明日も、また君に会えたら
さぬかいと
出会いと再会 1日目
無理やりに押し込まれた車内で、人に押し潰されないように両足で踏ん張りながら時々来る電車の揺れに耐えて、会社の最寄り駅に着くのを待つ。
密集した中で息苦しく感じているとようやくアナウンスが流れ、自動扉が開くのと同じタイミングで乗客のほとんどが駅の改札口へと流れ出していた。
その勢いに乗りながら、私も急いで外に出ようと走っていく。
昨日が日曜日なのもあって朝から漫画を読んだりしてだらけ倒し、ついつい夜更かしをしてしまった結果社会人二年目にして初の『遅刻』をしてしまいしそうになり、私は朝からずっと慌てふためいていたのだった。
通勤ラッシュにできる改札の列にやきもきしながら順番が回ってくるのを待ち、ようやく次で私が通れるところまで進む。
手際良く行こうと定期券を鞄から出そうと手を伸ばして——掌に掴んだのは影も形もない空気だけだった。
「あ、あれ?!」
咄嗟に声を張り上げてしまい周囲の注目を集めてしまうけれど、そんなことに構うことなく鞄の口を大きく開いて中身を確認する。
けれど、いつも使っている定期はどこにもなく、それが余計に焦りを生んでしまい冷や汗が溢れていた。
そうこうしている内に私の番が来たけれど物がないので通ることは出来ず、もたつく私に後ろから伝わるイライラに背筋が凍りそうだった。
このままではキリがない上に他の人の迷惑になるので、渋々列から外れてもう一度鞄をひっくり返してみる。
しかし、どれだけ探しても定期券が出てくることはなかった。
どうしよう。このままじゃ遅刻しちゃう。
「あの」
刻一刻と迫る時間の中で途方に暮れていた私に、突然声がかかる。
「もしかして、探しているのってこれですか?」
作業服に身を包んだ女性が差し出してくれたのは、今まさに探している物だった。
「あ……ありがとうございます! これ、何処で?」
「私、あなたの後ろにいたんですけど降りる時に落としてましたよ。追いかけようにもすぐにいなくなってしまったのでどうしようかと思ったのですが、届けられてよかった」
爽やかに状況を話す姿に、思わず胸が大きく高鳴る。
成人した頃からこんな優しい人に出会うことなんてなかったので、助けてくれたのがすごく嬉しかった。
「じゃ、私はこれで」
用を済ませてしまった彼女は、それだけを告げると呼び止める間も無くそそくさと立ち去ってしまっていた。
名前、聞けなかった。
お礼もちゃんとしてない。
なんだか、申し訳ないな……。
早くなる脈を抑えるように手首を掴み、去っていた方角を眺める。
明日、また会えるかな。
そんな期待を胸に、再び改札へと向かう。
同じ電車にいたからまた会えると勝手に期待しながら、会社へ急いでいた。
その後、遅刻は免れたが今日はずっとあの人のことばかり考えてしまい、仕事が手についていないことを指摘され、結局上司には怒られてしまった。
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