第一部
第1章 "出会い"と
第1話 出会い
ここはうっそうと木々が生い茂るプロウバの森。俺は仕事が休みだったので久しぶりにここに来たのだ。ここは動植物が多種多様で静かに時が流れる場所。のはずだった。
俺は今それに似つかわない状況に陥っているのだ。何者かに襲われこの場所で金属音を立てしまっている。
キンッキンッ
俺と相対している者は、フードを深く被って素顔が見られない。
「くっ。何者だ。なぜ襲ってくる。」
それに対する返事は戻ってこない。
「強すぎる。今の俺では敵わなそうだ。まあ、装備がしっかりしていても敵うかわからないが。一旦引くか。」
距離をとり煙幕をフードの奴に投げつけ、即座に振り返り全速力でかけた。風景が一向に変わらないのが辛い。本当に進んでいるのだろうかと不安に思ってしまう。
「はあ、はあ、そろそろ撒けたか。」
奴の気配が消えたことに安堵し、スピードを落とす。額から大粒の汗がドッと吹き出す。空を仰ぎ呼吸を整える。
「はあ、しかしあいつは何者だったんだ。俺誰かに恨みでも買ったかな。」
心当たりがないわけではないが、いままで散々やってきている。考えるだけ無駄だろう。それにあの強さがあるのにこれくらいで撒けるとは思えない。注意して進なければ。
「はあ、災難な休みになった。ここで襲われるとは、厄介なことになった。これは報告しなければいけないな。」
溜息が止まらない。
「それにしても、喉が渇いた。」
水筒をもってきてはいたが、訓練中にすべて飲み切ってしまっている。しばらく歩くと水音が聴こえてくる。ようやく水にありつけそうだ。
「近くに川がありそうだ。行ってみよう。」
水音を頼りに進むと、そこには、木漏れ日が差し込む拓けた場所があった。川があるかどうか下に視線を向けると小川のすぐそばに少年が倒れている。俺は自然と少年へと駆けていた。
「おい、大丈夫か‼」
少年のもとへ辿り着いた時しまったと思った。気が緩んでいたらしい。少年から少し距離をとり様子を窺う。しかし、少年は起きるどころか武器すら何も持っていない。それに、周りに奴の気配はない。
少し安堵したが、気を緩めずに少年の脈を確認する。少年の心臓は正常に動いている。
「よかった。」
ただずっとここにいるのはまずい。少年を担ぎ森の出口を目指した。
「はあ、息抜きがてら訓練にきたのに、全然気が休まらないな。」
俺の声は、届いただろうか。
――――――――――――
「おっ。目が覚めたか。」
パチパチと木が弾ける心地いい音といい香りがお腹をくすぐる。ゆっくりと身体を起こす。目の前には、三十代前半ぐらいの男が座っていた。
「………」
起きたばかりで声がうまく出ない。男は眉をひそめ、顎を撫でている。
「まあ、起きたばかりで声が出ないか。ゆっくりでいいぞ。焦らなくていい。」
ゆっくりと諭すような口調で男はそう言った。
「まずこれでも食って精をつけろ。まあ、ありもんで作ったから質素なもんだが。」
焚火でお粥をつくっていたらしい。恐る恐る口にした。
「………美味しい。」
か細く声が出た。いつの間にか空になったお椀を前に出していた。
「はっはっは。誰も盗ったりしないからゆっくり食べろ。」
彼はそういいながら、お粥をわけてくれた。顔の温度が上がるのを感じ、下を向く。
「ありがとう。」
「おう、どういたしまして。」
お粥も食べを終え、男は話を切り出した。僕は身を固くする。
「俺は、ディグニ・ダット。モーヴェ王国で傭兵をやっている。今日は仕事が休みだったからそこのプロウバの森で休息がてら訓練をしてたんだ。そしたら、君が倒れていた。なにがあったんだ?」
「………ごめんなさい。名前以外何も覚えていないんだ。」
ちらっと彼の方を見たが、表情はあまり変わっていなかった。表情が読めず息を飲んだ。一呼吸おいて彼は言葉を発した。
「まだ、混乱しているのかもしれないな。そのうち思い出すだろう。とりあえず名前だけでも教えてくれるか。」
どことなく上の空の様な感じがした。
「ビス」
「ビスか。いい名前だな。」
社交辞令とわかっていても悪い感じはしない。その後、ディグニが仕事の話を聞かせてくれた。自慢話じみていたが、きいていて飽きなかったし、苦痛でもなかった。彼の話を聞いているうちに日が昇っている。
「もう朝か。少し横になったら、モーヴェ王国に向かおう。さすがに距離があるからな。」
そういうと彼は、寝袋を取り出し、横になる。辺りは静かになり、焚火の音さえもしなくなった。
なぜだろう。暖かいはずなのに。明るいはずなのに。洞窟の中、ポツンと一人立っているような感覚に襲われた。
――――――――――
辺りに光が満遍なくあたり始める。時間にしたら二,三時間ぐらいたったのだろうか。ドタドタ音がする。ディグニが起きたのだろう。僕も起き上がる。
「おはよう。ここら辺を片付けたら出発するからちょっと待っててくれ。」
「うん。」と返事をする。手持無沙汰でいると岩陰の向こうに黒馬がいる。こんなに近くにいたのに気付かなかった。恐る恐る近づく。
黒馬はこっちをじっと見ている。興奮している様子はしないし、触っても大丈夫だろう。頭を撫でようとした時ちょっとピクッと動いたがそのあとは鼻を伸ばすような動きをしている。驚いたことに黒馬は近づいてきてと頬擦りしてきた。
「うわっ。や、やめろよ。はははっ」
沈みきっていた心が少し安らいだ感じがする。
「すごいな。」片付けが終わったのかいつの間にかディグニが側に来ていた。
「こいつは大人しくて扱いやすいんだが、こういう風に感情を表に出すようなタイプじゃないんだよ。」
「これってどういう意味があるの?」
「んっ。ああ。お前に甘えたいみたいだぞ。」
ディグニはニヤっと笑う。なんだかディグニの笑いは気になったが、単純に馬の行動はうれしかった。
「さあ、いくか。早くしないと王国に着くまでに日が暮れちまう。」
そういうと、ディグニは馬にまたがり僕をひきあげた。
「寄らないといけないところもあるし、ちょっと飛ばすぞ。」
黒馬が草原を駆けていく。風が気持ちいい。風景が瞬く間に変わっていく。田んぼや、畑川。雲すらも形を変え流れいく。途中ある村に寄った。ただ僕は黒馬と少し離れたところでお留守番をした。黒馬とじゃれあっていると何かを持ってディグニが戻ってきた。
「それ何?」
「これか。サンドウィッチだ。お腹すいただろう。」
話しを聞くとどうやら、ディグニは昨晩この村に泊まるはずだったらしい。それを謝りに行っていたみたいだ。宿屋の人は、そんなこと気にしていなかったようで、むしろ「昼食に。」とこのサンドウィッチをくれたらしい。
なにが入っているかわからなかったので恐る恐る口にした。結論から言うと美味しかった。シャキシャキという触感、お肉だろうか塩味がちょうどよくて野菜のみずみずしさとマッチしている。
またディグニに「ゆっくり食べろ。」と言われてしまった。恥ずかしい。食べ終わったらすぐに出発した。食べたばかりだからだろうか。さっきより速度が遅い。馬の揺れが心地よい。
わざとしているのだろうか。眠気が襲ってくる。ディグニが何か言っている気がしたが、声が音が遠のいていく。
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