弱き者〜されど無敗〜
立鳥 跡
プロローグ
ある王国の辺境の村に一人の赤ん坊が生まれました。
赤ん坊の名前はジャン。
羊飼いの家に生まれた男の子です。
生まれた時から牧羊犬のアルフや飼い猫のミー、それに羊達に囲まれていたジャンは当然のように動物が大好きな男の子に育ちました。
現在の年齢は七歳。
ジャンは既に羊飼いとして働いています。
貴族の子供はともかく、平民の生まれの子供はジャンと同じく働いている者が多いのがこのフェルンという世界の当たり前です。
今日もジャンは楽しそうに羊飼いとして働いています。
羊を放牧している間、羊小屋の掃除をしていると、牧羊犬のアルフがやって来ました。
ですが、牧羊犬のアルフはいつもと様子が違います。
おかしい事に気付いたジャンはアルフに近付こうとすると、アルフを外に駆けていきます。
不思議に思いながら追いかけると、アルフは立ち止まり、ジャンを見ています。
ジャンがアルフに追いつきそうになると、また走り出します。
どうやらジャンを何処かに連れていきたいようです。
ジャンもアルフの意図に気付き、アルフを追いかけます。
山岳地域の放牧地を抜け、アルフは山の中に入っていきます。
父親に、「山の中はモンスターが出て危ないから絶対に入るな」と言われていたジャンは一瞬躊躇いますが、アルフの必死な様子を見て山の中に入りました。
山に入って数分後。
茂みを掻き分けた先でアルフは待っていましました。
同時にアルフがここに連れてきた理由も分かりました。
アルフのすぐ側に今にも死にそうな黒い毛並みの仔猫が居たのです。
アルフは心配そうに仔猫を舐めています。
ジャンが仔猫に近付くと、仔猫は力を振り絞って警戒の鳴き声をあげました。
「大丈夫。何も怖くないよ」
怯える仔猫に優しく声をかけながら近付きます。
優しい声色に安心したのか仔猫は鳴くのを止めました。
ジャンは仔猫を優しく抱き上げ、仔猫に語りかけます。
「もう大丈夫だからね」
ジャンは仔猫を大事そうに抱きながら家へと戻ります。
羊飼いの仕事を放棄して戻って来た息子を母ミティアは怒ろうとしましたが、ジャンが大事そうに抱えている仔猫を見て、怒るのを止めます。
ミティアはパン籠に毛布敷き詰め、そこに仔猫を寝かせるようにジャンに言いました。
ジャンは仔猫をパン籠に寝かせて、瓶を持って外に出ます。
ジャンが向かったのは放牧地。
雌の羊を見つけると、乳を搾り、瓶の中に貯めていきます。
羊乳が貯まると家に急いで戻り、深い皿に羊乳を移して、仔猫に与えます。
しかし、仔猫は飲みません。
ジャンは指に羊乳を付けて、仔猫の口元へと近付けます。
すると鼻をヒクヒク動かした後、ペロペロと仔猫はジャンの指を舐めました。
ジャンは喜び、何度も羊乳を指に付けて仔猫の口元へと運びます。
仔猫はひとしきり羊乳を舐めた後、眠りにつきました。
仔猫の様子を見て安心したジャンは羊飼いの仕事に戻ります。
それからジャンが甲斐甲斐しくお世話をしたおかげもあって仔猫は元気になりました。
仔猫は命の恩人だと分かっているのかジャンに一番懐いています。
飼い猫のミーはジャンにそこまで懐いていないのでジャンは嬉しそうに仔猫のお世話をします。
父ゼルゴと母ミティアの許可を貰い、仔猫を飼う事になりました。
仔猫の名前はキュート。
かわいいからキュートと名付けた仔猫をジャンは弟の様に可愛がります。
キュートもジャンにべったりくっついて離れません。
ジャン意外にはやんちゃなキュートは、よくアルフやミーにちょっかいをかけます。
しかし、牧羊犬のアルフや飼い猫のミーは、キュートに何をされても怒りません。
実はジャンが助けたのは只の猫ではなく、猫の妖精や猫の貴族と呼ばれているケットシーでした。
なのでアルフやミーは、上位存在であるキュートには逆らえないのでした。
しかし、見た目は只の猫にしか見えないので、ジャンは知るよしもありません。
キュートが来て半年経った頃、キュートが人語を話し、二足歩行し始めて、初めてキュートが只の猫ではないと気付いたジャンとゼルゴとミティア。
父ゼルゴは人語を話し、二足歩行をする姿を見てケットシーだとすぐに気付き、ジャンに教えます。
ですが、ジャンは今まで通り弟の様に可愛がります。
その姿を見て、逃がした方がいいかもしれないと考えていたゼルゴとミティアはその考えを無かった事にしました。
キュートはジャンに可愛がられながら元気に成長していきます。
この出会いがジャンを英雄の道へと誘っていくのですが、それはまだ誰も知らないお話。
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