姉と妹 42日目

 まだ朝日も昇りきらない早い時間に、停留所で一人バスが来るのを待っている。

 田園風景が広がる田舎よりは栄えているけど、私の知っている都会よりは明らかに人通りは少なく、見かけても高齢者がほとんどだった。

 そんな静かな場所なので、足をプラプラさせながらイヤホンで音楽を流し、小さく鼻唄を歌っていても誰にも怒られない。仮にクラスの誰かに見られても、一緒に歌おうと誘ってしまえるぐらいに今は機嫌が良かった。

 これから部活で遠征に出かけた後に、イベントへ参加するために夜行バスで移動してそこから二週間近くは身内の部屋に泊まることになる。その期間、両親は結婚記念旅行に出て一緒にいないので、気ままな一人旅に胸が躍っていた。

 


 楽しみに浮かれる私に、突如として諌める声がする。



 実際にいるわけではないのだが、記憶の中の姉が私に気を抜いたら駄目だと咎めている。

 その声に、怒られたとしても一番聞きたかった家族の声に何処か安心を得られていた。

 

「……お姉ぇ、今頃どうしてるかな?」


 スマホの写真フォルダの中から、半年前に隠し撮りをした姉の姿を表示して想いを馳せてみる。



 一見すると吊り上がった目つきが冷たい印象を与えるけれど、本当は誰よりも優しく不器用で、今も工場で立派に働いている。

 両親からの評判はあまり良くないけど、私にとっては誇れる家族の一人だった。


 そんな姉に、今週会いに行ける。

 定期的に顔を視ているとは言っても、やはり再会すると分かる日にはいつも気持ちが上向いていた。

 


 そうこう考えているうちに、停留所前の通りにバスが近づいてくる。

 まずは部活のために一旦学校に行って、二年生最後の大会に精を出すところから今日は初めて行かないといけない。

 開くバスの自動扉を前に楽しみを抑えて、車内へ勢いよく乗り込んでから今日という青春の一ページを華々しく彩るために、ぼんやりと座るお爺ちゃん達に混ざって一人気合を入れ直していた。

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