第21話 ツァール王との出会い



 どれぐらい歩いただろう。足が鉛のように重くなる。



「大丈夫か。もう少しで着くからもうちょっと頑張れ。」



 ディグニに声をかけられる。

 ”だらしないわね!”なんて声が飛んでくると思ったけど、そんなことはなかった。

 それが不気味で仕方ない。



 ディグニは時々後ろの様子を確認してくるし、

 クラフトは何だかソワソワしていた。



「シェーン様。もうちょっと抑える努力をしてください。」



 ペルがとうとう触れてはいけないものに触れた。

 それも、ストレートしかも剛速球で。



「え?何のこと?私何かしたかしら。」



 ペルの言葉に覚えがないのかシェーンはキョトンとしている。



「はあ、シェーン様足は大丈夫ですか?」



「え、ええ。まだ歩けるわ。ねぇ、それより、さっきの言葉は何だったの?」



「さっきの言葉とは何ですか?」



 ペルが分かりやすくとぼけている。意地でも答えないつもりらしい。



「ぐぬぬぬぬ!もういいわ。こうなったら絶対話してくれないんだから。」



 二人にとってはよくあることなのだろうか。

 シェーンはすぐに食い下がっていた。

 それにさっきまでの雰囲気は和らいでいた。







 城門に人影が見えた。その人は、大きく手を振って近寄ってくる。



「おおーい!」



「ツァール兄様は、もう。

 王様自ら出向かいにきてどうするのよ。それにあの大声。」



 シェーンは愚痴っていた。



「お久しぶりです。ツァール様。」



「おお、ディグニ。よく来てくれた。おっ。君がビス君だな。宜しくな。」



 ツァールの勢いに押されてしまう。



「う、うん。宜しく。」



 そのあと、ツァールはみんなに一言ずつ声をかけていた。



「おお、クラフト。家族には挨拶できたか?」



「はい。充分に。」



「そうか。それは良かった。

 早くお前の家族がこっちに来られるように俺も努力するよ。」



「ペルフェットも見ない間にまた一段と綺麗になったなぁ。嫁に来ないか。」



「御冗談を。でも、ありがとうございます。お世辞でも嬉しいですよ。

 ・・・あっ、それと嫁になることは丁重にお断りします。

 私には心に決めた方がいますから。ふふふ」



「あははは。そうであったな。残念だよ。」



「シェーンもよく来てくれたな。道中疲れただろう。」



「そうなんです。ツァール兄様。

 足が鉛のように重くなってしまって。どこかで休憩したいですわ。」



「そ、そうだな。とりあえず城の中に入ろう。こっちだ。」



 シェーンの言葉を聞いて、ツァールは僕たちを城の中へと案内する。

 気さくな人だな、と思うと同時に、

 モーヴェ王国の王様とは全然違うなと思ってしまう。







 ツァールに客室に案内される。



「疲れているところ済まなかったな。ここで休憩してくれ。」



 部屋は、僕とディグニ。シェーンとペル。クラフト。の三つに分かれた。



「ツァール兄様。二人で少々お話がしたいのですが、宜しいですか。」



「ああ、それはもちろん。いいが、足はいいのか?」



「ええ、もう治りましたわ。」



「そ、そうか。じゃあ私の部屋で話そうか。」



 シェーンはツァールのあとを着いて行った。



「先を越されてしまったか。」



「まあ、いいじゃないか。兄妹で積る話もあるのだろう。

 俺は他の傭兵たちに挨拶に行くが、ディグニ。お前はどうする?」



「俺も着いて行きます。ちょっと探りたいこともありますし。」



 クラフトとディグニもいってしまった。この場に僕とペルしかいない。

 ペルは何かすることがあるのか部屋に入ろうとしている。

 僕はペルは呼び止めた。聞くなら今しかないと思ったからだ。



「ペル、ちょっと待って。」



 ペルは足を止めてこちらに向きなおる。



「どうかしましたか?ビス様。」



「あの、その、城門で言ってたその・・・」



 ペルは屈んでこっちをじっと見てくる。



「・・・心に決めた相手って誰?」



 意をけっして僕はペルに聞いた。



「ああ、そのことですか。それは・・・ふふ。内緒です。」



 人差し指を口に当ててそう言った。






 いつの間にかペルは部屋に入っていて、

 廊下には僕以外だれもいなくなっていた。

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