ホームランとチャーシュー麺

長月 有樹

第1話

「ホームランを打つから俺と付き合ってくれ」


 吉野くんは、すんごい一方的な発言をしてくる。野球部の4番打者、甲子園の切符をかけた決勝前にそう私に告白した。


 ふぇ?ふぇぇぇえと私なりに可愛くみえるようなあざとすぎるような。そんな反応をした、そして頬もこれでとかばかりに赤くした。真っ赤。


 事実、私は吉野くんが好きだった。そして吉野くんは私なんか好きじゃ無いと思ってた。ヤボったさ全開。お洒落でなく、それが本当に必要だからしている大きいレンズの丸めがね。イラスト部(美術部は別である)のオタクであった私。そんな私にとって吉野くんは真逆のような存在。海底から富士山の頂上くらいの高度があるみたいな。そんな遠い関係だと思ってた。


 だからホームランなんざ関係なく、私は吉野くんと付き合いたかった。けれどもそれを言うのが怖かった。だから彼のホームランに私の想いを託した。


 結果、ホームランを打つ打たないの話ではないくらいに私の高校は、ボロ負けした。コレが決勝なの?て思うくらいの完敗。それを私は学校総出で応援に駆り出されたアルプススタンドで眺めてた。


 けど、私の事を好きだから告白した。それならまた吉野くんが告白しに来てくれると思ったら、結局彼は来なかった。どころかあれから何の接点も無く、私の恋は終わった。何よこれと思いながら終わってしまった。アーメン。


 それから数年後。正確には大学三年生に私はなった(ちなみに浪人してます)。私はラーメン同好会に入った。ラーメンが好きだからだ。活動内容はおいしいラーメンを食べる、あるいは作る。そしてソレを共有し、あるいはSNSで拡散する。それだけのサークルであり、それだけが楽しく、私の青春だった。


  そこで吉野くんと再開した。


「美味しいチャーシュー麺を作るから俺と付き合ってくれ」


 彼は高校よりもかなりダサめな状況でまた同じ事を繰り返そうとしていた。


「ならふたりで作ろう。二人でならきっと美味しいチャーシュー麺を作れるよ。吉野くんがスープと麺を、私がチャーシューを」


 ホームランはふたりでできない。けれどもふたりでなら美味しいチャーシュー麺を作れる。今度こそ逃がさない、私の恋。


 私は吉野くんと結ばれた。そしてふたりで作ったチャーシュー麺は大して美味しくなかった。けれども最高に美味しいね!とチャーシュー麺に口をつけて即、顔が曇った吉野くんをねじ込んだ。黙らした。結ばれた。


 ホームランとかチャーシュー麺とかに私の好きは邪魔されたくなかった。ラーメン。

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ホームランとチャーシュー麺 長月 有樹 @fukulama

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