第2章

第13話 流星を超える決意

 八大大会制覇。

 それが、どれだけ困難なことかは、競技会の歴史が証明している。

 長い歴史を持つ騎獣競技会において、アドマイヤーだけが達成した無敗での八冠は、ほとんど伝説か、もしくは神話に等しい。

 アドマイヤー以外に七冠以上を達成した騎獣は無く。無敗で競技を終えた騎獣もまた、アドマイヤーの他には存在しない。

 ゴルトンディアマントが一昨年、四十六年ぶりの六冠騎獣となったことは歴史的な快挙であり、三年ぶりの優先繫殖枠ファストクロップ選定騎獣となったことも記憶に新しい。

 近年ひたすらに騎獣戦力の増強を求める軍の方針は、確実に優先繫殖枠の選定基準を厳しくしている。

 シェイクテイルを優先繁殖枠に選定させるには、六冠取得が現実的な最低ラインと言えるだろうが、獲れるなら獲れるだけ獲った方が、選出される可能性が高まるのは間違いない。

 アドマイヤーが残した伝説を、俺とシェイクテイルでなぞるのが理想的だ。

 容易に叶うことではない、と理解はしている。

 しかし、再び辛い思いをしたくないならば、やるしかない。

 幸い運はある。

 シェイクテイルは、そもそもがアドマイヤーを目指した騎獣であり、幸運にも両親から受け継いだ優れた身体能力と学習能力の高さは、レイオン種に期待できる限界値に近い。

 わずかに気性難の気配があるものの、シェイクテイルの能力自体に不足がないことは、およそ一年半の調教で確信を得るに至った。

 そして、来年再来年のことは不確かだが、現段階でアドマイヤブラウンにとってのゴルトンディアマントのような強敵がないということも、良いめぐり合わせ、という奴だろう。

 なによりもアドマイヤー驚異的な者の再来と思わずにいられないシェイクテイルの特異な能力の発現が、俺に八冠は伝説や神話の類ではなく実際に成し遂げ得るという自信をもたらしてくれた。

 問題は、この幸運を逃さないだけの実力が、俺というトレーナーに備わっているか。という点だけ。

 泣くほど辛い別れは、もうたくさんだ。

 俺は、俺とシェイクテイルの幸福のために、勝つしかない。

 トレーナーにできることは、騎獣を鍛えることだけなのだから。

 俺は、それくらいのことは、できなければならない。

 そのくらいのことができる一人前のトレーナーだと、やがて兵役を終え牧場に帰って来るアドマイヤブラウンに胸を張って言える男に、俺はならなければならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る