの表情が見られない。



 徐に、シェーンは顔をあげた。





「ありがとう。ビス。」





 夕陽に照らされているシェーンの無邪気な笑顔は、僕の心に焼き付けられた。


シェーンはすぐに身を翻して「ほら、帰るわよ。」と言って先に行ってしまう。




荷物を置いて。



「ちょ、ちょっと待ってよ。一人じゃこれ持ちきれないよ。」

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