時間と期限 92日目(season2)

 冷気を纏った白い空気が、今日も秋の空を覆っている。

 日に日に凍てつく風にさらされながら歩く通学路に身を震わせ、今日も学生らしく勉学に励む一日になろうとしていた。


「詩乃、おはよ!」

「おはよ」


 寒さに気が滅入りながら歩いていると、いつもと変わらない一葉の元気な声が背後から響き、私の隣まで全力で駆けてくる。

 昨夜あれだけ鬱々とした雰囲気でいたのに、一晩眠ればもう活力がみなぎっていた。


 まるで、小さい子供みたいだな。


 ここ数日の表情は少し新鮮ではあったけれど、やはり彼女にはこの方が合っている。

 時々うるさいと思う時もあるけれど、私の知る一葉に戻ってくれたことに妙な安心感を抱いていた。


「そういえばさ」


 合流して少し間を置いたところで、隣の友人から話題を切り出される。


「大学だけど、やっぱり詩乃と同じとこに行くことにしたよ」


 その言葉に引っ掛かりを覚え、今までの記憶を探り始める。

 


 ……私、一葉に志望校の話したっけ?



 今までのやり取りを掘り返しても思い当たる節はなく、代わりと言わんばかりにこの間の進路希望調査の用紙が脳内に浮かび上がっていた。


「ほんとは知ってたんだ、詩乃が医学部を目指してたこと。前に出してた進路希望の中身が見えちゃって、どれも医療系で有名なところだからもしかしたらそうなのかなって」


 分かっていて話していたことに今更罪悪感を覚えた彼女は、それ以上は何も話さず静かに私を見つめていた。

 不安げな眼差しを向けられても、昨日のこともあって怒ればいいのか呆れたらいいのか反応に困ってしまう。

 かといって沈黙を続けていても余計に空気を悪くするだけなので、何か言葉を探していた。


 そんな何とも言い難い時間を数分過ごして、彼女の前へ進み振り返る。


「………………好きにしたら」


 それだけ告げると、私は彼女を置いて先を歩き始める。

 身構えていた一葉は、私の台詞に一瞬ポカンとしていたが、意味を理解してからは私の隣目指して追いかけてきた。


「私、詩乃のそういうところ好きだな」


 満面の笑みで調子の良いことを云う彼女に、少し甘やかし過ぎたかなと思ってしまう。

 でも、それを許してしまう私も、相当甘いのかもしれない。


「ちょっとは真剣に考えなよ」


 言葉で釘を刺すが、効果がないのか明るい声が返ってくる。

 これからもこんなやり取りが続くとなると、まだまだ振り回されそうで気が滅入りそうだ。


 

 それと同じくらいこれからもこのやり取りが続くことに、胸が暖かくなるほどには期待を寄せていた。

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